民医連新聞

2013年6月17日

シリーズ 働く人の健康 ~タクシー労働者~ 手遅れ死亡事例なぜ多発 背景に過酷な労働条件

 今回はタクシー労働者について。全日本民医連が今年三月二九日に発表した「二〇一二年国保など手遅れ、死亡事例」の五八人の犠牲 者のうち、タクシー労働者は最多の七人でした。「分かる気がします」と東京・江古田沼袋診療所の木村良子所長。同診では毎年、二五〇人規模のタクシー労働 者の健診を行っています。その健康状態とは―。

生活習慣病になりやすい

 「タクシー労働者には生活習慣病が多い。血糖や血圧、中性脂肪も一般男性の平均よりも高い」。こんな研究発表がこれまでもされています。また、五〇代の空腹時血糖は一般の平均と比べとびぬけて上回る高い数値が(図1)
 同診療所にかかっていたタクシー労働者のうち、ここ数年で六人が亡くなっていますが、いずれも複数の生活習慣病を抱えていました。健診から治療を始めたが、一年経たずに亡くなる例や突然死も。
 生活習慣病の要因は運動不足やストレス、喫煙や飲酒、深夜業務などの不規則な生活です。木村医師は労働者から「食事時間は不規則で、内容も三食カップ ラーメンという日やコンビニ弁当が多い。夜は早く寝つけるように飲酒したり睡眠薬を使っている」といった生活ぶりを聞いています。また、喫煙者も目立ちま す。

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規制緩和で悪化した労働環境

 なぜこんなに不規則な生活なのでしょう。それは、この業種ならではの働き方に原因があります。
 図2はタクシー労働者の平均的な働き方を表しています。 二四時間働き、次の日は一日休みというものです。国土交通省の調べでは労働時間が全産業平均より一九二時間多い年間二四一二時間(二〇〇六年度)。そんな 長時間労働でも、収入は水揚げ(売り上げ)に左右されるため不安定で、地方などでは生活保護基準より低い収入になる場合もあります。
 状況を加速させたのは、二〇〇二年の道路運送法「改正」による規制緩和です。新規の会社参入が可能になり、ドライバーは増加。業界は失業者の雇用の受け 皿にもなりました。しかし、供給が増加した一方、交通手段の多様化や不況などの影響で需要は減少。労働者の賃金は下がりました。

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健康悪化で交通事故も増加

 健康悪化が原因の交通事故も増加しています。タクシーの事故件数は、〇二年の規制緩和後、一七件から三五件へと倍増しています(国土交通省調べ)。運転中に脳出血や心疾患などを起こしています。
 木村医師は「安全な乗り物のはずのタクシーが、労働者の健康状態次第で危険性が高くなる」と指摘します。

改善に何が必要か

 改善のために、医療者からはどんなアプローチができるか。
 「健康に問題のあるタクシー労働者には独身者が目立ちます。ですから『俺が健康になっても誰も喜ばない。治療の意味がない』という風に、自分の健康問題 になかなか関心が持てない人も」と、木村医師。健診で異常が見つかっても受診するタクシー労働者は多くありません。「本人の生きがいや、前向きに生きる姿 勢そのものをささえる必要を感じます」。
 タクシー労働者が受診した時、木村医師は患者と診療所との信頼関係を築くことを重視しています。治療が継続するためにも、頭ごなしに指導して拒否反応が おきないよう、生活を細かく聞き、寄り添うように意識しています。
 「重い高血圧の人には休んでほしいと思う一方、働かないと本人の生活が成り立たないことも理解しないと、治療の継続は難しい。経済的な負担を軽くするこ とで、受診につながる人もいます。民医連の中でもぜひ一度、タクシー労働者の実態を学んでみてほしい」。(矢作史考記者)

(民医連新聞 第1550号 2013年6月17日)

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