民医連新聞

2014年6月16日

無低診を通して見えるもの《実態》 “いのちに国境はない” 日本の外国人をささえて 愛知・名南病院

 無料低額診療事業(無低診)にとりくんで見えてきたこと。シリーズ二回目は愛知発。名南病院(名古屋市、一三五床)では現在、無低診の利用者の約半数を外国人患者が占めています。相談を通じて、在日外国人を取り巻く厳しい状況を知りました。(木下直子記者)

 名南病院では二〇一一年一〇月に無低診を始めました。三年目の現在、相談も利用も年々増えています。中でも目立つのが外国人です()。アジアや南米、アフリカと国籍はさまざまですが、その人たちに共通するのは、有効なビザ(在留資格)を持たないオーバーステイ外国人、いわゆる不法滞在者だということです。
 「『不法』なのだから困っても自己責任、という見方もあるかもしれません。でも、それでは片付けられない実態があると思う」と、同院のSW・堀内香奈さん。

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■在留資格のない外国人

 例えば、外国人支援NPOの紹介で来院したAさんの場合。胆のう結石の激しい痛みを訴えて いました。母国の政変で弾圧を逃れて日本に来たものの難民申請が却下され、長崎の入国管理局(入管)の収容所へ。収容中に発病して「仮放免」として施設を 出され、知人のいる愛知へ来ていました。
 在留資格のない外国人は、公的医療保険には入れず、無保険です。また就労を禁じられていますが、困窮しても頼れる制度は皆無に近い状況。名古屋市に相談 しても「命に関わらない」との判断、生活保護の対象にもされていないのです。生活費や医療費の支援を行う難民支援事業部=RHQ(外務省管轄)にも申請し ましたが却下。入管は「出所後は関与しない」と。病気になると、治療の保障もせず収容所を追い出す対応に、堀内さんたちは驚きました。
 さいわい、その後Aさんの病状は安定し、手術せず経過観察することに。現在は、難民申請却下の取り消しを求めて係争中です。

■相談する先もなく

 病気を理由に収容所から出されたケースはAさんの他にもありました。相談に来た外国人の記録をみると、悪性腫瘍やぜん息、糖尿病など継続的な治療が必要な病名も目立ちます。相談者には乳幼児も。また県外からも来ています。
 そもそも愛知県内で無低診を行う事業所は名古屋市の五カ所だけ。さらに外国人は対象外にしていたり、外来治療に限定するなど、受け入れ先はより狭くなっ ています。関東の一部自治体が行っているような外国人の救急医療費を補てんする制度が国としてあれば、少しは違うのではないか、と堀内さんたちは考えてい ます。
 「無低診を始めなければ、知りえなかった問題でした」とAさんの支援を担当した鷲野雅子さん。

■外国人労働者は“道具”に

 外国人医療センター(Medical Infomation Aichi:MICA)は、名南病院と連携するNPOの一つです。県内の外国人の健康相談や医療機関の紹介を行っています。「名南病院が無低診を始めると聞いて嬉しかった」と、スタッフの起橋美智子さん。
 「生活全体の相談が必要な外国人が増えています。『日本人は好きだが日本は嫌い』と彼らは言います。もし私が彼らの立場なら、同じことを言います。外国人は道具のような扱いですから」。
 日本には現在、七一万人を超える外国人労働者がいます(今年一月発表)。外国人は工場などでの単純労働が禁じられていますが、日系人はその規制外のた め、大半が工場の派遣労働者です。リーマンショックでは大量解雇されました。また労働者には数えられていませんが「研修生」と呼ばれる外国人もおり、多く が日本人がやらない厳しい仕事に就いています。
 起橋さんはこんなケースに関わりました。レールの製造工場で朝八時から夜八時まで働いていたミャンマー人です。時給は三〇〇円。「寮」は会社の敷地内に 置いたコンテナでした。重い鉄を扱う苛酷な仕事を何年も続け、心臓病で倒れました。命はとりとめましたが、手術や入院費用で数百万円の借金が残りました (研修生の脱走事件などを機に、現在は最賃以下で働かせることは禁止)。

■知ったからには

 「都合の良い時に使われ、いらなくなれば放り出される。社会のひずみは弱い人たちに集中しますが、その一端が外国人なのだと思います」と、鷲野さん。
 医療保険に入れない外国人をこの先どこまで支援できるか、病院側には悩みもあります。「私たちが直面しているのは、いち民間医療機関のがんばりでは解決 できない問題」とSWの阿部仁美さん。「でも命に国境はない。知った以上はささえます。民医連の仲間たちにこの実態を発信しながら、NPOや弁護士など支 援者とのネットワークを強めて、運動を広げていきたい」。


 無料低額診療事業…「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」。社会福 祉法(第二条第三項第九号)に基づき医療機関が行える第二種社会福祉事業。県知事の認可で実施できる。全国で実施している事業所全体の六割が民医連で、二 〇一二年度はのべ二三万六〇〇〇人が利用した。

(民医連新聞 第1574号 2014年6月16日)

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