民医連新聞

2013年10月21日

第11回全日本民医連 学術・運動交流集会in北海道 人づくり 職場づくり SDH(健康の社会的決定要因) 脱原発 地域包括ケア

テーマ別セッション

 学術運動交流集会二日目の五日、脱原発、地域包括ケア、人づくり・職場づくり、SDH(健康の社会的決定要因)の四テーマのセッションが行われました。要旨を紹介します。

セッション

原発ゼロへ国際連帯

原発に依存しない東アジアをつくるために

 全日本民医連創立六〇周年を記念し、韓国の医師ら五人が報告した国際シンポジウム。学運交では初めて一般公開し、三〇〇人が参加しました。マスコミでは報道されない福島の現状や韓国の脱原発運動が明らかになりました。
 最初に、全日本民医連四役らが八月に福島県沿岸部を視察した際の映像を上映。警戒区域が解除されたばかりの原発事故被災地の実態を共有しました。
 続いて浜通り医療生協理事長で、原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員の伊東達也さん(いわき市在住)が福島の現状を報告。震災関連死が一四六 二人(九月一一日時点)と増え続けていること。浪江町の全小中学生調査では、児童が県内外の六九〇校に分散し、半数は元の家族がそろっていないこと。県内 最多の二万四〇〇〇人が避難しているいわき市では、市役所に「被災者帰れ」の落書きがされるなど、たまった鬱憤が被災者に向けられています。
 「被災者は『賠償金をもらえていいね』『帰らないのはわがままだ』など、さまざまな非難にさらされながら生きている。県民の深い苦悩を伝えきれないもどかしさを感じる」と訴えました。

韓国で原発は“核発電所”

  韓国の「健康権実現のための保健医療団体連合」のウ・ソッキュンさんと、「人道主義実践医師協議会」のイ・サンユンさん(ともに医師)が、同国の脱原発運 動を紹介。韓国には日本側の沿岸部に二三基の原発があります。建設中は九基、新規建設予定が四基で、パク・クネ大統領は「日本の原発は事故を起こしたが、 韓国の原発は安全」と喧伝。韓国の民主的な医師は政府の報告に科学的なデータで反論したり、脱原発運動に参加する市民を医療面でも支援しています。
 「政府は原子力発電所と言いますが、私たちは意識して“核発電所”との名前を使います。核兵器をつくるための工場との考え方からです」とイさん。ウさん は「安倍首相も汚染がコントロールされていると言った。韓日両国の政府は嘘をついている。真実を明らかにすることが医療従事者の役割。韓日が連帯し世界的 な脱原発の運動を起こそう」と呼びかけました。

当事者「になる」活動を

 日本には一七カ所に五四基の原発がありますが、建設計画がありながら、粘り強い反対運動で作らせなかった地域は倍の三五カ所にのぼります。こうした地域を取材してきたノンフィクションライターの山秋真さんは「土地・海・当事者」の三つのキーワードを紹介。
 電力会社は建設用地取得のために住民を騙したり、漁師を分断するなど当事者を限定することで建設を促進。阻止した地域では、分断策に対して幅広い住民が 立ち上がりました。山秋さんは「当事者『である』から当事者『になる』ことが大切」と強調。上関原発(山口県)に反対する祝島の漁師の「漁師は海を借り ちょるの。みんなの海じゃから、守らんといかん」との言葉を紹介しました。
 “原発銀座”と呼ばれる福井県敦賀市の事業所で働く竹口知加世さん(社会福祉士)は「原発が止まり地域経済も停滞した。地元ではなかなか脱原発を口にできない」と悩みを質問。
 これに対し、シンポジストで自然エネルギー研究センター(NERC)代表の大友詔雄さんは「原発の廃炉を決断すれば、炉の解体や処理など新たなビジネス が生まれる。中途半端な状態だから見通しが立たない」と指摘。地元北海道の足寄(あしょろ)町や芦別市のバイオマス燃料工場を紹介し、「自然エネルギーは 新たな雇用をうみ、地域経済が活性化する」と話しました。

