民医連新聞

2013年4月1日

フォーカス 私たちの実践 睡眠の安定に向けて 福井・介護老人保健施設あじさい 睡眠が安定しない認知症患者 職員の〝添い寝〝でぐっすり

 認知症の患者・利用者さんが気持ちよく入眠し、夜間にぐっすり眠るには…。介護施設や病院で多くのスタッフが頭を悩ませ、日々工 夫を重ねている課題です。福井の介護老人保健施設あじさいでは、睡眠が不安定な八〇代の入所者に、介護職員が〝添い寝〟を実施。ぐっすり眠れるようになり ました。介護福祉士・中村仁美さんの報告です。

 Aさん(八七歳、男性)は、アルツハイマー型認知症で要介護4。身体機能に大きな問題はな いものの、認知症の進行で、職員はじめ他者からの声かけが理解しにくくなっています。睡眠時間も日によってばらつきがあり、特に職員が少なくなる夜間帯に 他室へ入ってしまったり、徘徊、異食などの行動が見られました。
 睡眠が安定しないことで、日中も傾眠傾向になるなど、認知症の周辺症状に悪影響も出かねませんでした。Aさんが安定して良眠できるよう、二〇一一年八月 の一カ月間、Aさんの生活パターンについて毎日データを収集しました。日中の様子、活動時間、夜間の様子、睡眠時間などです。

生活スタイルにヒント

 それらのデータや入所前の生活習慣などをもとに、介護職員で検討しました。一人の職員から 「子どもが添い寝をしてもらうと安心して眠れるように、Aさんにも添い寝をしてみたらどうだろう」と提案がありました。Aさんは、自宅では長年、畳に布団 を敷いて妻の隣で寝ていました。そのため、施設では一人で臥床することに不安を感じているのではないか、と考えたのです。
 認知症の方は、スキンシップを増やしたり、施設での生活をこれまでの生活スタイルに近づけることで安定することがままあります。そこで、さっそく添い寝 を試してみると、初日にAさんはすんなり入眠することができました。
 そこで、翌九月の一カ月間、Aさんを居室に誘導したあと、職員が隣で添い寝するようにしました。添い寝の時間は最長三〇分と決め、その間、背中をさすっ たり、肩や胸元をトントンする、場合によってはアイマスクを使用しました。Aさんが寝息を立てて口をモゴモゴしなくなったら「入眠」と判断しました。

トラブル減りADL安定

 その結果、ばらつきが大きく、リズムが乱れていた睡眠時間が、添い寝をすると安定するようになりました()。平均睡眠時間も、実施前の六・七五時間から実施後七・五時間に長くなりました。
 添い寝によって、Aさんは「これから眠るんだ」と認識することができたのだと思われます。これまでの生活スタイルと似た環境を整えることで、安心感が得 られたようです。その後、添い寝をしない日が二日ありましたが、いずれも不眠傾向でした。ここからも、Aさんの睡眠に添い寝の効果があったと考えられまし た。
 約半年間にわたり、Aさんの状態に合わせて、添い寝したりしなかったりを続けました。今では午後一〇時ぐらいに居室に誘導すると、一人で入眠され、夜間 に起き出してくることもほとんどなくなりました。睡眠が安定したことで、Aさんが他室へ入ったり、異食するなどのトラブルも回避できました。ADLは安定 しており、今冬は、徘徊も例年より少なめでした。夜間帯の職員が手を取られることも減り、負担軽減にもなりました。

shinbun_1545_03

他の利用者にも効果

 Aさんという一人の利用者の良眠を得るために、職員全員がかかわり、知恵を出すことで、個別ケアが成功しました。その後、不穏傾向の別の利用者にも添い寝を試したところ、入眠がスムーズになったり、落ち着くなど、効果がみられました。
 今後も、このノウハウを生かし、利用者の夜間良眠につなげていきたいと考えています。

(民医連新聞 第1545号 2013年4月1日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