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2000年1月1日

出産てこういうものだったのネ!

大野悦子  鹿児島・宮崎民医連 川辺生協病院医師(徳島大学96年卒)

陣痛もなんのその、出産直前までその食欲を、失わなかったえつこ(冷静なのかタフなのか?)。
赤ちゃんも無事誕生し、育児に奮闘しはじめる。
妊娠、出産を通してはじめて知った、母乳育児、子育て環境をめぐる現状。
母になり、父になるかもしれない、すべての医学生に贈る、えつこの出産・育児日記。


 正期産にはいって(予定日3週前)、「もういつ生まれても大丈夫!どんどん歩いて体を動かすぞ!」とはりきってデパート街を散歩した翌朝、起きてみると なにやらチョロチョロ…「破水だぁ!!」。朝6時、夫をたたき起こして病院へ電話し、入院することになりました。「破水が先ってことは長くかかるかも なぁ…」と思い、せっかく炊いたご飯がもったいなかったので、しっかり朝食をとって出かけました。夫はその日も勤務(往診だったかな)でしたが、立会い出 産を希望していたので体制を変更してもらい、ずっとそばにいてくれました。病院に到着したのは8時。「なんとなく生理痛みたいな下腹部痛があるなぁ…」な んて思い、診察をうけたらすでに5分おきの陣痛になっていたのです。「子宮口3cm開大」とか言われて、「うわぁー、いよいよはじまっちゃうんだぁ! ちょっと待って、心の準備が…」なんて思っていると、陣痛室へ案内され、朝食が出てきました。「自宅で食べてきたんだけど…でも、陣痛がピークになって昼 食が食べられないといけないし、食べとこう」と、結局モリモリ。そうこうしているうちに痛みは急激に強くなり、分娩室に駆け込むように入りました。看学生 さんたちの見学に応じたので、分娩室はごった返し。大勢のかけごえのなか(思い出してみるとすごい光景だった…)、夫の手を力いっぱい握りながらうまくい きむことができて、気づいてみればスポンッという感じで、入院して3時間半、まさに経産婦並の所要時間でうまれてしまいました。わが子の泣き声を聞いて ほっとし、すぐに抱いて授乳させてもらえて、やっぱりじーんと目頭と胸があつくなりました。正直なところ、私のふんばりというより赤ちゃん自身が出てこよ うとする力で安産だったような気がして、よけいに生命誕生の凄さに感動したのでした。それにしても、陣痛の辛さって、ホントに「のど元過ぎれば…」です (もう忘れました)。確かに痛かったと思うのですが…。当然、産んだあとは身も心も(おなかも)すっきりなので、おそろしい食欲で、出された昼食もしっか り食べました。なんだか食べてばかりのお産でした。

 友人の話では、出産を実家近くの産院でして産後しばらく実家に身をよせる、いわゆる『里帰 り出産』も多いみたいです。このメリットはなんといっても産後の育児ノイローゼ回避でしょうか? 私たちはどうしても夫立会いで出産したかったので里帰りはしませんでしたが、産後すぐの一ヵ月はずーっと家にこもりきり。赤ちゃんの首もすわってないし、 こちらもいまひとつ上手にだっこできなくて指の関節が痛くなる(おもわずリウマチを発病したかと思ったほど)。昼間は話し相手がいなくて、赤ちゃんの泣き 顔を見ながら「かわいいと思えない…」と、こちらが泣きたくなる状態。つくづく核家族の弊害を実感してしまいました。考えてみてください。産休にはいるま では病院で毎日何十人という患者さんやスタッフと話していた人間が、突如赤ちゃんと二人きりの閉鎖された空間にずーっといるんですよ。「母乳は足りている のかしら」「どこか痛いの?」「だっこのしかたが悪いのかしら」「なんで泣くのぉー」…ってなかんじです。わたしはわりと恵まれていて、マンションに3日 違いの赤ちゃんをもつお母さんがいたり(なんと偶然産院も一緒!)、1~2年先に出産、育児を経験している友人、先輩が多かったので相談相手はいましたが 「地域にもっと気軽に相談できる子育てサークルみたいなものがあればいいのになぁ」と思いました。子育ては母親一人でするものではないですもの。それと、 一番の理解者はやっぱり夫でした。毎日沐浴をさせに夕方帰ってきて(その後また病院に戻るのだけれど)、いっしょに母乳育児の本を読んで勉強し、励まして くれたりしました。

 『母乳育児』に関してひとこと。私は、学生時代のみならず医師になってからも母乳育児につ いてはほとんど知識がありませんでした。妊娠して、「しっかり出るといいなぁ…」くらいで。実際に経験してみて、その重要性や奥の深さに感心するばかりで す。育児書には、『こういう兆候があれば母乳不足』として「授乳に30分以上かかる」「3時間も間隔があかずにオッパイをほしがる」「体重の増えが悪い」 とか書いてあります。実際には最初のうちは本どおりにはいかないようです。母親も授乳に慣れていないし、赤ちゃんもまだ吸い方が上手ではなくて、とにかく 根気強くオッパイを欲しがるたびにくわえさせてあげることで、母乳の出がよくなるそうです。外野が『オッパイ、足りていないんじゃないの?』などと不用意 なことをいって母親の不安をあおったり、安易にミルクを足したりしはじめると、赤ちゃんは哺乳びんに慣れてしまって(だって哺乳びんのが楽だもんね)、母 乳を飲まなくなるようです。確かに母乳の出には個人差があるし、どうしてもあげられない事情のあるお母さんもいますが、本によると日本では完全母乳の比率 がとても低いそうです。産院でわりと容易にミルクを足したり、ミルクを使うことに対しとても寛大な風潮があるみたい。退院するときにミルクを持たされるの も『???』と思ってしまいます(ミルク製造会社からのプレゼント。日本は規制がないんですね。海外ではこれに関しては厳しい規制があります)。こういう 環境では、「絶対母乳で育てたい!」という強い意志がないとなかなか実践できないですよね。私が育児休暇を丸1年希望したのも、ひとえに母乳育児を貫きた いからでした。本当は働きながらでもしっかり授乳ができるようなシステム(院内保育所でいつでも授乳できる保障がある)を完備するべきなのでしょうが、ま だそこまで条件の整った職場はごく少数でしょうね。

 今回は女性医師というより、出産を経験した一人の女性としての話ばかりの感がありましたが、経験するまでは『妊産婦』や『お母さん』に対しての見方が女 性医師としても浅かったなぁ…と省みることが多かったです。最初から『母は強し』という訳でも、『母性』は女性が産まれながらにしてもっている訳でもな く、育児をするなかで培われていくものなのだということも実感しました。だからこそよりよい『母性』を育て、のびのびと育児ができる環境づくりを、社会の 一員として、医療従事者として、すすんでしていかなくては…との思いを強くしたのでした。 (つづく)


『母は強し』も『母性』も最初からあるんじゃない。
育児の中で培われていくものなんだ…!
えつこ

Medi-Wing 第17号より

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