民医連新聞

2013年1月7日

INTERVIEW ジャーナリスト、メディア・アクティビスト津田大介さん 僕たちはつながり 行動する力を得た

 さまざまな社会問題に対して、自分の意見を声に出し、行動する人が増えました。若者、女性、これまで組織や運動とは無縁だった人 たち。これにはツイッターをはじめとしたソーシャルメディアが一役買ったといわれています。よりよい社会を目指す市民に、ソーシャルメディアはどんな価値 があるのか。「メディアと運動」に詳しい、ジャーナリストの津田大介さんに聞きました。

■ソーシャルメディアの特性

 ソーシャルメディアには五つの特性があります。
 一つめは「リアルタイム」。していること、思っていることをその場で発信できます。二つめが「共感や協調」です。デジタルやウェブに冷たい印象を持つ人 も多いと思いますが、ソーシャルメディアは実は逆で、喜怒哀楽を呼びやすい。
 そしてその感情の共有が三つめのキーワードの「リンク」になります。思いがつながると「じゃあ、いっしょに何かしよう」と具体的な行動になる。それが海 外では政治への怒りが共有されて〝アラブの春〟になったし、日本では首相官邸前での抗議行動になりました。東日本大震災でも、「東北のために何かしたい」 という思いが、寄付やNPOの結成、物資を送るなどの支援活動になりました。人が集まり、何かをしようという動きが、自発的に生まれてゆくんですね。
 参加のしやすさは、インターネットの特性である「オープン」な点にあると思います。これが四つめ。現実社会の組織は入るには敷居が高く、抜けるのもしが らみがありますが、ソーシャルメディアなら興味が湧けばすぐ参加でき、違うと思えば離脱も簡単。悪く言えば「熱しやすく醒めやすい」ですが、「熱しやす く」の部分がムーブメントにもなる。
 最後が「プロセス」。ツイッターもフェイスブックも「完成品」を置く場所ではなく、あるのは「細切れの現在」です。ツイッターなら文字数が一四〇字で複 雑なことは書けませんから、結果的に物事がすすむ過程が見えます。人間は何かができていく場面を見ると興味を持ちます。デパートの実演販売もそうですね。 目の前で作られていくお饅頭は、誰が作ったか分からないパック詰めより、良い匂いもしてくるし、買いたくもなる。それと似た魅力が、ソーシャルメディアに はあるのです。

■ツイッターのこと

 ツイッターが世界的に注目され始めたのは〇九年ごろ。イランの大統領選挙の時、圧政下で民主化を求める運動に使われました。「政治のツールになる」と認識され、参加人口が約一〇倍になりました。
 日本でも利用者は増えています。一四〇字と短文のため、皆が気楽につぶやき(=投稿)始めることができました。加えて、発信された投稿がコピー可能で拡 散性が高い。これがツイッターが唯一無二の情報ネットワークとなった大事な点です。
 一方、デマが流れる危険性もあり、可能性と危険性が表裏一体であるのもツイッターの特性でしょう。

■「動員の革命」

 〇六年に僕は、著作権を考える団体を作りました。当時はイベントへの人集めがたいへんでし た。ネット動画放送やツイッターもすでにあったのですが、いまほど使われていなかった。それが、〇九年に『Twitter社会論』を出版した前後で変化を 感じるようになりました。イベントに来る人があきらかに増え、「ツイッターを見て参加した」と言う。
 「ツイッターには、人の心を動かし、背中を押す力がある、人を集める力がある」と気づきました。しかも発信は、前日や当日などの直前です。会場近くに居た人がその偶然に「運命」を感じ、足を運ぶんです。
 そして何よりのエポックは、二〇一一年に起きたアラブの春です。それまでもソーシャルメディアでデモを組織する動きはあったが、鎮圧されていました。そ れが政治体制まで変えてしまうことが起きた。 日本でも同様の胎動を感じます。
 僕はこの現象を「動員の革命」と名付けています。

