民医連新聞

2012年11月19日

シリーズ 働く人の健康 ~仕事とのかかわり~ 背景に潜む仕事の影響を 見抜ける医療活動を

 先日行われた民医連の看護介護活動研究交流集会で、「仕事と健康の関わり―健康障害の背景因子としての仕事」と題し、徳島・健生石井クリニックの樋端(といばな)規邦医師が講演しました。働く人の健康をとらえる視点とは―入門編です。

労働者の「不健康」の原因

 労働基準法は「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない」と規定しています(第七五条)。
 労災・職業病の原因は「安全対策や健康管理の手抜き」です。第一に作業に関連すること。長時間労働や、危険を承知で仕事をさせるなどです。第二は作業環 境に関すること。騒音や粉じん、石綿、有機溶剤といった危険物について適正な環境管理をしない、などです。第三に健康に配慮しない労働。定期的な健診を行 わない、健診で悪い結果が出ているのに無理な働き方をさせる、などです。
 労災・職業病は人為的に起きます。原因と病態を明らかにし、事業主に被災者を救済させることが必要です。さらに発生した労災・職業病を社会的に告発し、 国と事業主の責任で同じような被害者を出さないよう、対策を要求すること。この積み重ねと労働者との連携で「健康で働きやすい事業所、労働者が守られる社 会づくり」に寄与することです。こういう視点でとりくむ医療機関は、民医連をおいてほかにはありません。
 日本社会の課題は何でしょうか。(1)過労死、過労自殺を生むような超長時間労働、(2)働いても生活できないようなワーキングプアと呼ばれる働かされ方、とくに非正規労働者、女性労働者の低賃金の問題、などが挙げられます。
 「過労死」という言葉は、民医連の医師だった田尻俊一郎さん(故人)が、「過重労働による過労が原因で亡くなったとしか言いようがない」としたのが始まりです。
 私が初めて過労死と関わったのは、約二〇年前。総菜の調理と搬送に従事する二七歳の男性でした。一カ月以上休まず、亡くなる前日は午後六時に出勤して夜 通し総菜を作り、午前三時からスーパーに配送、午前八時に帰宅し、食事のあと就寝。午後になって妻が呼吸停止を発見。特別な既往はありませんでした。相談 を受けて意見書を書き、徳島県で初の「過労死」と、労災認定されました。
 厚労省は週の労働時間六〇時間以上を過労死の可能性ラインとしていますが、このような働き方は日本では珍しくありません。超長時間労働は家族との団らん や地域での活動時間を奪い、疲れやストレスをため、睡眠時間を削ります。過重な精神的負担をともない、自信の喪失を起こし、同僚との間での不信感も招きま す。うつ状態になり、自殺を引き起こします。

「健康な働き方」とは

  もうひとつの問題が、非正規労働者の増加です。正規労働者に比べて低賃金で、貧困状態に置かれています(表1)。 ILO(国際労働機関)は「Decent Work for All」を提唱し、(1)人間らしく生活できる十分な賃金、(2)社会保障により、労働者と その家族が保護されている、(3)労働基本法により、労働者の権利が保障されている、(4)男女平等が実現されている、と規定。非正規労働者はいずれの項 目も十分ではなく、そのために健康を阻害されています。

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民医連職員に期待すること

 仕事と病気の関連を念頭に置き、病気の背景に潜む仕事の影響を見抜く医療活動をしてほしい。
 ある患者さんは肺繊維症となり、大病院で「間質性肺炎」と診断され、終末期に当院を受診しました。胸部CTでびまん性胸膜肥厚が認められたので改めて職 業歴を聞くと、過去に一〇年ほど石綿スレート工場で働いていました。遺族が労災申請をし、「石綿(アスベスト)肺」として認定されました。
 常に「病気になった原因は何か」「職業が絡んでいないか」を問わなければ、職業病は見出せません。そして、同じ職業、同じ事業所で、必ず同じ病気の患者 が出ているはずだということ、仕事が原因で多くの死者が出ることがあるということを、肝に銘じなければなりません。
 「労働者の健康が守られるための三つの視点」(表2)も参考に、日々の医療活動に臨んでください。

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(民医連新聞 第1536号 2012年11月19日)

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