民医連新聞

2013年6月17日

相談室日誌 連載373 医療を拒否した夫と見守った妻 小椋真紀子(静岡)

 「絶対に受診しない、家に医者が来ても受診しない」と言う夫を持つ奥さんが、「どうしたらいいでしょうか」と来室されました。
 当事者のAさんは元大工。四年前から体調不良で特に浮腫がひどく、家の中でトイレに行くだけでも疲れてしまう状態だというのです。外来師長とともにSW が家庭訪問し、Aさんの状態をチェックしました。受診を勧めましたが「絶対に行かない、かつて病院で嫌な思いをしたから」と頑なに拒否されました。「経済 的な面でも心配はしなくていい」と伝えても態度は変わらずじまい。三日後に再び訪問してみましたが、やはりAさんは受け入れません。奥さんには、もしAさ んの意識がなくるようなことがあれば当院に連絡するか、救急車を呼ぶように話し、訪問を終えました。
 その後、奥さんからは「病院職員が家に来ると夫が怒るので、もう訪問はいいです」と連絡が。そこで隔週のペースで、電話で奥さんに電話でAさんの状態を聞き、相談に乗っていました。
 「意識はあるが動けなくなり、臀部が黒くなっている」と奥さんから連絡があったのは数カ月後。救急車で当院に搬送しましたが、意識朦朧となりその日に息を引き取られました。
 奥さんは夫を看取る前に、病室の前でSWに語りました。「夫が元気な頃は、お酒を飲み、手をあげることもあった。兄弟が多いが頑固な性格のため、兄弟、親族とは疎遠で自分の子どもたちとも折り合いが悪い」と。
 そして主治医には「自宅で夫が亡くなっても仕方ないと考えていたが、病状が厳しくなるにつれ『数カ月後の本人の誕生日まで生きられないか』との思いも生まれていた」と語りました。頑固なAさんとの生活の苦労や、複雑な心境を語りながらも、奥さんは寂しそうでした。
 亡くなるその日まで自宅で生活し、奥さんに最期を看とられたAさんは、ある意味幸せであったと思います。
 夫を見送ってしばらくして、これまで自分のことは二の次だった奥さんが、外来通院を始めました。奥さんの心と体のケアで関わりを持っていきたいと思います。

(民医連新聞 第1550号 2013年6月17日)

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