民医連新聞

2013年10月7日

命と学びに経済格差 「子どもの貧困」中塚記者が語る 拡大社保委員長共同組織委員長合同会議

 朝日新聞記者の中塚久美子さんが、九月二一日の全日本民医連拡大社保委員長・共同組織委員長合同会議で、子どもの貧困について講演しました。要旨を紹介します。(新井健治記者)

 子どもの貧困と出合ったのは二〇〇八年の母子家庭の取材がきっかけ。当時はこの問題が知られておらず手探りでしたが、データを集め取材をする中で、実態が浮き彫りになりました。
 日本の子どもの貧困率は一五・七%と、四〇人学級なら六~七人はいる割合。経済的理由などによる高校中退者は五万三二四五人と、五日で高校一校が無くなる計算です。
 埼玉県立高校を対象にした調査では、学力と中退率、授業料減免率に強い相関関係がありました()。減免率は最上位校の三・六%に対し最下位校は一九・八%と、親の経済力と学力が比例。最上位校の中退率は二・三%ですが最下位校は三三・三%でした。高校中退では就職が困難です。貧困が貧困を生む「貧困の連鎖」が起きています。
 ある母親は子どもたちが通っていた保育園からの通知を理解できず、継続保育の手続きができませんでした。退所した兄弟はゴミだらけの自宅に二人だけで残 され、満足な食事も与えられずに過ごしていました。「通知が読めない」と話してもピンとこない人もいますが、親の学力が子どもの発達を阻害した事例です。
 母子家庭の中学二年生はお弁当を用意してもらえず、昼食時は教室から姿を消します。担任は「このままではいけないとは思うが、何ができるのか分からない」と言います。私たちに突きつけられた重い宿題です。

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矛盾を背負う子ども

 ところが、こうした事例を記事にすると、読者から反発が。「勝手に離婚しておいて、わがまま」「近所のシングルマザーの家には男性が出入りしている」 「自分も貧乏だったが努力してきた」などの意見です。貧困が社会問題として意識されず、自己責任が強調されています。
 虐待死する子どもの数は年間五一人と週に一人は亡くなっています。虐待事例の家庭状況を分析すると、ひとり親、経済的困難、不安定就労などが多くを占めます。貧困が子どもの命を脅かしているのです。
 取材した埼玉県立小児医療センターでは、新生児集中治療室と継続保育室の四二人の赤ちゃんのうち、六人が退院しても家庭に戻れず乳児院に行きました。
 子どもの貧困はさまざまな「不利」が蓄積し世代間で連鎖します。子どもたちは貧困と関連した児童虐待やDV、家族の病気(特に母親の精神疾患)など矛盾 を一身に背負います。生活が不安定なため学力がつかないうえ、家庭の経済状況が進路選択を限定、意欲の低下が無職や離職にもつながり、貧困を再生産しま す。

英国の対策に学ぶ

 解決方法を探そうと、二〇一〇年に「子どもの貧困撲滅法」を制定、二〇年までに貧困をなくす目標を立てた英国を取材しました。
 同国は未就学児対象の「子どもセンター」を三五〇〇カ所、小学生以上対象の「エクステンディッドスクール」を八〇〇〇カ所整備。朝食を食べられない親子 のために朝食を用意したり、親の雇用支援や学習支援もしています。
 英国には次のようなデータがあります。一六~一八歳で(1)教育を受けている(2)仕事に就いている(3)訓練を受けている、のいずれかの状況にない と、将来的に一兆三〇〇〇億円の社会保障費や治安費が必要になるというのです。日本にはこうしたデータがなく政策が遅れています。

日本での対策は

 日本でも無料学習塾や居場所が広がっています。二〇一二年度に厚労省の「セーフティネット支援対策等事業」を実施したのは九四自治体。たとえば、埼玉県 は生活保護世帯の中学三年生を対象に一〇年度に無料学習会を始め、今では中一から高校生まで対象を広げました。
 民医連でも事業所や共同組織が無料塾を開いており、私も取材しました。今日のような集まりで、皆さんが無料塾の事例を出し合えば、さまざまな知恵が生まれるはずです。
 日本では六月に「子どもの貧困対策法」が制定されました。これは理念法で、具体策はこれからつくる大綱次第です。対策法には医療の記述がなく、貧困率削 減の数値目標もありません。ただ、同法が就学援助の基準引き下げの歯止めや、給付型奨学金を広げる足がかりになる可能性もあります。法律を私たち自身の手 で育てていくために、行動が求められています。

(民医連新聞 第1557号 2013年10月7日)

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