民医連新聞

2013年3月4日

フォーカス 私たちの実践 「人権」を考える 神奈川民医連 セクシャルマイノリティー問題を通じて学んだこと

 県連や法人、事業所単位で行われている制度教育。無差別・平等の民医連医療・介護の実践者として成長しようと、工夫も様々。神奈川民医連ではこのほど、職責者研修でセクシャルマイノリティーをめぐる問題をとりあげました。一〇月の講義を取材しました。

■同性愛者の職員を講師に

 セクシャルマイノリティーとは、性のあり方が非典型的な人を指す言葉。トランスセクシャル(性同一性障害を含む)や同性愛(ゲイ、レズビアン)、両性愛など、性的少数派。性的マイノリティーとも呼ばれます。
 同県連では、職責者研修(二年を一期として五回開催)のテーマに「人権」を据え、ハンセン病などを学んできました。今回の題材は見えない問題からも学ぼ うと、県連教育委員会のメンバーが選定。学習を通じ「誰でも安心してかかれる事業所とは?」を話し合うことに。二七人が参加しました。
 講師は、自らもゲイで、民医連で働いている杉山貴士さん(兵庫・尼崎医療生協・理事会事務局課長)。杉山さんは冒頭、「困難な患者・利用者さんに接する 時『この方はなぜこうなのか』と、背景を想像できる視点を養おう」と呼びかけ、受講者とのやりとりを交え講義しました。

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 「性」は(1)生物学的性(sex)(2)社会・文化的性(gender)(3)性自 認(sexual identity)(4)性的指向(sexual orientation)の四つの側面で整理されますが、極めて多様です。性的指向 は、完全な異性愛や同性愛には分かれていないのが実際で、グラデーション状に存在しているというのが定説(上図)。「しかし社会体制上、男女の『異性愛』 以外の存在や指向は、異常とされてきたので、そのズレが差別や排除を生んできた」と杉山さんは語りました。
 近年まで同性愛は「病気」とされ、同性愛者三〇万~五〇万人がナチスに虐殺された歴史もあること。日本でも旧文部省が「性非行」としていたことが紹介さ れると、どよめきも。社会が認識を変えつつあるのは、「沈黙は死」と各国の当事者が社会的地位を獲得すべく立ち上がったためでした。

■現状はどうか

 「セクシャルマイノリティーの大半は、性的指向を周囲に伏せ、学校や職場に行っている。テレビに出ている人は超少数派」という講師の話を、受講者たちは驚きをもって受け止めました。セクシャルマイノリティーは人口の三~一〇%という研究もあります。
 異性愛が中心の社会で、当事者は「自分自身が容認できない」「人間関係が作りにくい」「メディアに登場する女装のようなセクシャルマイノリティー像と自 身が一致せず、自己像が形成できない」など多くの悩みに直面します。
 被差別部落や人種など「差別」は様々ありますが、セクシャルマイノリティーがそれら以上に難しいのは、最も身近な家族に受け入れられない場合が少なくな いこと。貧困のモノサシ(湯浅誠氏)として示される「五重((1)教育から(2)企業福祉から(3)家族福祉から(4)公的福祉から(5)自分自身から) の排除」に陥りやすく、性産業がそのセーフティーネットと化している現状も紹介されました。

■自己決定〓(※)自己責任

 「『自分で選んだことだから、最後まで責任を持て』は、よく言われる言葉。しかし、自己決 定は、自己決定できる情報や能力があることが前提。いまの社会は、自分で決定したように見えても、実際は社会の方が、その人の行動を決定してしまってい る」―。講義の結びに、杉山さんは「自己決定=自己責任ではない」ことを強調しました。「ですから、個人の行動変容や患者・利用者さんへのアプローチを考 える際、なぜこの人はこうなのか?と背景とあわせて見ることが欠かせないのです」。

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 受講者の感想は…「大部分は自身を隠していると知りショック。無差別・平等を掲げる立場から、性的マイノリティーをどう受け入れていけるか、まず発信し たい」「社会がその存在を否定することで、環境が人の生き方を決めてしまう現実があると知った」「セクマイに限らず、生保その他の事情のある患者・利用者 さんと関わる時は、全体・背景を含めて関わることが大事だと同僚たちと共有したい」。ねらい通り、人権を考える場になりました。なお同講座は一月にも実施 されました。(木下直子記者)

(民医連新聞 第1543号 2013年3月4日)

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