民医連新聞

2013年9月16日

シリーズ 働く人の健康 ~ブラック企業~ 労働者を“使い潰す” 心身破壊され、働けなくなる20代

 「ブ ラック企業」という言葉が日常的に使われるようになりました。労働法を無視して、主に若い人を次々と“使い潰す”。七月の参院選では争点の一つとなりまし た。七月には被害対策弁護団が発足し、厚生労働省も対策に乗り出しています。「ブラック企業」とは何か、どんな働き方なのか。(丸山聡子記者)

ブラック企業とは

 「ブラック企業とは、労働法を守らず、労働者を使い潰す企業のことです」。首都圏青年ユニ オンの山田真吾事務局長はそう指摘します。「四〇~五〇代に多かった過労死や過労自死が二〇~三〇代に多発するようになり、若者がモノのように使い潰され ている。精神を病んで働けなくなる人も多く、命まで危険にさらされている」と山田さん。
 個別に労働相談を続けてきた弁護士たちも、七月にブラック企業被害対策弁護団(九月現在、会員一三〇人超)を結成。「若者を大量に採用し、過重労働・違 法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」と、ブラック企業を定義しています。
 代表の佐々木亮弁護士は、「厳しい雇用情勢の中で、若い人ほど『辞めたら仕事はない。がまんしよう』と声を挙げられない。その結果、ルール違反をしてい るブラック企業は儲けを上げ、法を守る努力をしている企業は生き残れず、最終的にはブラック企業ばかりが残った、ということになりかねない。若者が社会に 出た時点で使い潰され、働けなくなるというのは、日本社会にとっても大問題だ」と指摘します。
  弁護団が開いた設立記念シンポジウムには、予想を上回る一八〇人が参加し、当事者など若い人の姿も目立ちました。

残業代・有休なくパワハラも

 「社長はよく『人は宝』と言っていました。でも、働いている自分たちが大切にされていると 感じたことは一度もありません」。そう話すAさん(二〇代、女性)は、リゾートホテルの宿泊客を相手に、エステやマッサージを提供する会社で働いていまし た。午後一時に出社し、仕事が終わるのは深夜零時過ぎ。深夜手当や残業代はつかず、有給休暇は年五日のみですが、一年三カ月以上働かないと取得できません でした。社会保険にも未加入でした。
 違法な働かせ方に加え、パワハラも横行していました。達成困難な金額を目標にさせられ、達成できないと給料カット。「売り上げが悪いと朝礼でみんなの前 で攻撃される。自分がやられるのも、後輩がやられて泣くのを見るのも、つらかった」とAさん。
 公休日にも出勤を求められ、それでも給料は変わらず。繁忙期には、正午前に出勤し、帰るのは午前二~三時という勤務が九日間続いたことも。病院に行く時間すらなく、妊娠した同僚は辞めさせられました。
 Aさんは「学校を出て初めて働いた会社。言われるままに一生懸命働きました。でも、身体はボロボロ、勤務中は眠くてたまらず、好きだった接客もイヤにな りました」と言います。うつ傾向、円形脱毛症にもなりました。同僚たちと「なんか、おかしいよね」と話し、相談に行った先で「ブラック企業だよ」と言われ ました。Aさんが入社三年三カ月で辞めた時、当初六〇人いた同期は一人もいなくなっていました。
 ブラック企業の特徴は、「若い人を短期間で使い潰す、労働者はどんどん入れ替える」という戦略をとっている点です。放り出された労働者は、次の仕事を探 せたとしてもより悪条件の仕事にならざるを得ず、新たな被害に遭うことも。ひどい場合には、働けないほどの心身の状態に追い込まれたり、自ら死を選ぶこと もあります。

労働現場が貧困生み出す

 シンポジウムで発言した藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス代表・社会福祉士)は、「ブ ラック企業で働いていた人が心身を壊して働けなくなり、生活困窮になって相談に来る。労働現場が貧困を生み出している。きちんと生活できるような働き方の 実現が不可欠だ。労働者が悪いのではなく、社会問題として解決に乗り出すときだ」と指摘しました。
 弁護団は、ブラック企業が行っている違法行為(長時間労働、残業代不払い、パワハラ、労災隠しなど)は、以前から日本社会に蔓延していた違法な働き方で もあると強調。「違法をなくし、ルールを守り、人間らしく働ける社会の実現が目標」としています。

(民医連新聞 第1556号 2013年9月16日)

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