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ニュース・プレスリリース

第33期第1回評議員会方針

1998年8月23日
全日本民医連第1回評議員会

はじめに

 「激変」の情勢の下で、「非営利・協同」「脱皮と転換」など二一世紀に向かう民医連運動の新たな方針を決定し、大きな成功をおさめた第三三回総会以降、私たちは学習・教育月間、各県連の総会、参院選など総会方針の具体化と実践につとめてきました。
 「気になる患者訪問」などの打って出るとりくみを通じて、総会方針の指摘した「国民・患者の苦難」をあらためて実感し、民医連の院所がそうした人々の「最後のよりどころ」として存在意義を発揮していることを確認してきました。
 今回の評議員会方針では、第一に、総会以降の情勢を確認し、秋以降のたたかいの方向を決めること。第二に、民医連運動の脱皮と医療・経営構造の転換につ いて深めること。第三に、同仁会再建をはじめ、総会以降の主なとりくみと到達点を明らかにします。

第1章

深刻化する国民生活の苦難、自民党流「逆立ち政治」への国民の怒りと新たな運動のうねり

 総会方針は、「国民生活と医療経営の困難は増し、国民の怒りとたたかいが広がらざるを得ず」、「民医連などの自覚した社会勢力が国民の変化にみあって」 がんばるなら、「新しい日本を築く力」を「急速」に大きくできると指摘しました。参議院選挙はそのことを劇的に示し、二一世紀に新しい平和・福祉の日本を 切り開く重要な一歩が記されました。

(1)参議院選挙で示された大きな審判
◆新たな時代を切り開いた参議院選挙
 「消費税率を三%に戻せ!」「医療改悪を九月前に戻せ!」「公共事業に五〇兆円、社会保障に二〇兆円の「逆立ち政治」の流れを変えよう!」などを争点と した参議院選挙は、悪政を続ける自民党が惨敗し、国民が主人公の政治をめざした日本共産党が大躍進しました。
 有権者のきっぱりとした審判によって、橋本首相を辞任に追い込みました。国民一人一人の一票が政治を変え、民主主義の力が発揮されました。歴史が大きく動き、足早に新しい時代の一歩がはじまったことを実感できる結果でした。
 選挙を通して、小池晃全日本民医連理事をはじめ七名の民医連職員が候補者として「病人が患者になれない」実態を訴え、多くの職員が国民生活の苦難をまの あたりにし、革新の風を吹かす運動に積極的に参加しました。また、共同組織は各地で国政革新班会や世直し班会を開催し、新たな経験をつくり出しました。
 小池理事の当選は、医療や社会保障のたたかいでも、深く地域に根ざした私たちのとりくみを国会の場にこれまで以上に反映できる新たな条件をかちとることができました。
 選挙の結果は、国民の暮らしの苦境にまったく目もくれず、銀行やゼネコン応援の「景気対策」に固執した自民党政治にノーの意思表示をしたのです。自民党 の政権たらいまわしでことをすますことは許されません。衆議院をただちに解散し、国民の信を問うべきです。
 来るべき総選挙で、さらなる飛躍をかちとりましょう。同時に行われた東大阪市長選挙と市議会補欠選挙でも革新候補が勝利し、国保料が高く、国保証未交付がきわだって多かった東大阪市政が住民本位の市政に変わりはじめています。
 来年は一斉地方選挙です。ひきつづき政治革新に向けてとりくみ、新たな時代を切り開きましょう。
◆消費税率をもとに戻し、医療改悪前に戻す運動を
 参議院選挙でも最大の争点となりましたが、もっとも深刻な問題は、消費税五%への引き上げや医療保険法改悪で国民に九兆円もの負担を押しつけたことによって、不況が日に日に拡大していることです。
 企業倒産や自己破産件数が急増し、失業率が昨年から増大し続け、ついに九八年六月に四・三%(二八四万人)にも達しました。欧米なみの算定方法ではその二倍といわれています。
 一家の大黒柱である世帯主や、働きざかりの男性の失業率が上昇しているのが最近の特徴です。財界の幹部は「国際競争力に打ち勝つためには、八%も辞さ ず」と述べています。「経済生活問題」が原因の自殺者は、七年前の三倍になっています。
 しかし、自民党政府は、中小業者への国庫補助金はわずかに一八五八億円なのに、中小零細業者に貸し渋りを続ける銀行には三〇兆円もの税金を投入していま す。また、大手ゼネコンの借金棒引きを具体化し、無駄な公共事業にさらに莫大な税金を投入しようとしています。国民生活より大企業の利益を優先する、この 逆立ち政治では、今日の不況を打開できないことは明らかです。
 消費税をさしあたり三%に戻し、社会保障の充実で将来への不安をなくすなど国民生活の救済こそ、今日の深刻な不況から抜け出す基本的な筋道です。
◆新ガイドラインと核廃絶など平和問題
 参議院選挙後の臨時国会で、新ガイドライン関連三法案(周辺事態法案、自衛隊法改正案、有事の際の日米物品役務相互提供協定)の本格的な国会審議がはじ まります。これらの法律は、アメリカの戦争に自動的に日本をひきずりこみ、自衛隊はもちろん、医療従事者や医療機関をまっさきに戦争協力にかりたてるとい う、重大な憲法違反の法律です。
 すでに「新ガイドラインとその立法化に反対する国民連絡会」が結成され、従来にない幅広い団体や個人の参加で運動がはじまっています。
 インド、パキスタンのあいつぐ核実験の強行は、核戦争の発生の現実的危険性を増大させ、世界の平和を願う諸国民に大きな衝撃と不安を与えました。私たち は両国にたいしてきびしく抗議し、「今後核兵器の生産、配備をしないよう」要求し、核保有五大国にたいしては「核兵器保有の権利を現在の保有国だけの独占 的特権とするNPT(核拡散防止条約)体制は完全に破綻しており、期限をきっての核兵器廃絶を求める」要請書を送付しました。
 私たちは、民医連綱領で「人類の生命と健康を破壊する戦争政策に反対する」ことを宣言し、沖縄をはじめとする米軍基地撤去や核廃絶の運動にとりくんでき ました。共同組織とともに新ガイドライン関連三法案を廃案にさせるためにとりくみ、また原水禁世界大会など核兵器廃絶のためのとりくみを強めます。

