民医連新聞

2013年4月15日

“尾木ママ”からあなたへ(下) 教育現場の課題 体罰・いじめを乗り越えるには?

 尾木先生のインタビュー後半は、いじめや体罰など大きな問題を抱えている日本の教育について聞きました。(矢作史考記者)

体罰では成長しない

 今、学校やスポーツ界では体罰が大きな問題ですね。
 学校で体罰が容認されているのは韓国とシンガポール、アメリカ南部の一部地域などです。
 それらの国でも体罰には厳格なルールがあります。シンガポールでは体罰の必要がある時、そのための委員会を立ち上げ、校長の権限で行います。ルールに基 づき、研修を受けた人がみんなの前でムチで叩きます。受ける側は腰にサポーターを付けるため、痛いというよりも音が大きくて恥ずかしいのです。叩く回数は 一~六回、男子のみと決まっているそうです。
 日本の教師や指導者がルールも何もなく、感情のままに手を挙げるのは体罰ではなく、リンチと暴力です。アメリカで奴隷に対してやっていたことと同じになってしまいます。
 人間は、暴力を振るわれると思考が停止して従順になります。叩かれて育つと、自分の頭で考えて行動できなくなり、自己コントロールが育ちません。
 子どもたちが教師の予想を超えて成長するのは、体罰を行った時ではなく、本人の自己コントロールとチームみんなで共同できたときです。これは国際社会の常識です。

「評価」が変わった

 一九八九年の学習指導要領改定で、日本の教育に「新学力観」が持ち込まれました。学力を「知識・理解」ではなく「関心・意欲・態度」で評価するようになったんです。そのため子どもにとっては「いかに先生に気に入ってもらえるか」が、もっとも大事になりました。
 昔は当たり前だった教師への反抗や、友だち同士でぶつかったり意見をたたかわせて問題を解決していく、ということが少なくなりました。「良い子」に見え ても自分の意見は言わず、本音と行動が違うことがあります。いわゆる「イイ子症候群」です。

大津から見えるもの

 いじめも大きな問題。
 一昨年の一〇月に起きた滋賀県大津市の中二男子いじめ自死事件。大津市教委は最後までいじめと自殺の関係を隠蔽しようとしたのです。
 私がこの問題の第三者委員として当該の中学校に行った時、「尾木ママ! 隠蔽されないで」と、生徒たちが次々に声をかけてきました。
 また、ひどいのは「大津市子どものいじめの防止に関する条例」です。この七条には「子どもの役割」が明記されています。当初の中間案では「いじめを受け た子どもは…関係機関と相談するものとする」としていました。いじめを受けた被害者の子どもに相談を義務づけたのです。
 その後「相談できる」と表記を変えましたが、子どもの行動を条例で義務づけるのは強者の論理。子どもたちは言えずに苦しんでいるのに。
 いじめを相談した子どもが「チクッた」と言われないように、権利保障もしないといけません。こんな条例は世界の恥です。

いじめを乗りこえる

 いじめが起きる原因のひとつは加害者のストレスです。加害者の多くが、いじめると「スカッとする」と言います。加害者は痛めつけているという実感が沸いていません。動物虐待と同じで、自分の辛い気持ちと被害者を重ねあわせることで癒されているんです。
 いじめを無くすには悪いストレッサーを少なくすること。しかし、ストレスを完全に無くすことは難しい。どうしても人間関係の中でいじめは発生します。
 いじめは、無くすことより、起きた時の解決方法を考えることが大切です。いじめは身近な集団で起きます。「一人で食事している」「いつもと雰囲気が違 う」など、近くにいる人が被害者の小さな変化に気づき、初期の段階で手を打って良い方向にもっていくこと。何より、組織内で人権感覚をもち、自治的・集団 的にトラブルを解決するスキルを養っていくことが必要です。

(民医連新聞 第1546号 2013年4月15日)

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