民医連新聞

2013年6月3日

「生活保護法改正法案」は廃案に 生きる権利を奪う その内容

 五月一七日に閣議決定された「生活保護法の一部を改正する法律案」。生活保護申請に厳しいハードルを設ける内容で、政府の審議会委員も抗議します(別項)。全日本民医連は抗議声明を発表し、緊急行動も提起。与野党で修正協議に入っていますが、廃案にすべきです。

「水際作戦」を合法化

 生活保護法改正法案(以下「改正法案」)は、生活保護の申請時に、「要保護者の住所及び氏 名」のほか、「資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況等を含む)」や「厚生労働省令で定める事項」を記した申 請書の提出と「厚生労働省令で定める書類の添付」を求めました。
 これまで申請は「口頭でも良い」とされてきましたが、書面提出が必須になれば、緊急に保護が必要な人でも追い返される恐れが。
 申請させず返す手法は「水際作戦」と呼ばれ、北九州餓死事件(二〇〇六年)や、札幌市姉妹餓死事件(一二年)など悲惨な事件を起こしてきました。
 これは厚労省も違法と認める「申請権の侵害」です。ところが改正法案では、必要な書類提出がないとの理由で追い返してもよくなります。「水際作戦」の合法化です。
 なお、国会では自公民がこの部分を修正すると報じられていますが(五月二七日現在)、他にも申請を阻む項目が並びます。

親族の扶養を強要

 要保護者の扶養義務者(親子、兄弟姉妹)、その他の同居の親族等に「報告を求めることがで きる」としたことも改正法案の重大な問題点です。これは、「過去に保護を受けていた人」の扶養義務者まで対象です。調査は官公庁や年金機構、銀行だけでな く、「勤務先への照会」も可能に。
 現行の生活保護法では、扶養義務者の扶養は保護の「要件」ではありません。仕送りなどがあった時に収入認定し、その分の保護費を減額します。「生活保護 制度は社会保障であり、家族の自助、相互扶助制度ではない」という考え方が根本にあるからです。
 貧困が拡がる中、生活保護の受給を考える人の親族も困窮している場合が珍しくありません。親子や兄弟の扶養が事実上、申請の「要件」になれば、保護が必要でも、申請を諦める人が増えることは明らかです。

その他の問題

 「受給者には後発医薬品の使用を可能な限り促す」としました。明文化は事実上の強制です。受給者の自己決定権を奪うことにも。
 「健康の保持・増進、生計の把握」などの生活上の責務を、受給者にのみ負わせています。精神病や依存症を抱える受給者も多く、専門的な援助や治療が必要なことは考慮していません。
 不正受給があった場合、徴収金を保護金品から徴収することを認める条文も。保護金品の差し押さえを禁止した規定(五八条)に違反する恐れがあります。

【緊急行動提起】

六月二六日の会期末までに法案成立が狙われています。全日本民医連は、生存権を否定するこの大改悪法案を廃案にするための行動提起を発表しました。▽県 連・事業所で抗議声明を発表▽学習の強化▽地元国会議員や政党に要請▽全生連の個人請願署名▽生保実態調査の会見などマスコミへの働きかけ▽職能団体との 共同など。(木下直子記者)


審議しなかった内容が法案に
撤回すべきです

 社会保障審議会特別部会委員・藤田孝典さん(NPOほっとプラス理事長)

 法案には驚きました。私が参加していた社会保障審議会特別部会では議論していない内容です。厚生労働省は「現在の運用を文書化しただけで変わらない」と 説明しますが、法律に明記されるとその効力は大きい。窓口で生活保護申請者を追い返す「水際作戦」のいい口実になります。
 また、親兄弟への「扶養照会」は、いまでさえ申請を強力に阻んでいますから、法案通り扶養が強化されれば、申請を断念する人がさらに増えることは確実です。
 なお、特別部会は扶養について「『要件』ではなく『優先』」だと確認していました。法案にはその総意と真逆の内容が書かれました。厚労省はなぜ一年間の議論を覆したのか、説明する責任があります。
 ちなみに、改定法案と別に、受給六カ月以内に就労集中支援を行う方針が出ました。これについても部会では「『まず就労』ではなく、生活支援を中心としたケアが必要」とまとめたはずでした。

《水際作戦は死刑宣告》

 困窮して生活保護を申請に来た人を窓口で追い返すことは「あなたの命は救う値打ちがない」との死刑宣告に等しい。その人に残された選択肢は、餓死か、犯罪に手を染めるか、自死しかありません。
 いのちに関わる政策は失敗してはいけません。他の政策での失敗は取り戻せるかもしれませんが、いのちは取り返せません。審議に関わった者としての責任も 感じています。明らかに失敗が見えている改正法案は撤回すべきです。
 困窮者支援に関わる私たちも試されていると思います。組織の理念を改めて確認し、どんな悪法にも対抗する姿勢でいかなければ。

(民医連新聞 第1549号 2013年6月3日)

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