(2)政府・財界がたくらむ医療・社会保障の改悪
◆財政構造改革法と医療・社会保障
 「国家リストラ計画」、すなわち医療や社会保障費の削減を第一のターゲットとする「財政構造改革法」が成立したのは昨年一一月でした。そして、昨年九月 の医療保険改悪に続いてことしの四・一診療報酬改定で、かつてない患者負担増と老人いじめ、医療機関つぶしを行ってきました。
 ところが、未曾有の不況によって、ことし五月に財政構造改革法は改正を余儀なくされました。この大失政は、通常ならば内閣総辞職となるものです。
 これにともない、九九年度に限って医療・社会保障の、いわゆるキャップ制が廃止されました。私たちのこれまでの運動の成果といえます。しかし、二〇〇〇 年に予定されている医療や年金の大改悪はそのまま実行し、九九年度も政府の文書では「二%のキャップ制は停止するが、社会保障費の増加額は財政構造改革法 の趣旨をふまえ、極力抑制するものとする」と書かれており、警戒を強め、ひきつづき医療の連続改悪を許さないたたかいが必要です。
 緊急課題として、保険医協会もすすめている「薬剤の患者負担などをもとに戻せ」などのたたかいをともにすすめていきましょう。
 いま、不況と国保法の改悪によって国保料の収納率が悪化し、資格証明書や短期保険証が急増しています。さらに一○月からはお年寄りの入院患者追い出しが いっそう強化されます(六カ月以上の入院点数の大幅切り下げ)。こうした問題を機敏に取り上げ、たたかっていかねばなりません。
◆九九年は医療・年金大改悪が焦点に
 政府・厚生省は、九七年の九・一改悪に続く医療抜本改悪(参照薬価制など)をことしの国会に出す予定でしたが、医療保険審議会がまとまらず、先送りにな りました。この背景に国民の怒りと私たちのたたかいがあります。厚生省は参照薬価制度の呼称を「保険償還額制度」と変えましたが、薬剤の差額制度・患者負 担強化という本質は変わりません。
 全日本民医連理事会は、薬価問題にたいする国民の側からの政策づくりが必要と考え、薬価プロジェクトをつくり検討を重ね、「有効性の保証」「安全性の保 証」「保険経済の適切な運用」の観点から、「企業本位の現行薬価制度のゆがみを正し、国民本位の薬価制度に改善する提案」を「民医連医療」誌八月号に発表 しています。今後、大いに民医連内外に論議を呼びかけていきます。
 小淵内閣が決定した九九年度概算要求基準では、社会保障関係費は前年度比三・八%増、五七〇〇億円で、自然増(六〇〇〇億円と見込む)すら上回らない予算であり、さらなる改悪を前提としています。
 政府・厚生省はその上に、九九年の通常国会をめざして、定率負担と新たな保険料の徴収を目的とした新老人医療保険制度の創設、健保本人三割負担、差額制 度の拡大、医療費抑制を目的とした定額制の導入、医療と介護の供給体制の再編成とベッド削減、保険医インターン制の導入など、医療の公共性を否定する重大 な問題を、さまざまな審議会で検討させています。急性期医療の定額制の実験がはじめられようとしています。
 さらに厚生省は、九九年の通常国会に掛け金を引き上げ、給付を切り下げる年金大改悪の法案も出すと明言しています。この改悪は積立金を増やして特別財政 投融資の財源とし、無駄な公共事業などにふりあてるためのものであり、絶対に認めるわけにはいきません。民医連としても年金問題の学習をすすめるなどとり くみを強めねばなりません。
 国民にとっても医療機関にとっても展望の見えない、営利市場化と財政対策のみを優先する政府・厚生省の道理のない場あたり的な施策に、従来保守的といわれた医師層の中でも大きな変化がおこっています。
 九九年の通常国会には医療、年金、福祉の改悪法案がごっそりまとまって出されようとしています。いまからしっかり準備し、参院選で生まれた新たな力関係を生かして、大改悪を阻止するたたかいをすすめます。
◆地域から「人権と非営利」をめざす共同の輪を
 参議院選挙の結果、自民党だけで法律を成立させることができなくなりました。この新しい条件を生かし、医師会にも働きかけ、幅広く医療、社会保障の改悪を阻止し、改善をかちとる運動をすすめていきます。
 そして、医療、介護、福祉、年金など私たちのいのちと暮らし、将来生活に切実な要求をまさに全国民的な運動にしていかなければなりません。それには地域で草の根からとりくみをすすめることです。
 県段階の社保協は四五県に達し、地域から「人権と非営利」をめざす地域社保協づくりが急速にすすんでいます。
 身近な要求から出発し、地方自治体で要求を実現し、その知恵と力を結集して、国に医療・社会保障の改善を迫っていく運動こそが政治を変える道すじです。 そのためにも、共同組織にあらたな役割を担ってもらい、労働組合と連携し、民医連の存在意義を地域の中でいっそう高めていこうではありませんか。

