民医連新聞

2013年8月19日

無料塾はじめました! 子どもの貧困問題に向き合う

 子どもの学習支援にとりくむ事業所が増えてきました。日本の子どもの六人に一人が貧困とされるいま、「子どもの貧困」問題に対し て少しでもできることをしようと、地域や共同組織の人たちと力をあわせているのが特徴です。地元の反貧困ネットワークとともに、無料学習サポート「きずな 塾」にとりくんでいる長野医療生協(長野市)を取材しました。
(木下直子記者)

地域でとりくむ

きずな塾

長野医療生協

 八月三日午前一〇時、長野医療生協の事業所、長野中央介護センター「つるが」の多目的室に、次々とやって来る子どもたち。サポーターの大人が笑顔で迎えます。受付簿に名前や学年、勉強したい科目を書いて勉強開始。生徒九人、サポーター一八人できずな塾が始まりました。

■夏休みの宿題を抱え

 対象学年は小学生から高校生まで広範囲。この日も紙粘土をこねる小学一年生から、物理にとりくむ高校生までいました。奥の会議室を学習に集中する部屋に して、交流のテーブル、小さな子ども向けの場所と、スペースをうまく分けて運営。通常は隔週金曜日の午後五時半~七時半の開講ですが、夏休み中のこの日 は、昼食もはさみ午後三時までの特別講座。一人では解けない夏休みの宿題を抱えた子どもが目立ちました。「あ、分かった!」。サポーターの大学院生の解説 を聞いた高校生から弾んだ声があがります。
 部屋の片隅から遠慮がちに様子を見ていた女性がいました。中学一年生の息子が初めて参加したというお母さん。長野中央病院の小児科に置いてあったチラシで、きずな塾を知ったそう。
 「気になりつつ、参加していませんでしたが、期末テストがショックな成績で…。助けてもらおうと、お友達も誘って来ました。無料というのも助かります」。

■まる1年を経て

 きずな塾は二〇一二年八月にスタート。「今日でちょうど一年です」と、塾長の角(すみ)勝弘さん。反貧困ネット長野(反貧困、雇用・暮らし・営業をまもる長野地域ネットワーク)のメンバーで、市内の弁護士事務所で働いています。
 同ネットは子どもの貧困問題にとりくむことを課題の一つにしていました。会議で無料塾の実施が提案され、長野医療生協から参加していた宮﨑ようこさん(事務)が、教育相談にとりくむ先生たちとともに具体化へ。
 塾のチラシを病院の小児科に置き、町内会の回覧板でも回してもらいました。サポーターには退職教員や教職員組合、大学生や専門学校生のほか、回覧板で知った近隣住民も来てくれました。
 当初は生徒が数人という時期もありましたが、これまで参加した子どもたちは三〇人以上、サポーターも約四〇人にのぼります。子どもたちが勉強している間、保護者の相談に乗ることもあります。
 小児科で塾のチラシを手にして、「神様が降りてきたと思った」と喜んだ親も。高校受験を控えた子どもを塾に通わせる金銭的余裕がなく、悩んでいたのです。支援の甲斐あって無事合格しました。

 また、きずな塾は、子どもたちの居場所になりつつあります。来ても勉強はせず、交流コー ナーに陣取り、ここでできた友だちやサポーターと話だけして帰る子も。不登校の子も顔を出します。「三桁のひき算が『わかんない』と泣いちゃう小学生もい ます。低学年から学習し直そうとすると『もう大きいのに』とまた涙。それでもがんばるんです。学校では『お家で集中してやりなさい』と声をかけますが、集 中するには子どもが安心できる環境が家庭になければ難しい」と、教職員組合で教育相談に携わってきた小林啓子さん。

■貧困が見えてきた

 塾を始めたスタッフの実感は、「子どもの貧困が具体的に見えてきた」ということ。小林さんは「学習の遅れや発達障害、不登校、最初は子どもたちを様々な問題別に見ていましたが、実は『貧困』という共通点があった」と驚きを込めて語りました。
 塾に来る生徒たちの多くがひとり親世帯です。日本のひとり親世帯の貧困率の高さは各種調査で知られる通り(図)。「『子どもの貧困対策法』がようやくできた一方で、生活保護改悪など、貧困の解決どころではない流れがある」と懸念します。
 また、発達途上の子どもの場合、貧困は単に金銭の不足だけではないことも痛感。「とりくんだ収穫は大きかった」と、角さん。
 「貧困の解決には、ワーキングプアのような労働のあり方や、社会保障制度の充実が必要で、教育だけでは足りないことも分かっています。でも、子どもたち を見守る大人は多い方がいい」と、宮﨑さん。「小児科から紹介されて塾に来る子も増えています。病院との連携ももっと強めたい」。

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奈 良

看護学校への進学を応援

 平和会は2011年秋、健康友の会の役員さんの声で無料塾を始めました。進学を望む青年を応援したい。また、いつか無料塾で生まれた医師や看護師といっしょに働ければ…という思いもありました。
 組織部が看護学生担当者と相談すると、看護学校をめざしているものの苦労している高校生や社会人がいるとの情報が。そこで内容を看護学校受験対策にしま した。5人の教員経験者を講師に、月・水・金の午後、国語、数学、英語の3教科にとりくんでいます。受講者は働きながら進学をめざす若者が中心。苦労もあ りますが、成果が出た時の喜びはひとしおです。
 これまで3人が合格、うち2人が奨学生に。無料塾を通じて友の会らしい看護師確保への支援をもらえ、奨学生誕生もいっしょに喜べました。もっと地域に知らせたいです。
(平和会、小西直・柴田なお)

和歌山

学習・遊び・相談を柱に

 和歌山中央医療生協は、2012年7月から「子ども応援ひろば」をスタートしました。「子どもを取り巻く状況悪化に対して医療生協の力を集めよう」と、生協子ども診療所の佐藤洋一所長(県連会長)が呼びかけたことがきっかけです。
 退職教員の組合員さんらと子ども委員会を結成、尼崎医療生協でとりくんでいる子ども広場も参考にしました。最初は子ども診療所の患児に声をかけ、口コミ で広げることに。毎月2回、木曜日の午後6時から和歌山生協病院付属診療所の会議室で開催。勉強と遊び、そして保護者の相談が柱です。
 勉強の苦手な子や不登校児など小・中学生5人が楽しみに通っています。今後も試行錯誤しつつ、良いものにしたいと考えています。
(和歌山中央医療生協、中嶋一雄)

(民医連新聞 第1554号 2013年8月19日)

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