民医連新聞

2014年6月16日

相談室日誌 連載372 「労働衛生外来」で相談にかかわって― 松浦翔平(福岡)

 Aさんは、若い頃に従事した解体業で石綿に曝露し、肺がんで治療が必要になった七九歳の女性です。一〇代前半から農業や炭鉱労働、二〇代から解体業に従 事、六〇代で家政婦になり七〇歳まで働き続けました。「体が動く限り働いた。お金になる事は何でもやった」と話し、おしゃれで明るく、社交性のある人でし た。
 仕事と病気の関係性を調べる「労働衛生外来」でAさんと関わりました。肺がんと仕事との関連が非常に高いという診断が出た日、労災申請をすすめると、同 意されました。「若い頃からあれだけ働いたのに、年を取ると食べていけなかった」とAさん。従事していた仕事で年金をかけてもらえるようなものはなく、無 年金で生活保護を受給していました。
 労災が認定される可能性は、半々くらいでした。申請が妥当かどうか悩みました。生活保護なら医療費の心配はありませんが、労災が給付され、生活保護を外 れれば、医療費の自己負担が発生し、医療を受けるほど負担も増えます。労災認定が下りても、月々の給付金が本人の生活保護基準を少し上回る程度であれば、 かえって本人の負担が増えてしまいます。
 労災の給付額は現役時代の収入を現在の水準に置き換えて割り出されます。Aさんから当時の給与を詳しく聞き取り、労働基準監督署と綿密に打ち合わせながら申請。約一年後に労災が認定されました。
 幸い労災の給付額は、生活保護基準を大きく上回り、医療費が増えても十分賄えるほどでした。しかし、給付内容は休業補償(療養のため働けず給料をもらえ ない場合の補償)で、期待していた傷病補償年金(けがや病気の場合に年金の形式で支給)ではありませんでした。
 休業補償は、通院療養を継続しているかどうかの「現況届」を毎月出す必要がありますが、炭鉱労働や解体作業で手を酷使したAさんは、うまく文字が書けま せん。デイサービスや訪問介護などの介護保険を利用し、生活している高齢者に、なぜ休業補償給付なのか、と矛盾を感じます。労災保険には手続きや内容の複 雑さ、他の制度との関係など多くの課題があります。

(民医連新聞 第1574号 2014年6月16日)

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