セッション

“住まいは社会保障”の視点を

地域包括ケアを医療と介護の連携から考える

 全日本民医連の早川純午理事が開会あいさつ。佛教大学社会福祉学部の岡崎祐司教授が「『地域包括ケア・システム』の論点と課題」と題して学習講演をしました。
岡崎氏は、厚労省は国民に「自助・互助」を強制し、「社会保険は共助」との発想から、社会保障の財源は社会保険料(国民負担)でまかない、公助を限定的にしようとしていると説明しました。
 厚労省が掲げる「住み慣れた地域」とは「住み慣れた自宅」ではなく、コストダウンした住み替えの推進です。介護保険を「自立支援型」に限定し、自立が期 待できない場合はなるべく医療に依存させず、訪問看護につないで医師の出番は看取りや急変時のみにしようとしています。岡崎氏は「『誰もがどこでも一定の 医療を受けられる環境を』という発想はない」と指摘しました。
 厚労省の「地域包括ケア・システム」では、「本人・家族の選択と心構え」「すまいとすまい方」が土台で、「医療」や「介護」は枝葉です。サービス付き高 齢者向け住宅(サ高住)に高齢者を集約化、外部の細切れのサービスを選択して買う、という発想です。在宅より集約化したサ高住の方が低コストでサービスを 供給できるからです。
 余裕がある人は質の高いサービスを“買う”ことができますが、低所得者には低廉な民間賃貸住宅の活用を促しています。岡崎氏は「経済格差を前提とした施 策で、“住まいは社会保障”の発想が欠落している」と指摘しました。
 最後に「“住まいは社会保障”の視点で、社会的使命を負って、質の高い高齢者住宅を実現することが必要。民医連事業所の役割は大きい」と期待しました。

地域づくりの経験学ぶ

 続いて、全日本民医連介護福祉部長の山田智副会長が「民医連がめざす地域包括ケア」と題して基調講演しました。
 パネルディスカッションでは四人が発言。「急性期病院から見た地域医療の実践課題」(福岡・鈴木美紀さん)、「二四時間三六五日の訪問看護から見た地域 包括ケアの実際」(東京・柴田友美子さん)、「ケアマネジャーから見る地域包括ケアの現状と課題」(滋賀・宅間薫さん)、「法人内における総合病院と在宅 分野との連携のとりくみ」(大阪・太田斉子さん)のテーマで、医療と介護の連携のとりくみを報告しました。
参加した石井有紀江さん(東京・多摩みなみクリニック、看護師)は「事業所は多摩ニュータウンという巨大団地にあります。かつての新興住宅街も高齢化し住 民は孤立。地域づくりの経験がヒントになりました。民医連の事業所として地域から何が求められているのか。共同組織とともに考え実行したい」と話していま した。

セッション

「人は変われる」と実感

生存権・健康権を守る医療・介護の実践~「自己責任」論をのりこえる人づくり・職場づくり

 はじめに、全日本民医連副会長の今田隆一医師が「自殺をめぐる社会的・経済的背景の分析」 をテーマに基調講演しました。自殺が増える年には、社会保障改悪や労働者の収入減があると分析。自殺の原因として多い精神疾患は低所得者ほどかかりやす く、自殺を精神科領域だけでなく、貧困など社会経済的背景から捉えるべき、と指摘しました。
 自殺予防で医療機関にできることとして「貧困対策や地域の社会関係資本の充実を図ること。社会の変動で自殺が増えないように、民医連らしい実践の報告を参考にしよう」と呼びかけました。

