民医連新聞

2013年11月4日

公約破りのTPP参加 あきらめず運動広げよう アジア太平洋資料センター事務局長 内田聖子さんに聞く

  安倍・自民党政権は、選挙公約だった「TPP反対」を投げだし、TPP交渉参加を決めました。参加12カ国の中でもっとも遅い7月に参加し、8月には全体 交渉が終了。年内妥結との報道もあります。食、医療・介護、雇用、文化―。あらゆる分野への打撃が予想され、民医連は反対運動にとりくんできました。いま の段階では、もうあきらめるしかないのか。私たちに求められることは? 反TPP市民アクションのメンバーで、海外の運動に詳しいアジア太平洋資料セン ター事務局長の内田聖子さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 TPP(環太平洋連携協定)は、私たちの生活を丸ごと“市場”に放り出すものです。三〇年ほど前から、市場化の波は押し寄せていました。TPPは、この流れの“最終兵器”です。
 WTO(世界貿易機関)交渉では、関税削減がすすめられていましたが、TPPはもっと露骨で、関税そのものの廃止です。

米国中心の“ぼったくりバー”

TPP参加国

シンガポール
チ リ
ニュージーランド
ブルネイ
アメリカ
オーストラリア
ベトナム
ペルー
マレーシア
カナダ
メキシコ
日 本

 関税とは、輸入品に課されるもので、国内生産の保護・育成の目的もあります。WTOの場合、加盟国が多いので、力の拮抗があります。一方、TPP参加国は一二カ国。マレーシアやベトナムなど小国が多く、アメリカが圧倒的な力を持ち、“一人勝ち”状態です。
 TPPは徹底した秘密交渉です。国と国の交渉でありながら、TPP参加で影響を受ける国民は事前に何も分からない。こんな不当な交渉はありません。
 交渉は国同士ですが、貿易を行うのは企業です。なかでも、複数の国に展開する「多国籍企業」が、交渉内容を牛耳っていると言って間違いありません。まさに米国政府・多国籍企業が牛耳る「ぼったくりバー」です。
 日本はすでに交渉が一八回も終わったところで参加。今後、全体交渉の予定はもうありません。「遅れてきて何もプレーできず、あっという間にゲームセッ ト」です。安倍政権は「優位に交渉をすすめる」「守るべきものは守る」と言いますが、実は交渉そのものに関われていません。
 おまけに自国の意見は通っていないのに、「年内妥結を」というアメリカからの提案に「NO」とすら言っていません。

「企業益」の先にあるもの

 国民の中にも、経済成長への期待があります。しかし実際には、トヨタが海外で儲けること と、私たちの暮らしが良くなることは全く関係ないのです。多国籍企業の考えは、「世界で一番賃金の安い地で、最も安い部品で、より多くの利益をあげるこ と」です。環境汚染や公害、労働者の反発が起きれば撤退すればいい、という無責任な発想です。
 多国籍企業はTPPをてこに、企業の自由度を極限まで上げようとしています。税金を払わず、どこにでも行けて、労働者の権利は守らなくても良い…などで す。今でも労働者を使い捨てにしている企業が儲けをあげ、労働者に恩恵は回ってきません。安倍政権の言う「国益」とは、まさに「企業益」です。
 日本の食料自給率は三九%(二〇一二年、カロリーベース)。政府はTPP参加で二七%まで低下する、と試算しています。海外の安い農産物が大量に輸入さ れるようになると、農業県の北海道や、砂糖の主要産地の沖縄県は大打撃です。競争にさらされ、自営農家はやっていけないでしょう。
 政府の試算では、TPP参加による農水産物の生産の減少は三兆円です。しかし、例えば乳製品の場合、酪農家だけではなく加工業など関連産業が地域にはた くさんあります。酪農家が倒れれば、関連産業もドミノ式に倒れ、その地域全体が崩壊するのです。
 食料自給は国の安全保障にかかわる問題です。自給率が試算通り二七%まで下がり、海外から食料が入ってこない事態が起これば、国民は一気に飢えにさらされます。にもかかわらず、政府はその道を選択した。
 格差も拡大します。経済力がある人は安全でおいしいものを食べられても、圧倒的多数は安いが危険な食べ物しか選べない。医療をはじめ教育や保育など、社 会保障にかかわる分野にも営利を目的とした企業が参入してきます。

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草の根で事実知らせて

 事態は急速にすすんでおり、運動が遅れている面もあります。「もう決まってしまった」とあきらめ、絶望する声も聞きます。
 しかし、あきらめるわけにはいきません。自民党が公約を投げ捨て、国民に説明せず参加したこと自体が不当です。これを許さず、「参加撤回」を求める時です。
 第一に、政府に「TPP交渉内容の公表」「交渉からの撤退」を求めること。署名を集めるなどして政府に粘り強く突きつけたい。
 第二は、先の総選挙、参院選挙で「TPP反対」を掲げて当選した国会議員へ地元からの働きかけを強めること。国会で「交渉からの撤退」を訴える議員を増やしていきたい。
 第三に、多くの人たちへ事実を知らせ、反対の声を広げること。これは、全国どこでもできる運動です。地域からTPPを考えるとりくみが広がっています。草の根で事実を知らせていきましょう。

*   *

 いま世界に吹き荒れる新自由主義の波は簡単には収まらないでしょう。しかし、一%の層の人 の利益のために、九九%の私たちの暮らしが破壊されていいのでしょうか? 格差が拡大し、社会が荒廃し、生きていけない人が増えていいのでしょうか? そ うならないよう息の長い運動が必要です。「もうひとつの社会」をめざす運動を、民医連の皆さんとも一緒にすすめていきたいと思います。

12月8日に東京で大行動
DVDも活用し、学習を

■「秘密交渉・国会無視・生活破壊 これでいいのか?! TPP12・8大行動」 一二月八日の午後に東京・日比谷野外音楽堂とその周辺で。集会後、デモなども計画されています。
 ※詳細は後日お知らせ
■DVD『誰のためのTPP? 自由貿易のワナ』の上映を!
 アジア太平洋資料センターが、TPPについて学べるDVD『誰のためのTPP? 自由貿易のワナ』を制作しました。TPP交渉参加で、暮らしにどのよう な影響が出るのか、農業、医療、雇用、食の安全・安心など各分野の専門家へのインタビュー取材を収録。分かりやすく解説しています。
(本体五〇〇〇円+税/三七分)
※貸出上映 一回一万円+税

(民医連新聞 第1559号 2013年11月4日)

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