第2章

民医連運動の「脱皮」と医療・経営構造の「転換」をはかるために

 総会方針でうち出した民医連運動の「脱皮」と「転換」をかちとるとりくみは、いよいよ重要になってきています。このとりくみを共同組織の活動を新たな水準にしていくこと、地域の民主勢力との連携を強めていくことと結んですすめていかねばなりません。

(1)医療と介護制度の急激な変化に、どのようにたたかい、対応すべきか
◆介護保険導入にたいする私たちのとりくみ
 二○○○年の介護保険実施に向かって、民間会社などさまざまな事業主体がいっせいにとりくみを強めています。自治体も九八年中に計画づくりをしなければならず、私たちの介護分野のとりくみは急速に強めねばなりません。
 一方、「介護保険料が、自治体によって一六○○円から七○○○円と差が生まれる」「訪問看護ステーションが市町村レベルでは、まだ三割くらいしかつくら れていない」「利用料負担がたいへん」など、実施が迫るにつれて具体的な矛盾も明らかになってきました。サービス水準の確保、利用料と保険料の減免制度、 人権尊重の立場での認定など、自治体毎の現状と計画を具体的につかみ、共同組織とともに地域住民や各団体と共同し、住民の手で充実させていく運動をすすめ ましょう。
 すでに社保協を中心にしたキャラバンで、「現在の福祉水準は下げない」と約束させた自治体がいくつか生まれています。そして、充実した介護保険制度のた めに、政府・厚生省に九九年度の予算編成で社会保障費の大幅な増額を要求していきましょう。
 全日本民医連は、二六〇施設を超える訪問看護ステーションをはじめとして、約三万人の要介護老人の医療や介護にあたっています。この要介護老人を対象 に、一〇月から一一月の二カ月間、全国一斉に調査活動を行い、事実でもって政府・厚生省に要求を出し、地方自治体ごとにも要求項目をまとめ、具体的な改善 を迫っていく運動を提起します。
 すでに全日本民医連理事会では、老人医療福祉委員会や社保委員会、医療活動部などが協力し、プロジェクトチームを発足させ、研究者の協力も得て準備を開 始しています。県連や法人・院所でも担当者まかせにせず、プロジェクトチームをつくるなど、全職員の運動として成功させましょう。
◆介護・福祉分野の戦略づくりを急ごう
 二〇〇〇年の介護保険実施に向けて、「たたかい」とあわせて「対応」を急ぐ必要があります。
 療養型病床は、各民間病院のいち早い対応で、県によっては規制をかけはじめているところも生まれています。病院機能のあり方の検討、高齢者医療について の医師集団のかかわり方など、県連長計や医療構想にもかかわる問題であり、病院だけでなく、県連や法人段階での検討と政策づくりと対応が求められていま す。
 診療所でも、デイケアや訪問看護は介護保険の範疇に入り、今後、私たちの医療と福祉の実践のうえで相当な比重を介護保険がもつことになります。医療との関係など、突っ込んだ研究と対応が必要です。
 また、訪問看護ステーションのあり方、介護支援センターの獲得と役割、デイケアやデイサービスの設置、ケアマネージャー資格を取得する課題、ホームヘル パーの養成と「非営利・協同」の視点をもった事業展開など、対応すべき課題が山積しています。
 こうした施設体系づくりとあわせて、介護や福祉分野においても地域の中で民医連の存在意義を鮮明にし、地域住民との熱い信頼関係を築くことが大切です。
 県連段階では県連理事会が責任をもって、急いで「介護・福祉分野の戦略・計画」をつくりましょう。そして、すべての県連に「老人医療・福祉委員会」を設 置しましょう。院所や諸施設での老人医療の実践を掌握し、問題点を整理し、解決のための政策・計画づくり、老人分野の地域分析とあらたな事業への挑戦、社 保委員会と連携した自治体要求運動などが課題です。

