民医連新聞

2013年1月21日

高い薬代が治療を阻害 「壁」に挑む保険薬局 受療権守る“キニカン”活動

巾上ひまわり薬局(長野)

 「医療費の自己負担が重く、治療ができない」―。そんな患者さんにしばし ば遭遇します。医療を受ける権利を守るために、努力を続ける現場。今回は保険薬局のとりくみを紹介します。保険薬局には、病院や診療所が使える無料低額診 療事業が認められておらず、その「壁」への挑戦も始まっています。

 薬代の未収や自費の処方箋など“気になる患者”は必ず報告―。巾上(はばうえ)ひまわり薬 局(長野県松本市)は、薬剤師や事務がオリジナルの報告用紙(資料)に事例を記入、隣接する松本協立病院と協力し、安価な薬への処方変更や公費制度を使っ て、経済的理由による治療の中断を防ぐ“キニカン”活動にとりくんでいます。
 薬局に抗がん剤一〇日分の処方箋を持参した六〇代男性は、約八万円の窓口負担に途方に暮れました。窓口で高額療養費制度を説明、還付金を担保に融資を受 ける貸付制度も使い、窓口負担を二万四六〇〇円まで引き下げました。
 事務の浦沢剛さんは「いのちに直結する病気ほど薬代が高く、払えないからと治療を中断する患者が多い。キニカンは受療権を守る活動です」と言います。
 数百円の薬代の支払いに苦労する患者も。七〇代で糖尿病の女性(国保)は、約四万円の未収金がたまっていました。薬局から病院医局を通して主治医に連 絡。安価な薬に変更して窓口負担を三分の一にしました。処方変更の際は薬剤師に相談、医局には「同じ効能で、この薬ならこれくらい安くなる」と具体的に提 案します。
 巾上薬局でも以前は会計保留があった際、「支払いは都合の良い時で」と先送りしていました。「でも、それでは結局、次回から来局しにくくなる。お金のな い人にとって、“都合の良い時”はない」と浦沢さん。未収金がたまればたまるほど、患者は払えなくなる悪循環に。「だからこそ、最初の気づきが大切」と強 調します。

最初で最後のSOS

 キニカンのとりくみは七年前から。報告した事例への対応は随時、職場にフィードバックしま す。報告が活かされることで、さらに薬剤師から報告や相談が増え、気になる患者が日常的に話題に。「最初は報告用紙を提出するのは事務職の一部でした。今 は薬剤師も業務の一環として協力してくれます」と浦沢さん。
 薬剤師一五年目の高野進士さんは、キニカン活動にとりくむうち、「患者の生活背景が見えてきた」と言います。窓口で服薬指導の際、「お金がないから さぁ」「そんなに薬はいらないよ」などふとした言葉から、「何かありそう」と気づきます。「なにげない一言が、患者が発する最初で最後のSOSかもしれま せん」と高野さん。
 七〇代で心筋梗塞の男性は有効期限切れの処方箋を持って来局。男性は窓口で「前の薬が残っていたから」と説明しましたが、病院SWと連絡をとると、生活 保護が必要なほど困窮していると分かりました。

自宅に冷蔵庫のない患者

 治りにくい病気で仕事もままならず、薬代の支払いが滞る患者もいます。難病など特定疾患や 精神科通院で障害者自立支援法が使えそうな患者には、制度を説明して公費負担医療申請の手続きをすすめます。公費負担医療を使えば、窓口負担が三割から一 割になったり、自治体の付加給付で窓口負担がなくなることもあります。
 患者自身は制度を知らず、病院でも見過ごされてしまうことがあります。「医療に関するさまざまな制度を知っていれば、患者さんに具体的に提案できる。日々、勉強です」と浦沢さん。
 生活保護で糖尿病の六〇代患者は、インシュリンを処方されましたが、自宅に保管する冷蔵庫を持っていないことが判明。松本協立病院職員から不要になった 冷蔵庫の提供を受け、運搬には病院の軽トラックを借りました。薬局にはSWがおらず、病院と連携してとりくむことが不可欠。「多くの人を巻き込むことが解 決への近道です」と浦沢さんは指摘します。

