民医連新聞

2013年5月20日

みんいれん60周年<歯科> 障害者の口の健康 私たちが守る 兵庫 生協なでしこ歯科

 創立六〇周年シリーズ、今月は歯科が登場。生協なでしこ歯科(神戸医療生協)は障害者施設で口腔保健活動を行っています。障害者は歯科治療の機会が少なく、口腔状態が悪化しがち。誰でも医療が受けられることをめざしたとりくみです。(矢作史考記者)

 「はい、じゃあ歯を磨きますよー。五回磨きまーす。一、二、三!」。神戸市にある障害者支援施設・あゆみの里での光景です。ホールに来た利用者一人一人に歯科衛生士が歯磨き指導していきます。施設の利用者は、ダウン症や自閉症などの知的障害者です。
 歯磨き指導がすむと、歯科衛生士が仕上げ磨き。利用者たちは慣れた様子で衛生士の膝に頭を乗せています。その後は、歯科医師が検診や口腔ケア。取材した日は歯科衛生士八人と歯科医師二人が約五〇人を診ました。
 終了後は、歯科スタッフから施設職員や看護師に、気になる状態だった利用者についての申し送りも行います。
 利用者さんが口を見せてくれました。歯茎の腫れや歯石もなく、きれいでした。施設の職員も「歯茎から出血する人が減りました。口腔疾患の早期発見にもつながって、ありがたい」と。
 なでしこ歯科が障害者施設を訪問し、口腔保健活動を行っているのは毎週火・木曜日。訪問している施設は現在九カ所で、年間の訪問数は二〇〇回になります。

障害者の口に目をむけて

 そもそも障害者の「口の健康」に着目し、活動を始めたのは黒田和博歯科医師(当時は神戸医療生協協同歯科)でした。
 障害者には歯周病や歯石などのトラブルが多く見られるものの、歯科医療は遠い存在でした。本人からの訴えが弱かったり、通院自体が大仕事で、継続治療も 困難。パニックを起こした場合の安全確保の問題もあります。「まず障害者を診る歯科医院が少ないのです」と黒田医師。「障害があっても、皆と同じように歯 科治療が受けられることをめざしました」。
 活動当初は、仰向けに寝かせて歯磨きをするだけで、暴れてしまいました。そのため、大勢で身体を抑制する必要がありました。「三〇年間歯磨きしたことが なかった人に歯磨き習慣をつけるのに、三〇年間かけてもいい」と、あきらめないことにこだわりました。スタッフは障害者との関わり方などについても学習を 重ねました。
 今では、気持ちよさそうに歯を磨いてもらう利用者もいます。「以前は利用者一人の治療をするのに多くのスタッフが必要でした。でも今は、何をするか理解 してくれていますから」と、長年関わってきた歯科衛生士の井上治子さん。
 あゆみの里への訪問も二〇年近くに。関わり始めた頃の利用者たちは当時、一人平均五~六本の虫歯を抱えていました。平均年齢二五歳で、すでに複数の歯を 失っている人も珍しくありませんでした。施設の理事長・今岡幸子さんは「障害者の歯科治療は、全身麻酔で行われることも。私たちは、口腔保健活動のおかげ で、治療を受ける力が身につきました」と語りました。

苦労もあるがやりがいも

 障害者施設での活動は歯科衛生士が一人一施設、担当を決めてすすめています。活動の場を広 げる歯科衛生士もいます。榎本亜由夢(あゆむ)さんは、障害者の受診につきそってきた施設職員に、口腔保健活動の大切さを話しました。その施設でも訪問が 始まり、榎本さんが担当しています。
 「苦労もありますが、みな楽しんでもいます」と事務長の森貞夫さん。「膝に頭を乗せることもできなかった人も受け入れてくれるようになる。やりがいがあ ります」と語る歯科衛生士も。職員たちに一番大事だと思うことを聞いてみると、共通して「人が好きなこと、笑顔」と返ってきました。
 診療所では今後、障害者福祉制度の改悪に対し、学習や運動にも力を入れたいと考えています。

江原雅弘歯科部長のコメント

  民医連歯科では人権を守る立場で、障害者の治療や歯磨きなどの予防活動を行ってきました。今は公立の歯科機関も減り、障害者の歯科治療が困難な地域も。今 後も民医連歯科に求められる分野です。「いつでも、どこでも、誰もが安心して受けられる歯科医療」を全県ですすめられるよう運動していきます。

(民医連新聞 第1548号 2013年5月20日)

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