(2)医療・経営構造の転換と経営改善の課題
◆九七年度の民医連の経営結果と九八年度第 1・四半期の経営の特徴
 厚生省の九七年九月から九八年二月調査でも、患者が減少(対前年比健保本人△四・六%、家族△一・一%、国保△○・一%、老人+一・四%)し、九六年度 には四七・五%であった自治体の赤字病院は、九七年度には六三・二%に拡大する状況です。
 こうしたきびしい状況の中で、九七年度の民医連経営調査(速報)では、黒字法人は六一・四%で、過去もっともよかった九六年度八〇・〇%より大幅に悪化 し、九三年度時期に逆戻りしています。医療収入(一〇一・九%)に比べ、人件費(一〇四・三%)・経費(一〇七・九%)・減価償却費(一〇八・〇%)にみ られるように、悪化の要因が明瞭です。とりわけ経費増加は四三億円(医科法人のみで保険薬局法人などは除く)で、消費税五%への引き上げが民医連経営にも 大きな影響を与えています。
 九七年度上半期時点ではもっときびしい結果が出ると予測していましたが、昨年後半の患者の人権を守り、経営を改善するための民医連院所の善戦、健闘ぶりをうかがうことができます。
 九八年度第1・四半期のモニター法人調査(二二法人)では、入院患者件数一〇四・〇四%、入院患者数一〇三・〇九%、外来患者件数一〇二・四八%、外来 患者数一〇〇・一一%と奮闘しています。新設診療所や訪問看護ステーションなどの患者増が全体比率を高めていると考えられます。
 しかし、昨年の消費税や医療保険法改悪の影響で健保本人の受診率が全国的に“急降下型”を示しており、民医連の院所でも健保本人の減少が共通しています。
 経常利益が赤字法人は九七年度一三法人から九八年度八法人と減少し、善戦しています。医業収入一〇一・九五%にたいして人件費一〇〇・二四%と伸び率を 押さえ、材料費九六・九八%や薬品費九三・四一%なども相当の努力が見受けられます。
 民医連以外の医療機関の経営は、自治体病院は補助金と室料差額を除くと医業収益対比で一四・〇%もの赤字です(97年6月、公私病院連盟調査)。私的病 院は室料差額収益が医業収益対比で二・一%に達し、これがなければ赤字に転落するのが実態です。
 同仁会再建の銀行交渉の中で、「赤字なのになぜ室料差額をとらないか」との銀行側の質問に、「民医連の病院は住民によってつくられ、守られています。お 金のある・なしで医療に差別をもちこまないのが基本的立場です。なぜなら、それが本来の医療のあり方であり、地域住民にとって私たちの病院は最後のよりど ころなのです」と答えました。きびしい中でも経営を守り、室料差額を徴収しないでがんばっている民医連に誇りと確信をもちたいものです。
◆なぜ、医療・経営構造の転換が必要か
 善戦、健闘しているとはいえ、今日の経営をめぐる事態は「過去のいかなるときにも経験したことのない過酷な環境」です。従来のままの医療や経営構造では、民医連の経営は深刻な事態をうみかねません。
 センター病院の経営のきびしい現実を理解する必要があります。これまでは診療所などがセンター病院を支えてきましたが、従来のようにいかなくなっています。医師の労働も限界に近い状態です。
 医療構造の面からみれば、これまでの急性期中心、病院中心型の医療だけでは、患者要求にこたえきれず、経営的にも非常にきびしくなっていきます。すなわ ち、高収入・高支出(高人件費率)型で、収入の増加を患者増と日当点の引き上げで実現し、比較的多い職員をかかえ、それなりに賃金も上げてきた経営のあり 方は、客観的な面(診療報酬の引き下げ、定額制の拡大、受診抑制の広がり)でも主体的な面(医師体制の困難)でも困難になりました。
