民医連新聞

2013年7月1日

被災地発 宮城・若林クリニック “命綱”戻してほしい 窓口負担免除なくなり4割が受診控え

 東日本大震災被災者の医療費窓口負担の免除措置が、四月から宮城県で打ち切られました。震災から二年四カ月経っても、津波で流さ れた住まいの再建や仕事のめどが立たない被災者は大勢います。宮城民医連の調査では、免除を打ち切られた患者の約四割が受診を控えようとするなど深刻な影 響が。安倍内閣は「被災地支援」を打ち出していますが、実態は違います。仙台市沿岸部の若林クリニックを訪ねました。(新井健治記者)

 「おっとさんは『逃げよう』と言っても畑に残っていて…」。若林健康友の会の佐藤勢子さん (73)は、津波で夫を亡くしました。若林区三本塚の自宅は津波で流され、太白区のアパート(みなし仮設住宅)に一人住まい。農業は続けられず、収入は二 カ月で一〇万円余の国民年金だけ。「高血圧で耳鼻科や眼科にも行く。医療費がかかって大変」と言います。
 宮城では被災者の生活再建が遅れています。高台などへの集団移転の工事はこれから。災害公営住宅は五〇戸しか完成していません。生業再開も遅れ、失業し たり収入が激減した人が大勢います。仮設住宅は市街地から離れており、通院交通費がかさむうえ医療費の自己負担がかかります。
 若林クリニックは海岸から四kmと、仙台市内で一番海に近い診療所です。医療費免除を受けていた患者は約七割にのぼり、県連内で最多。医療費免除は被災者にとって、まさに“命綱”でした。

「見捨てられた」

 自宅が半壊以上などの被災者に国は当初、全額を負担して医療費を免除しました。しかし昨年 一〇月に制度を変更、国保加入者と後期高齢者に限り、自治体が免除経費の二割を負担すれば残る八割を補助することに。協会けんぽ加入者は、昨年一〇月から 既に免除が打ち切られています。
 宮城県の村井知事は、これまで国保財源で負担していた二割分を四月に打ち切りました。このため、免除されていた約二五万人が、窓口で医療費の三割(七〇 歳以上は一割)を払うことに。対照的に岩手と福島では、県と市町村が負担して免除を続けています。
 元民医連職員で県会議員の天下みゆきさん(共産)は、議会で再三免除継続を訴えてきました。全国からの寄付金を集めた県の「地域整備推進基金」(一〇四 億円)の活用も提案しましたが、知事は「優先順位の問題」と応じませんでした。天下さんは「被災者のいのちこそ最優先すべき。震災に便乗した大規模開発ば かりに予算が使われている」と指摘します。
 六月一四日、復旧・復興支援みやぎ県民センターが、免除復活を求める約一万六〇〇〇人の署名を集めて県に要請。民医連事業所が免除を受けていた患者に 行ったアンケート(四七五人)では、打ち切りで三九・二%が何らかの受診抑制を検討していることが分かりました。うち、「受診回数を減らす」が四割、「薬 の間引き」と「検査回数を減らす」が各三割。宮城県保険医協会が開業医一二六人に行った調査でも、約半数が「受診が必要だが来院していない患者がいる」と 回答しました。
 民医連のSWには、「自殺も考える」「宮城だけ打ち切られ、見捨てられたよう」など悲痛な訴えが寄せられています。

介護サービスも減らし

 免除打ち切り直後の四月、若林クリニックの一カ月の患者数は五〇人以上減りました。平尾良親所長は「打ち切りを見越して、三月に駆け込みで検査をした患者もいる」と語りました。
 医療費とともに、介護保険利用料の免除も打ち切られています。看護師長の京玲子さんは、「医療と介護の自己負担が一気に発生し、食費を削る世帯も。もと もと大変だった被災者の生活が、いよいよ切羽詰まっている」と言います。各事業所のケアマネジャーが五月のケアプランを調査したところ、免除打ち切りで サービスを減らしたり中止した例が出ていることが明らかになりました。
 長引く避難生活で、被災者の心と体の健康は悪化しています。佐藤さんは「今でも黒い波が追いかけてくる夢を見る。一人で仮設にいると頭がおかしくなりそう」と言います。
 若林健康友の会副会長の大友睦夫さん(71)は「震災直後は気が張っていた人も、二年を過ぎてから病気が出てくる。見通しの立たない生活に、多くの被災 者が苦しんでいる。これから行政の支援が必要なのに、免除を打ち切るとは」と怒ります。

 自治体が免除経費の二割を負担する制度は、被災規模が大きく国保財政が厳しい市町村ほど負担が重くなるため、本来は国が全額(約二六〇億円)を負担すべ きです。国会で高橋千鶴子衆院議員(共産)が要望しましたが、政府は復興予算のうち一兆円を被災地とは関係のない事業に流用する一方、被災者の切実な要求 には応えません。参院選でも国の姿勢が問われます。

(民医連新聞 第1551号 2013年7月1日)

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