民医連新聞

2013年8月5日

民医連医師集団と被爆者の奮闘を描いた一冊 原爆症認定訴訟熊本弁護団事務局長 寺内大介弁護士

 【書評】

 広島・長崎に原爆が投下され今年で六八年。民医連は、原爆症と認められな かった被爆者たちと、国を相手に原爆症認定集団訴訟を起こしました。被爆の実態に寄り添いながら放射能の影響を分析してきた医師たち。その奮闘の記録が一 冊の本になりました。原爆症認定訴訟熊本弁護団事務局長としてたたかった、寺内大介弁護士の書評です。

 本書はサブタイトルにあるとおり、二〇〇三年から二〇一一年まで八年間にわたって被爆者とともにたたかった全日本民医連の医師たちのたたかいの記録であり、勝利の軌跡です。

困惑しつつも立ち上がる医師たち~ “民医連の精神”

 小西恭司副会長は、本書の冒頭に、この訴訟が日本被団協の肥田舜太郎氏(元民医連医師)と田中煕己(てるみ)事務局長からの支援要請を受け始まったことを紹介。
 しかし、当時の全日本民医連の被ばく問題委員会でも、初期放射線以外(残留放射線)の被爆で原爆症を発症することについて否定的な意見もありました。ま た、入市被爆者や遠距離被爆者の放射線の影響を、医学的に証明しがたいと考える意見も少なくなかったようです。
 ところが「こんなときはまずやると決めて、それからどうするかを考えるのが民医連」と言うある医師の発言から、被爆者に寄り添うことを決めました。
 そして「人生をかけた医学論争になる覚悟」を決め、医師の意見書の作成に立ち上がったこと。これについて座談会の「医師たちはこうして訴訟を勝利に導い た」では、長年広島で被爆者医療に携わってきた齊藤紀(おさむ)医師が、これこそ「民医連の精神」と言っています。

4つのポイント~ 複眼的視点の重要性

 被ばく問題委員会委員長(当時)の聞間元(ききまはじめ)医師は、医師団の統一意見書を作成するに際し、四つのポイントを示しました。
一.被ばくの実態を重視する
二.放影研(放射線影響研究所)のLSS(寿命調査)やAHS(成人健康調査)などの論文を活用する
三.初期放射線による被ばくのみを根拠にしたDS86(八六年線量推定方式)と原因確率を批判する
四.「あるべき認定の条件」をまとめる

 医師団はこれらのポイントをおさえたうえで統一意見書作成にあたり“複眼的視点”を大事にしました。
 放影研は「残留放射線の人体影響は無視できる」という立場でした。その論文を使うことについて異論もありました。しかし医師団はむしろ、その論文の中に こそ「残留放射線の人体影響は無視できない」という科学的根拠があることに着目。集団訴訟の判決は、放影研のLSSやAHSを重要な証拠にしており、医師 団の複眼的視点には、先見性がありました。

全日本民医連の本領発揮

 日本被団協が原爆症認定制度の転換を掲げて、全国の被爆者に対し集団申請を呼びかけまし た。結果、一七地裁・三〇六人の集団訴訟に発展。各地に点在する被爆者に寄り添い、被爆実態や病状をふまえた意見書を作成するのは、全国に事業所を持つ民 医連でなければできない力仕事です。
 その意味では、長年、被爆者医療にとりくんできた民医連の本領が発揮されたたたかいでした。そしてそこに注目した被団協にも先見の明がありました。
次の世代に伝えること
 聞間医師は放影研の論文を精査して医師団の統一意見書をまとめ上げました。
 聞間医師はLSSには被爆後五年間で亡くなった人のデータが抜け落ちていること、今後はそこに注意を払いながら現在の福島の問題を捉えていく必要性を指 摘しています。LSSをベースにしたICRP(国際放射線防護委員会)の基準が過小評価になっている可能性を考慮しながら、福島での健康調査を継続して 行っていくべきということです。
 本書のIVの「各地の取り組み こう闘った、こう勝利した」では、各地裁で初めて証言台に立ち、汗と涙を流した医師たちの達成感に満ちた息づかいが感じられます。
 巻末には、添付文献を含めると三五〇頁に及ぶ一一人の医師による「医師団意見書」(本書には本文のみ掲載)や声明・談話、「2004年くまもと被爆者健 康調査プロジェクト04」も掲載されており、資料価値も高い。この夏おすすめの一冊です。

『被爆者の思いを胸に』

 原爆症認定集団訴訟をともに闘った医師たちの勝利の軌跡 全日本民主医療機関連合会編
 発行 かもがわ出版
■注文は、保健医療研究所まで。民医連価格で販売FAX〇三(五八四二)五六五七

(民医連新聞 第1553号 2013年8月5日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