 センター病院は赤字でもしかたがないという考えを改め、病院の部門ごとの損益を見直し、センター病院自体の黒字化をめざさねばなりません。医師体制をと とのえながら、診療所、介護分野を拡大していかねばなりません。そして「とくにこの二年間はきびしい支出抑制型の経営とならざるをえないのです」。
◆どのように医療・経営構造の転換をはかる か
 第一は、“収入増のみに依存する経営体質の転換”に踏み込めたかどうかという問題です。
 高支出体質から脱却できず、情勢の変化や医療要求の変化に対応した医療構造の転換がはかれないとするならば、矛盾は拡大するばかりです。とりわけ高人件 費率対策への着手は不可欠です。院所だけで対応するのでなく、法人はもとより県連的にも職員の適正な配置などを検討すべきです。
 第二は、“医師の労働実態をみすえた収入計画”の立案の観点です。
 予算論議の時期になると数字合わせになり、入院で日当点を確保し、外来で患者数を確保するために、医師労働の実態からかけ離れた無理な計画を組むことに なり、矛盾を拡大することになります。病院や診療所の医療展開に県連ごとの若干の差異はありますが、医師労働の過重を緩和するためにも、医師一人あたりの 職員数や労働のあり方なども検討が必要です。
 第三は、“介護保険法の施行をにらんだ事業方針の策定”で、総合的な経営方針を確立する課題です。
 全体としての人員をおさえながら、診療所や在宅・老人医療、および福祉分野もふくめた展開をすすめる中、高日当円重視の医療体質を緩和することも可能です。
◆管理運営能力と事務系幹部の養成
 法人や院所の管理者は、団結をかため、激変する情勢と地域の医療要求にかみあった医療・経営構造を組み立てる必要があります。
 いまもっとも必要とされているのは、医療と経営を理解し、集団として責任をもって困難にたち向かう事務系幹部を育てることです。すでに、全日本民医連で は病院管理研修会を重ねてきましたが、近畿地方協議会では独自に研修会がはじまりつつあります。県連や法人院所をこえて、互いに困難を出し合い、研究でき る企画が大切です。
 また、我流による経営管理手法に決別し、民医連統一会計基準の実践は不可欠です。誤った決算数字は一人歩きし、必要な対策の遅れをきたすばかりか、職員 の不信をまねきます。また、困ったときは県連や地方協議会、全日本民医連に相談し、顧問公認会計士の援助も受けることです。
◆労働組合との新たな関係づくり
 すべての職員が、院所の経営はもちろんのこと、法人全体、県連全体の経営の実態を正確に知り、理解することが必要です。これまでのように、前年との比較 や、他の法人との比較だけで賃金をきめることを続けていれば、院所の経営が破綻することは明らかです。情勢は激変しているのです。
 同仁会の再建にあたって、労働組合は正面から経営の困難さに立ち向かいました。管理部と労働組合が、率直に、真剣に、論議するならば、今日の困難は打開できることを示しました。
 労働組合との関係では、第一に国民医療(人権を守る)実践。第二に、民主的経営を守り、医療改悪とたたかう。第三に、職員の生活と権利を守る。これらを土台とした対等平等、協力共同の関係を新しい段階に発展させましょう。

