民医連新聞

2013年12月2日

“気になること”共有 いのち守る第一歩に  島根・松江生協病院 「医療と暮らしのアットハット」

  松江生協病院(島根)では、2002年から「医療と暮らしのアットハット」活動にとりくんでいます。これは医療安全のリポートではありません。職員が毎日 の業務や暮らしの中で気になった患者さんや地域の事象を報告します。困りごとへの関わりをSWだけでなく、全職種で持とうという社保活動で、生活と労働の 視点から疾患を捉える民医連らしいとりくみです。寄せられた事例はこれまで250件超に。ここからは地域の労働環境の悪化や、社会保障改悪の影響が見えて きます。(矢作史考記者)

全職員がやれることを

 とりくみを始めたのは二〇〇二年。病院の社保委員会で、院内の誰もが参加できる社保活動はと考え、「あっ」「はっ」と職員が気づいたことを報告する形を考案。
 近所で起きた孤独死や、過酷な働き方を強いられる労働者の実態、介護保険制度改定後に利用者に出た影響、リハビリ日数の制限をされた患者さんのケースな どが出されています。また、近所のスーパーがなくなって高齢者が「買い物難民」になった、など日常生活からキャッチしたことは、何を報告してもOKです。
 報告用紙は各部署に置いてあります。事例が寄せられると、社保委員会で匿名性を確認した上で各部署の社保掲示板に張り出しています。
 社保委員の川本健一さん(SW)は「まずは院内の職員に、病院の周りで起きている実態を知らせることが大切だと思っています。忙しい現場でも見てもらえる工夫もしています」と話します。

若い人の深刻事例が増加

 報告が多い部署は、外来受付や医療福祉相談室、医事課や在宅支援センターなど。しかし特に多いのは毎日五〇~六〇人が訪れる健診センターです。検査数値と同時に生活実態が分かるのです。
 センターのベテラン看護師・井上愛子さんは、健診に来る人たちの働き方が気になっています。「多くが会社の定期健診ですが、異常値が出ても仕事が忙しく受診できないまま。なかなか治療につながりません」。
 多くが働き盛り。井上さんが関わった町工場の経営者は、血糖やコレステロール値が高く、心筋梗塞など重篤な疾患につながる恐れを指摘しても受診できません。
 また最近は、若者の働き方も深刻です。二〇代の美容師は、自覚症状を九つもあげました。勤務時間は朝七時から夜一〇時だと語りました。
 相談室にも若い人の相談が入ります。医療保険はあっても窓口負担が払えないというもの。歯を治療しなければ、総入れ歯になるほどの状態で駆け込んできた人も。
 保健指導では、患者さんの背景に配慮します。「健康状態が悪くても、個人を責めません。検査の値だけを見ていたら、本人の大変さに寄り添えません」と井上さん。
 他の同僚たちもアットハットを通じて、生活と労働の視点から患者さんと接するように、姿勢も変わっています。

事例は制度改善につなげる

 「アットハットには地域の『悲鳴』が詰まっています」と話すのは、長年とりくんできた相談室の松本雅人さん(SW)です。
 法人の機関紙「強い体」にもアットハットでつかんだ事例を定期的に掲載し、三万人の組合員に届けています。松本さんは「地域にいる組合員さんたちと情報を共有することで、暮らしを守る運動を大きくしたい」。
 また、事例は入力してデータ化も。それをまとめて自治体交渉も行いました(二〇一一年)。地域の実態を届け、市民が安心して暮らせる社会保障制度の拡充を求める運動にもつなげています。
 松本さんは「民医連で行っている国保手遅れ死亡事例調査のように、全国でもアットハットのとりくみをすれば当然、同じような深刻な事例が出てくるはず」 と強調します。「忙しい医療現場にいて、いのちを守る運動を広げるには、地域で起きている事実を職員に知ってもらうことが欠かせない。知ることから始まる と思います」。

(民医連新聞 第1561号 2013年12月2日)

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