■マスメディアに対峙して

 日本で最もつぶやきが読まれているのは、タレントの有吉弘行さんや、ソフトバンクの孫正義 さんで、フォロワー(=読者)は一八〇万人超。大阪の橋下市長は九〇万人。世界一位はレディー・ガガで約三〇〇〇万人。たとえば孫さんが「iPhoneに こんな機能をつけます」とつぶやけば、三〇分以内に何百万人に伝わります。フォロワーの少ない人でも、フォロワーの多い人宛てにつぶやき、それが再発信さ れれば、一〇〇万人に伝えることも可能です。人の力を借りて、発信力の上乗せができるのです。
 ものの数十分で何百万人に伝えることができる、マスメディア並みの速報性を持つインターネットメディアは、いままでありませんでした。
 もちろん、新聞やテレビは、受け手に一方的に送られるメディアなので、届く規模が違います。テレビの視聴率は一%が一〇〇万人。その力は圧倒的です。た だ、マスメディアしか持ち得なかった情報流通手段を、市民が得たことに大きな可能性があります。大量に情報を発信する活動は、放送局なら放送設備と国から の免許、新聞も輪転機などの設備や紙などが必要で、大資本を持つ少数者の手に握られていました。それが一四〇字ながら、個人で数百万人に発信することが可 能になった。
 三・一一を機に、大学の研究者などの専門家がソーシャルメディアの世界に入ってきたことも、大きな意味がありました。素人では歯がたたない難しい情報を 読み解く専門家の力は、いままでマスメディアに独占されていました。それがソーシャルメディアを通じて、誰もが専門家に直接話しかけられるようになった。 市民はそれまで持てなかった専門家へのアクセス権も得たのです。
 そこで市民に問われるのはコミュニケーション力です。どういう言葉で専門家を巻き込み、いっしょに運動していくか。

 社会に存在する問題解決に関しても、ソーシャルメディアに期待が向けられています。国の政策課題は膨大ですから、それを分かりやすく社会に示すアジェン ダセッティング(議題設定)は、これまでマスメディアの役割でした。しかしそれは、「上から」の情報になりがちでした。
 いま市民社会では、「アジェンダビルディング」という言葉が生まれています。上からではなく、市民が議題を構築していく時代に入った。その作業にはボトムアップ型であるソーシャルメディアが適している。

■発信者に求められる人間性

 では発信する場合。多くの人に読まれるカギは、人間性です。企業のつぶやきでも、成功しているのは、「中の人」(発信担当者)の顔が見えるような、人間味あふれたものです。分かりやすいのは、NHK広報局(@NHK_PR)です。
 単に自分たちの知らせたいことだけ流していては届かない。自分たちの宣伝は発信の三分の一程度でいい。コミュニケーションして、送り手も受け手もギブ& テイクです。民医連なら、共通する課題で活動する人たちに話しかけてみる。青年ユニオンとか小池晃さん、なんなら橋下市長でも(笑)。ソーシャルリテラ シーのある人が担当し、上は統制しない。ミスがあれば謝る、そこさえちゃんとしていれば良いのです。
 僕が好きな言葉に「正しさは伝わらないが、楽しさは伝わる」というのがあります。森毅さんという亡くなった数学者の言葉です。感情でつながるソーシャル メディアも、どこか楽しさがあるから、伝わってゆくと思うのです。ソーシャルメディアは怒りで結びつきやすいですが、怒りばかり発信しても、その感情を共 有できる人たちの、狭い範囲で終わってしまう可能性があります。ベースに怒りがあってもいいが、文章に怒りをにじませると、拒否する人もいるでしょう。事 実は淡々と、不謹慎でないレベルで、ユーモアを交えながら、自分たちの主張を続けてゆく構えが大切だと思います。
聞き手・木下直子

(民医連新聞 第1539号 2013年1月7日)

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