民医連新聞

2013年6月3日

“困難”なんて思ってへんヨ 介護が作ったきょうだいの居場所 奈良・岡谷会ホームヘルプステーション

 「ぜひ取材に来て」と連絡が入りました。自治体が、介護保険の弾力運用を認めたという朗報。聞けばその背後には、長年の訪問介護で、地域に居場所を得たきょうだいの物語がありました。それは「介護の力」を伝えるエピソードでもあります。(木下直子記者)

 連絡は奈良から。奈良市で訪問介護を行う岡谷会ホームヘルプステーションが関わるケースです。浴室のない借家に住む利用者が、法人の寮で入浴する際の介助を、介護保険サービスとして行って良いと自治体が認めたのです。
 利用者は重い精神障害を抱える七〇代の兄・清さん。知的障害で総合支援法のケアを受ける妹・道子さん(ともに仮名)と二人暮らしです。通常、介護保険で は施設を除き、自宅外での入浴介助はできません。自治体の「独自ルール」といえば利用を抑制するものが多い中、珍しい出来事でした。

年にたった数回だった入浴が

 「年数回だった入浴が、これで週一回できるようになった」と、同ステーションの重永和代所長。
 清さんは不特定多数の人と接する施設での入浴に抵抗があります。また足に障害があり、それを人目にさらすのも嫌なのです。しかし、清さんの足の皮膚トラ ブルや道子さんが患う尿路感染症にはどうしても保清が必要でした。着替えの習慣をつけ、足浴を増やすなど通常の訪問介護を工夫。またここ数年は道子さんの 移動支援として重永さんが銭湯に同行し、それに清さんも加わる形で月一回程度、入浴の機会を作ってきました。
 「ですが私は男湯に入れませんから、清さんの介助はできません。一人では十分体が洗えず、皮膚トラブルも治らなくて」と重永さん。法人の事務所で悩んで いると「寮の空き部屋のお風呂を使っては?」と提案が。担当ケアマネジャーや事業所が奈良市に要請し、「あくまで施設入浴をめざす経過的措置」との条件つ きですが、介護保険の適用が認められました。
 「これまで皆でがんばってきたご褒美かな」。重永さんは振り返ります。

障害抱えたきょうだい

 「六歳程の知能で、三三年間入院していた人が退院する」―。八年前、こんな依頼でステーションは関わり始めました。清さんと暮らしていた母親が亡くなり「清さんに独りは耐えられない」との行政の判断で、一九歳から病院にいた妹・道子さんが戻されたのです。
 母親が遺した洋服や日用品などが山積みの異臭のする部屋に、ネズミや虫とともに住む二人の環境整備が最初の支援。ひと月がかりで軽トラ一六台分のゴミが 出ました。ヘルパーは歓迎されぬ存在でしたが、一日一回一時間半の訪問から関係を作っていきました。
 最初の不安どおり、支援には山あり谷あり。金銭管理がうまくできず、生活保護費が半月ほどで尽き、きな粉をまぶしたご飯を作るしかなかった日も。お金が 無いと近隣住民に一〇〇円、二〇〇円単位で借金する道子さんへの苦情もステーションに入ります。きょうだいから金品をせびっていた知人の存在も浮上。問題 が起こるたび、保護費を振り込みにしたり小遣い帳をつけたり、ヘルパーたちは知恵を絞り、対応していきました。
 また銭湯への同行では、二人が地域でどんな扱いを受けていたかも痛感。番台は露骨に嫌な顔を見せ、風呂から上がった直後、道子さんとヘルパーは汚いもののようにホウキで掃き立てられました。

「社会の中の2人」に

 そしていま、先行き安泰とは言えませんが、重永さんたちが確信していることが。それは、二 人に関わる人の輪が広がったこと。昨年、成年後見人も決まりました。ヘルパーの援助が前提ですが、今年は二人に町会の当番が任せられ、広報の配布や町会費 の集金なども引き受けています。地域でも顔見知りが増え、気軽に声がかかるようになりました。「孤立していた二人が、『社会の中の二人』になれたんやなぁ と嬉しい」と、重永さん。
 一般的には「困難ケース」と呼ばれる二人ですが、重永さんは「『困難』とは思わなかった」と言い切ります。「二人に起きるトラブルは、支援の制度が薄い から。上手に表現できなくても、その人たちらしく生きていて、それをささえるのが介護。改悪続きの介護制度は信用できませんが、職員と利用者さんの力は信 じられる」。

介護は地域の「財産」

 岡谷会は、民医連の中でも早くから介護にとりくんできた法人。「岡谷さんがいるなら」と、 清さんたちのように地域に許容される利用者は珍しくないといいます。「奈良市東部は高齢者が住みやすい地域ですが、その要素の一つが、岡谷会の存在」と事 務主任の山崎直幸さん。「また良い介護は医療にも『財産』。行き場のない高齢者の問題が出ていますが、それは医療の努力も損ないかねません。利用者の土俵 で勝負する訪問介護の醍醐味を共有しながら【「地域で生きる」をささえる】という岡谷の合言葉を貫きたいですね」。

(民医連新聞 第1549号 2013年6月3日)

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