危険な正露丸の服用/ 大分・健生病院・今里 真(医師)
14歳の男の子が重症の腸炎で入院しました。軽い食中毒様症状があったので、自宅にあった正露丸でやり過ごしているうちに3日たち発熱、腹痛をがまんできなくなり、当院受診後入院となったものです。
当院では、食中毒の起炎菌推定、重症度把握、菌体の洗浄回収のため、大腸内視鏡を通常行っていますが、今回は興味深い所見を確認しました。内視鏡所見 は、キャンピロバクター腸炎ですが、その炎症所見が極めて強く、腐食様の変化もありました。そして、大腸内に6ミリ大の黒色球状物を認め、そのひとつをサ ンプルとして回収したところ、正露丸独持の刺激臭を認めました。正露丸で麻痺した腸管内にキャンピロバクターが異常繁殖し、正露丸の粘膜腐食作用と共に腸 炎を悪化させたようです。その証拠に内視鏡で大腸を洗浄し正露丸を除去しただけで、翌日から自他覚所見は改善しました。
正露丸の作用は、その毒性の発現用量で現れます。すなわち腸管運動が神経毒によりマヒして下痢が止まり、知覚神経が神経毒により解離して腹痛を感じなくなります。虫歯に詰めると痛みがなくなるのも同じ原理です。
「正露丸」は元もとは「征露丸」といって日露戦争に出向く兵隊さんに「極寒の地でもお腹をマヒさせて戦え」という医薬品とは思えないドーピング剤だった そうです。毎年のようにマヒ性イレウス、腸壊死、腎不全などで手術や透析にいたる例など正露丸の害が報告されていますが、テレビコマーシャルは全く使用上 の注意事項を知らせません。
医薬品集などで正露丸の主成分クレオソートを調べると「歯内にのみ使用し、口腔粘膜に付着した場合、腐食する場合があるので直ちに洗い流すこと」と記載されており、服用など論外なようです。
一家にひとつはあると言われる正露丸には“注意”しましょう。
(本件は、大分市医師会医学会総会で発表しました)
(民医連新聞2002年12月1日/1294号)