第3章

総会以後のとりくみ

(1)同仁会再建は第2ステージに
 同仁会の経営危機が表面化して、六カ月を経過しました。経営危機の直接の原因は、不良債権を抱え、合併を予定している銀行の「貸し渋り」と「資金回収」 でしたが、同時に長期にわたる赤字構造を放置し続けたことが基本的要因でした。
 全日本民医連理事会は、ことし一月、同仁会耳原総合病院が大阪民医連のセンター病院として役割をはたしており、倒産などの経営破綻は社会的な信用を喪失 させ、今後の大阪での民医連運動を著しく困難にすると判断しました。同仁会の職員には、団結を固め、緊急に経営改善にとりくむこと、全日本民医連理事会と して緊急資金対策を行い、調査団を派遣することを決定しました。
 調査団の報告を受けて、総会の場で「倒産させないで再建する」ことを提起しました。その根拠は第一に、山梨勤医協などの倒産とは異なり、超過債務が年収 の四分の一程度であること。第二に、同仁会の医療活動にたいする地域の強い支持があり、職員が労働組合を含めて身を削って経営再建をすすめていく決意があ ること。第三に、金融機関との返済期間繰り延べ交渉(リスケジュール)が成立すれば、他の法人と同程度の返済条件になりうることでした。
 全日本民医連理事会は対策本部を設置し、本格的に指導援助を開始しました。再建にあたっての基本的立場は、山梨勤医協や福岡・健和会などの教訓をふま え、第一は医療と患者を守り、第二に債権者を守る、第三に職員を守ることとしました。この立場は、同仁会理事会や労働組合はもとより、地域の諸団体から理 解と共感がえられました。
 真っ先にとりくんだリスケジュールは、当初の予定より早期に譲歩を引き出しました。それは同仁会の医療にたいする地域の信頼の厚さであり、労働組合との 合意、そして何よりも全国と大阪からの八億円を超える緊急融資でした。その後の資金対策は、「同仁会基金」を全日本民医連として支援するかたちが望ましい と判断し、支援募金はとりやめました。
 全国から、大阪から、地域から、堺の諸団体から、連帯と熱い思いをこめた基金が続々と寄せられ、目標をはるかに上回る一三億円に達しています。全日本民医連理事会としてこころから感謝いたします。
 同仁会理事会と労働組合はただちに経営改善にとりくみ、九八年度に一一億円の利益を確保すべく一〇%の人員削減や賃金カットをふくめ人件費構造に抜本的にメスを入れ、診療日を増やすなど努力が開始されました。
 二月からはじめてとりくんだ地域患者訪問には九〇%近い職員が参加し、四○○○人以上と対話し、職員の意識も大きく変化しています。こうした努力の結果、二~三月で一億円、四~七月は毎月一億円の利益を確保しています。
 全日本民医連理事会は、当初の倒産の危機を乗り切ったと判断し、危機管理体制から自立再建の段階、すなわち第二ステージへと移行した指導援助に切り換え ました。五月理事会は堺で開催し、すべての理事が同仁会職員の集会に参加し、激励しました。
 第二ステージの主要課題は、同仁会自身が主体的、自立的に問題を解決できるような管理運営を行うこと、総会方針の全面実践、医療や経営構造の転換に着手 すること、新たな労使関係を築くこと。そして、総括と今後三年間の再建計画の策定が課題です。全日本民医連は、これらの指導にあたる事務系幹部配置を行い ました。
 早く総括をして教訓を整理してほしいという意見もありますが、一定の時間を要すると判断しています。「同仁会の問題は他人事ではない」「医療と経営の乖 離は自分の病院でも同じ」「危機が来る前に、平時に、経営構造の転換にふみきれないでいる」「管理運営の力量不足を実感している」など、今回の同仁会問題 を通して少なくない県連や法人幹部の声が寄せられています。
 なぜこのような事態になったのか、その問題点の解明は、同仁会と大阪民医連が主体的に、再建運動にとりくむ中で整理されていくものと思います。
 全日本民医連としても、総括にあたって同仁会や大阪民医連と論議を深めながらすすめていきます。また、全日本民医連として早期に察知できなかった問題や指導援助のあり方などの検討をはじめたところです。
 今回の専務会議も、財務状況や資金対策の現状を把握し、事前の対策についても全日本民医連への結集を強める立場から開催しました。

