民医連新聞

2013年8月19日

みんいれん60周年〈広島〉 被爆と貧困と差別の中から生まれた 広島中央保健生協

 戦後六八年、被爆者の平均年齢は七八・八歳と高齢化しています。シリーズ民医連六〇周年の今回は広島から。三〇年前から被爆者を診てきた藤原秀文医師(生協内科クリニック・広島中央保健生協)を通して、民医連と被爆者のかかわりをみていきます。(新井健治記者)

 藤原医師が所長を務めるクリニックは、爆心地から一・五㎞。「原爆で家族を失い、独居の被 爆者が多い。年々、認知症や寝たきりの人も増えており、介護が大きな課題です」と語ります。糖尿病外来を担当しながら週に四回、一日一〇~一五軒を訪問診 療。通常の診療そのものが被爆者医療です。一九九〇年代まで患者の七割が被爆者でしたが、亡くなったり施設に入所して今は四割ほど。
 「ピカの閃光を見て、爆風で飛ばされた」と語る中山用順さん(81)もその一人。高血圧と糖尿病があり、腰椎圧迫骨折で立ち上がることも困難ですが、一 人暮らしです。藤原医師は血圧と血中酸素濃度を測り、聴診器を当てます。「被爆者医療といっても特別なことはありませんが、しっかりした健康管理を心がけ ています」。
 被爆者は放射線障害でがんになりやすく、胃がんと大腸がんを併発するなど通常では見られない重複がんも目立ちます。心筋梗塞など動脈硬化性疾患や甲状腺疾患にもかかりやすく、少しの変化も見逃せません。
 認知症や寝たきりでも一人暮らしの患者がいますが、ヘルパーがこまめに入って支援。被爆者には被爆者援護法で介護手当が支給されます。手当でヘルパーを雇い、なんとか生活を維持できる人もいます。

通える医療機関なく

 生協内科クリニックは福島生協病院の専門外来診療所です。病院のある広島市の福島町は戦前、被差別部落で貧困世帯が集中、強制労働で連れて来られた中国人や朝鮮人も大勢住んでいました。冒頭の中山さんも在日朝鮮人です。
 福島町は原爆で焼け野原になりましたが、戦後も差別され復興は他の地域より一〇年以上遅れました。劣悪な住環境で結核などの感染症が多いものの、住民が通える医療機関はありませんでした。
 被爆と貧困と差別―。幾重の苦しみの中から住民が医療生協をつくり、広島民医連の原点となる福島診療所を開設したのは一九五五年。五九年に病院化、六一 年に被爆者認定医療機関になり、県内では初めて専門のソーシャルワーカーを配置。貧困や差別などの相談をしながら医療につなげました。
 六七年に被爆者相談室を設けると、全国から患者が集まりました。「ぶらぶら病」など被爆者特有の症状に対応できる医療機関が少なかったからです。相談室 は六九年に被爆診療科に発展、町内の集会所に出向いて被爆者健診会を開き、関西を中心に県外でも集団健診を行って被爆者の健康管理を続けました。

「実は被爆者なんだけど」

 「戦後六〇年以上経ってから、ある日突然『実は被爆者なんだけど』と打ち明ける人もいます。高齢になり、このまま黙って死んではいけないと思うのでしょ うね。語り部みたいに順序だてて話せる人は少ないが、ポツリポツリとした会話の中に、時にはっとさせられる言葉がある」と藤原医師。
 中山さんは被爆者手帳を取得するため、当時の同級生に証人になってもらおうと連絡をとりました。ところが、「今は幸せに暮らしている。昔のことは話したくない」と拒まれたそうです。
 「高齢になり、身体のあちこちが痛んでくると『ピカのせいでは』と不安になる。現段階で放射能の影響がないとされる病気でも『原爆とは関係ありません』とは断定しません。それでは患者さんも納得しないでしょう」。

封印した記憶を解く

 広島中央保健生協には、被爆者の組合員でつくる「被爆者の会」があり、被爆体験の語り部や核兵器廃絶の運動を担ってきました。池上慶子会長(84)は「二度と被ばく者をつくらない、との思いで活動してきたので、福島の原発事故はとても辛い」と話します。
 会の事務局は福島生協病院の医療相談室にあります。同室主任の松井泰子SWは「生活に困難を抱えた患者が多く、相談をする中で被爆体験にふれることも。八〇代になってから、封印していた記憶を涙ながらに語り始める人もいます」と指摘します。
 広島では被爆者は当たり前に存在します。語り部や核兵器廃絶の〝旗振り役〟をする人は、むしろ少数。「でも、根底には二度とこんな悲惨な経験はしたくない、核兵器は絶対に使ってほしくないとの思いがあります」と藤原医師。
 被爆者は藤原医師の訪問を楽しみに待っています。どんな時も患者に寄り添い、気持ちを受け止めます。診療が終われば「暑いけんね、水分こまめにとってね」と語りかけます。「明るい気持ちになれるよう、いつも笑顔を心がけています」。

(民医連新聞 第1554号 2013年8月19日)

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