民医連新聞

2002年11月21日

現場の“悩み”テーマに/「第一線医療機関」の医療倫理委員会/ =大坂・耳原総合病院=

 医療倫理委員会については、2000年に医療活動部がその設置を「三たび呼びかけ」、いままた川崎の事件を機に、病院機能評価受審に向け設置をすすめている病院も多くあります。今年1月に始まった耳原総合病院倫理委員会の活動を紹介します。

(編集部) 

“議題”に職場からの提案も
 「委員がお互いを呼ぶときに『先生』はやめ、『さん』付けにしましょう」。今年1月に行われた耳原総合病院の第一回倫理委員会ではこう申し合わせました。
 倫理委員会には、院外から弁護士、元教師、友の会会長、そして医療と患者の権利擁護の運動を全国的に展開しているコムルの代表辻本好子さんが加わってい ます。院内委員は池田院長はじめ医師、看護師、薬剤師、事務長、リスクマネジャー。お互いが患者の権利をめぐって、対等に率直な論議をしようとの気持ちか らの申し合わせでした。
 委員会では、「倫理委員会規定(案)」をもとに性格や目的、役割、すすめ方を論議。現場から提案された「問題患者対応マニュアル」の検討も行われました。
 同病院は倫理委員会の設置を99年に方針化、「なんとしても2001年度中に実現しよう」と、院内外に働きかけて準備をすすめてきました。それは、2002年4月に医療機能評価を受けるためにも必要でした。
 院外には「地域の第一線の医療機関で倫理委員会を設置する意味」を訴え、参加を要請しました。
 名古屋大学医学部の医倫理委員会の委員であった辻本さんには、その経験や「規定」を教わりました。「高度医療を行う大学病院では医師の申請で倫理委員会 が審議を行うのに対して、地域医療を担う医療機関では、患者の人権についての日常的で実践的なとりくみに期待したい」と、参加の承諾をもらいました。10 人の委員で、3カ月に1回の定例会議でスタートしました。

* * * *

 さっそく内科の職員から、第1回委員会に「問題患者の診療をどうするか」の検討の要請が。飲酒し暴力をふるう患者への対処に悩み、作成した「問題患者対応マニュアル」を倫理的な面から検討してほしいというものです。
 第一回委員会では「論議の対象は、患者の権利擁護についてか、医療の内容なのか」「委員会の論議は患者さんも含め広く論議することが必要では」「患者さ んから同意を得るとは、どういう内容なのか」「病院として悩んでいることもテーマにしよう」「個々の事例からも検討しよう」「委員会の論議が、職員の教育 や管理運営を強めることと連動するように」などの意見を交換しました。
 その結果、倫理委員会は主に患者の権利を守るための論議を基本にし、「規定(案)」は「固めてしまわず論議を継続し肉付けしていこう」ということに。
 「問題患者対応マニュアル」については、「医療スタッフの苦労はよく理解できる」「問題行動をおこす要因が何か、集団的な論議が必要ではないか」「問題 行動を誘発する医療従事者がいないか、検討が必要だ」「問題行動を起こさせない技術が望まれる」など、多面的な検討が行われ、追加補足することになりまし た。
 南岳志事務長は「倫理委員会ができたことで、現場で悩みとして抱え込んでいた問題をオープンにして、集団的に論議しようとの雰囲気が生まれました。この 課題は倫理委員会で検討してほしいなど、職員の目も鋭くなってきた」と設置の効果を見ます。

『急変時の対応シート』も論議
 同病院では、入院患者さんに急変が予測される場合に記入してもらう「急変時の対応の確認」シートが使われています。
 もちろん「心肺蘇生しない」と記入されていても、現疾患が原因でない窒息や感染などで急変したときは、情報を提供し合意の上、蘇生を行います。
 たとえば、妻が介助中に患者(夫)が窒息した事例では、レスピレータや昇圧剤を使用して蘇生しました。妻の精神的苦痛に配慮したものです。
 このシートも、倫理委員会の検討に付されました。「何を目的とするのか」「心肺蘇生の方法と効果はどのように説明されるのか」「家族の意見が分かれたと き誰が署名するのか」「本人の署名はないのか」「家族の意見が変わったときにはどうするのか」などの意見が出され、「患者の自己決定が尊重されているの か、もう一度、職場会議などで論議して委員会に寄せて下さい」と現場に返されました。看護部の論議が報告され、やりとりが続いています。

“川崎”の教訓を生かそう
 同委員会事務局長、奥村真次医師は7月の第3回委員会に、川崎協同病院「内部報告書」の論議を提起しました。当事者一人の判断で医療行為をする状況、職 員の倫理教育、労務・安全管理、などの面からこの事件の倫理的問題を明らかにし、教訓を職員に発信し、生かすためです。
 弁護士の委員は「すぐに警察が出てくるのが問題では」とまず指摘。「問題の本質が隠されてしまう」。
 第四回委員会では「外部評価委員会報告書」も討議に。職員にも討議を呼びかけました。

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 南事務長は「現場で困っていることを題材に、職員も委員会とともに勉強しながらすすめることが第一線医療機関での倫理委員会の意義」と語っています。

(民医連新聞2002年11月21日/1293号)

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