民医連新聞

2013年4月15日

相談室日誌 連載369 とびこみ出産の無保険女性 人生変えるきっかけは 田辺 梓(北海道)

 「保険証も母子手帳もない人が受診し、陣痛で本日緊急入院になりました。相談にのって下さい」と助産師から依頼がありました。
 大きなお腹を抱えた三〇代のAさんは、無料低額診療制度のパンフレットを頼りに当院に来ました。「すすきののスナックで働いていた。出産費用を無料にし てもらえないでしょうか?住む場所もなく親もいません」とのこと。
 出産の場合、無低診は利用できないものの、生活保護、入院助産制度の通報申請ができる事を説明し、それらを申請しました。翌日、保護課ケースワーカー、 保健センター職員とともにAさんに話を聞くと一変し、「友人が住む場所を確保し、費用も出してくれることになった。ただその友人は出張中で連絡が取れな い。連絡をとるので、申請は保留にしてほしい」と。
 生活保護申請の意志は確認できましたが、一時保留となりました。しかし保護課の調査でAさんにはこれまで四人の出産経験があると判明。出産入院中に本人 は行方不明になり子どもたちは児童福祉施設にひきとられていました。
 相談は本人を責めるのではなく、事実関係を確認し、Aさんが今後どうしていきたいと考えているかに重点を置き、関係機関、院内スタッフと何度も面接を繰り返しました。
 「出産したら子どもを置いていなくなろうと思っていた。自信はないけど本当はちゃんと仕事して子育てしたい。ここまで深く話した病院はこれまでなかっ た」と、Aさんは泣きながら語りました。そして勝手にいなくならないこと、今後をいっしょに考える、と約束しました。
 Aさんの生い立ちを聞くと、幼少の頃に両親が離婚、母親は何人もパートナーを変え、居場所もなく転々と生活してきたことが分かりました。子育てに自信が ないと話すAさんですが、将来は乳児院にいる息子(第五子)との生活を目標に、現在は生活保護を受給しながらアパートを借り、日中の仕事を始めています。
 自立に向けて奮闘するAさんから、人生は「きっかけ」で大きく変わること、そのきっかけをつくるには、これまでの背景を理解し、寄り添う支援が大切だ、と改めて感じています。

(民医連新聞 第1546号 2013年4月15日)

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