未収金額が6割に減る

 同薬局は元々、「キニカン」は「気に患」と表記していました。カルテに記載した際、患者に分かってしまう可能性があるため、いつの間にかカタカナ表記に。報告数は年三〇~四〇件で、活動の結果、未収金額は六割に減りました。
 薬局は一般的に未収金を想定しておらず、レセコンのシステムにも未収金の項目はありません。「窓口負担が払えない患者には、薬を二、三日分しか渡さない 薬局もあると聞きます。無差別・平等の医療をめざす民医連だからこそ、キニカン活動が重要です」と同薬局の大野宣治事務長。
 「病院より薬局の方が医療費が高いケースも多いが、医薬分業がすすみ、病院で気づかないこともある。薬局でも無料低額診療事業を使える制度にしてほし い。自治体に無低診の患者の薬代補助を求めていくことも検討しています」と話します。(新井健治記者)

shinbun_1540_02

 

「保険薬局でも無低診を」

負担軽減へ各地で運動

 保険薬局は、社会福祉法第二条三項九にある「生活困窮者に対して無料又は低額な料金で診療を行う」無料低額診療事業(無低診)の実施事業所として認められていません。
病院や診療所で無低診を利用する患者でも、保険薬局で処方される薬には自己負担が発生します。二〇一〇年には国会で日本共産党の田村智子参院議員が、保険 薬局での無低診を許可するよう質問しましたが、「検討課題」とされたまま、すすむ気配がありません。
 全日本民医連保険薬局委員会は昨秋開いた薬局法人代表者会議で、状況を打開するために、地方議会に働きかけることを呼びかけました。要望内容は「地方議 会から国に対し保険薬局が無低診を実施できるよう働きかけること」「保険薬局で無低診が行えるようになるまで、自治体で薬代の助成制度を設けること」の二 点。無低診適用の患者への薬代助成については、高知市が二〇一一年度から始めています。さっそく各地で動きが起きています。

***

 ■徳島県民医連は全国に先駆け、二〇一一年から自治体へ次々と要望を出しています。薬局に「無低診小委員会」をつくり、働きかけを成功させるために県議 と市議対象の懇談や学習の場も設定。県、徳島市、四国厚生徳島支局に意見書を提出。翌一二年は県連として請願や陳情、議会の会派まわりなどを行っていま す。
 ■山口県民医連では、昨年一二月に宇部市議会に署名とともに請願を提出、継続審議になりました。無低診自体を知らない議員も多く、二月議会の文教民生委 員会に、参考人として出席し発言するよう求められています。
 ■青森県民医連は昨年一一月二八日に青森市長と懇談し、薬局での困難事例や無低診のとりくみを報告。市長は、中核市長会でも無低診の対象事業所の拡大を 国と厚労省に要望したことを紹介し、患者の薬代助成について「来年度予算で検討する」と約束しました。

***

 全日本民医連保険薬局委員長の金田早苗理事(薬剤師)は「ほかにも 薬剤師会に協力を呼びかけたり、請願署名を団体や個人から集めるなどの運動がすすんでいます。昨年は全日本民医連として、この問題を厚労省との懇談で要望 しています。ぜひ実現したい」と語っています。(木下直子記者)

薬局が受けた相談から他院の患者を支援 富山

 先日、富山民医連の保険薬局に「医療費、薬剤費に困っている」という相談が入りました。放射線治療で、済生会の病院に通院している患者さんでした。
富山協立病院(民医連)は2010年12月に無料低額診療事業を開始して以来、県内で同じく無低診を実施している済生会の病院と連絡を取り合ってきまし た。つながりを頼りに、薬局職員とともに同院に出向き事情を話しました。その結果、患者さんは院内処方に変更、薬代にも無低診が適用され、無事、治療を続 けることができました。
対応した保険薬局が、無低診の相談を受けることはこれまであまりありませんでした。しかし、患者さんの不安な様子に職員が気づき、民医連外の病院であっても「無低診を使おう」という素早い行動が実を結びました。
(宮腰幸子、富山協立病院事務長)

(民医連新聞 第1540号 2013年1月21日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