(2)総会以後の各部・委員会の主なとりくみ
 総会後まもないこともあり、各部・委員会は活動をはじめたところです。今回は、主なとりくみのみ記載します。
◆医師養成方針づくりと医学対の強化
 全日本民医連理事会と医師委員会は、医師養成方針「民医連の医師・医師集団は何をめざすのか―二一世紀の民医連運動を切り拓くために―」を第七回理事会 で(案)として決定しました。医師集団はもとより、すべての職員の参加でより豊かなものにするため論議を呼びかけたところです。また、この方針にもとづい て、それぞれの県連でみずからの実情と照らして、医師養成のあり方を論議していくことが大切です。
 九八年度の医師受け入れは、一一四名で壁を打ち破れていません。しかし、医学生の運動が着実に前進しつつあります。この運動がもうひとつ大きな波を迎え たとき、今日の医療矛盾を正面から受けとめ、日本の将来の医療変革を担う医師集団がうまれ、民医連にも二〇〇名を超える医師を迎えることができ、新たな展 望が見えてくるでしょう。そのために、民医連として何が必要かの検討をすすめています。
◆教育月間のとりくみ
 “職員の成長はたたかいの中でこそ”を合言葉にとりくまれた学習教育月間は、『社保テキスト―入門編』や『綱領ビデオ』も活用され、「九割の職員が読了 し、学習会に参加し、『私と民医連』の文集を作成」(滋賀)、「読むだけでなく、全員が感想文を書き、実践に足を踏み出した」(愛媛)、「我流を排し、総 会方針を真正面に受けとめようと、二○回以上の総会報告会を開催」(奈良)など、各地で多彩で創造的にとりくまれました。
 しかし、県連や法人・院所の指導部が、経営の困難さやそれぞれの総会準備などのために出足が遅れ、参議院選挙を考慮して月間を四・五月に限定したことも あり、普及率では五三・九%と不十分さを残しました。ひきつづき総会方針を全職員のものにしていくとりくみが重要です。
◆「いつでも元気」の新目標
 共同組織の新たな水準への前進はこれからの民医連運動の前進の一つのカギになっています。そのためにも「いつでも元気」の普及はきわめて重要です。
 「いつでも元気」は発刊以来六年を経過し、共同組織の人たちと職員に「読みやすくて、ためになる雑誌」として好評で、三万三一五三部となりました。民医 連職員は四万五○○○人、共同組織の構成員は二四四万人に達しています。共同組織委員会と共同組織連絡会は、あらたに五万部をめざす二〇世紀目標(二〇〇 〇年一二月末まで)を決めました。各県連の積極的なとりくみが期待されます。
◆医療宣言づくり
 医療宣言づくりの運動は、「綱領パンフ」の学習に続いて、「私と民医連」をテーマにした語り合い、職場の宣言づくりなどにとりくむ院所が増えています。いくつかの県連で、民医連以外の人々の懇談会や対話が行われています。
 総会方針に沿って院所で医療宣言づくりをすすめる委員会を設置し、それぞれの院所の宣言をまとめるなど、院所管理部の指導性の発揮が求められています。 全日本民医連の医療宣言委員会はこの間四回開催し、第二回評議員会(来年二月)に提案することをめざして作業を行っています。
 九月に第四回看護活動研究交流集会が、「看護から発信しよう、民医連の医療宣言」をテーマに開かれます。民医連看護の新たな到達点を確認する場として成功させましょう。