事例に学び成長

 広島共立病院SWの山地恭子さんは、事例に学ぶ大切さを自身の体験を交えて報告。生活保護 申請を支援した患者が孤独死したケースを振り返り、「私が担当した他の人も亡くなっていないか、と恐怖を感じた」と言います。経済的要因による手遅れ死亡 事例に関わる中で、この問題は人権侵害だと確信を持つようになりました
 また、同院の看護師たちがホームレスだった患者の半生を聞く会を企画したことを紹介。「どの職種も事例から学ぶことが大事。同じ意識の仲間と、ともに働くことに誇りを感じる」と話しました。
 被災地の宮城から、つばさ薬局多賀城店の菊地秀行事務長が、東日本大震災を経験した職員の成長を報告しました。
 同薬局では仮設住宅への訪問活動を通じて、職員が地域から求められるものを感じ取れるようになりました。「患者に寄り添うことの大切さを実感。民医連のすばらしさも分かった」と話しました。
 北海道勤医協札幌西区病院の及川裕子看護師長は、人間関係のトラブルが絶えない困難な患者について報告しました。
 この患者の問題行動の要因を、生育環境や歴史から捉え直しました。読み書きができないことや感情調整が苦手なことなど生活背景を職場で共有し、職員の意 識も変化。職員の対応が変わったことで、患者も無事に治療を終えました。「忙しい中、患者の背景が見えないこともありますが、あきらめないことで患者の持 てる力を引き出す看護ができた。人間は変われると実感した」と及川さん。
 石川・金沢北健康友の会の藤牧渡会長は、生活保護受給者が生きがいをもてるようにと作った居場所「まつもとてい」について報告。
 居場所を作ったことで、自分のことで精いっぱいだった当事者たちが、困った人を助ける側へと変化。友の会の活動の価値が、職員にも広まりました。まつも とていで大切にしてきたことについて、藤牧会長は「どんな事情がある人でも寄り添い、いっしょに解決していくこと」と話しました。

セッション

日本のSDHの探求と課題

疾病の自己責任論克服へ

 健康の社会的決定要因(Social determinants of  health=SDH)がテーマ。冒頭、座長で全日本民医連副会長の野田浩夫さんがSDHの意義を説明。(1)患者自らが健康を阻害している要因を把握 し、自己責任論に陥らず健康を回復する、(2)医療従事者が疾病の自己責任論を克服し、患者の理解を深める、(3)まちづくりの実践計画や行政の政策の評 価基準となる、の三点をあげ、民医連がSDHを重視する根拠を語りました。
 北海道大学の岸玲子特任教授が「日本におけるSDHの探求と課題」と題して基調講演。岸さんは日本学術会議が二〇一一年に示した二つの提言(働く人の健 康で安寧な生活確保のために/健康の社会格差と改善)を中心的に作成した一人です。同会議は政府から独立した「特別機関」で、日本の全分野の科学者の代表 が集まり政策提言します。雇用改善や健康の社会格差についての提言は初めてでした。
 岸さんは、「日本はかつてなく『生まれづらく、生きづらい国』になった」と、低下する出生率や高い自殺率、貧困率などのデータを提示。日本の健康政策 が、WHOや先進諸国が掲げる「社会的経済的要因による不平等の改善」に挑むには至っていない現状にあることを指摘しました。
 「日本で急ぎ解決すべきは社会経済格差の最大の要因である雇用問題です」と強調。一人ひとりの尊厳が守られる社会をめざし、国民が真剣に納得のいく問題解決策を見つけるために、専門家の関わりを期待しました。

*   *

 あわせて、水俣病患者の掘り起こしと救済に全国の力を結集して大検診を行った熊本民医連の高岡滋医師と、四〇歳以下の2型糖尿病患者の全国調査にとりくむ石川民医連の莇(あざみ)也寸志医師が、それぞれの調査について報告しました。
 参加した野田邦子さん(埼玉・薬剤師)は「QI活動にとりくんでいるので、HPHとつながる指標は何だろう、と学びたくて参加しました。岸先生の話で、 私たちが今後どこに目を向けるべきか明確になりました」と話しました。

(民医連新聞 第1558号 2013年10月21日)

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