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2000年1月1日

医療研究室 健康障害の背景として環境、労働・生活内容を解明

宮城民医連 広瀬俊雄
【仙台錦町診療所/産業医学センター所長・医師】

「場」の改善が病気を根本的に治療する!

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産業医学とは…

 「治療」といえば、病気を身体から取り除くため、薬を与えたり、手術したりすることだと考えられてきましたし、今も 多くの場合そう考えられています。最近、このことに対して「予防」の大切さが強調されてきています。M.Turnurは、”Occupational  Lung Disease“の中で「医学は、病気が何故起き、どういうプロセスですすむかについての知識に基礎をおいている」と述べています。こうした視 点は、今、ますます重要になってきています。病気を生む労働・生活・環境を探ること、そして、その「場」を変え、病気を「予防」する活動も「治療」と位置 づける、これが、産業医学・産業保健の基本的な立脚点です。健康障害の背景としての環境や労働・生活内容の関わりの解明を基礎とする医療活動なのです。

宮城民医連での産業医学の歴史

 宮城民医連では、20年前に坂総合病院内科に、「産業医学外来」が、2年後に「産業医学科」が、日本で初めて開設されました。患者は誰でも受診でき、病院のどこからでも紹介できる診療科であり、調査室でもありました。
 84年に、仙台の中央部に移り、診療と健診、産業医学…それぞれを大きく発展させてきました。

多方面に広がった活動と成果

 この20年間に、労働者はもちろん、学会、行政、産業界に影響を及ぼす多くの成果を挙げてきました。表に、そのいくつかを紹介します。

日常診療に根ざすべきが「産業医学」

 「産業医学」は、「問診」と「現場の評価」を基本活動とする日常の医療活動です。重要なことは、例えば、内職の部屋 に換気扇を設置したら、長年の症状が軽快した「ホルマリン喘息」のように「場」の治療が、患者の治療となった事例がたくさんあるのです。「場」の改善が無 ければ、この方々は悪化を続けたのですから、「産業医学」とは、治療・予防に不可欠の医療活動だといえるのです。

 

仙台錦町診療所/産業医学センターの業績(一部)
(1)除草剤パラコート販売中止のきっかけ
日本で初めてパラコート散布作業による死亡例を見いだし、農協、大学と共に大規模な疫学調査を行い、結果を日本農村医学会で報告。学会決議を得、販売中止を実現。
(2)過労死に関する書籍の発行
「過労死110番」に初年度から参加し、東北対策委員会を組織し、医学的分析をまとめた書籍を発行。(中国語にも翻訳されている)
(3)夜勤労働の健康障害に関する医学的根拠の確立
24時間血圧記録、24時間心電図を用いた夜勤健診を経年的に分析し、高血圧等の健康障害を解明し、深夜仮眠を定着させた。日本唯一の文献との評価を受け、様々な医学雑誌に掲載され、夜勤の広がり反対の主張の医学的根拠となる。
(4)離職後塵肺の進行の医学的根拠の確立
細倉鉱山塵肺訴訟勝利に結びついた医学的根拠である「離職後の進行」の実態と背景因子解明を行う。また、世界で初めてポジトロンCTを応用した離職後10年の時点での進行を画像的に実証し国際学会で発表。
(5)自営業者の健康問題に関する調査
学会でも困難とされてきた自営業者の健康問題を重視し、宮城県の民主商工会や全国商工団体連合会と協力し総合調査を行い健康面の分析を担当。自営業者の健 康破壊は労働と経営状態の影響を強く受けていることを実証し、学会、行政等に示す。

●広瀬俊雄(ひろせ としお)医師のプロフィール
「労働の場と病気の実態」を知っている医師として、産業医科大学等の非常勤講師の他、多くの企業や労働組合の学習会の講師、医師会の産業医講習会講師として活躍。日本産業衛生学会指導医。専門医試験面接委員。内科学会・呼吸器学会認定医。
E-mail:toshiros@rb3.so-net.or.jp

Medi-Wing 第9号より

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