民医連新聞

2012年11月19日

渡辺治さんが語る国政と私たちの課題 社保委員長・共同組織委員長合同会議 悪政の大連立に「国民連合」で反撃を

 一橋大学名誉教授の渡辺治さんが九月二五日、全日本民医連社保委員長・共同組織委員長合同会議で、近づく国政選挙の展望と私たちの課題について講演しました。(新井健治記者)

わたなべおさむ 東京大学法学部卒業。一橋大学名誉教授。研究領域は、政治学、憲法学。『新たな福祉国家を展望する』(旬報社)他、著書多数。

 民主党は自民、公明との三党合意で消費税増税を強行しました。近く行われる総選挙後は、間違いなく大連立の政治体制ができあがるはず。世論調査の動向を見ると、自民党を第一党に自公民か、あるいは自公・維新政権になるかもしれません。
 なぜ、大連立か。日本社会に壊滅的な打撃を与えるTPPやオスプレイ配備など、国民の抵抗が大きい諸課題を強行するには、大連立でなければできないからです。
 大連立政権は小泉内閣が退陣して以降、六年あまり停滞していた構造改革と日米軍事同盟強化の“再稼働”も図るはずです。自民党の憲法改正草案を見れば明 らかな通り、同党は総選挙後、最初の通常国会で「集団的自衛権の容認」を議題に上げるでしょう。

公的責任の回避へ

 大連立政権は、憲法二五条に基づく社会保障の理念を大胆に見直すつもりです。三党合意でできた「社会保障制度改革推進法」にその一端を垣間見ることができます。第二条一項に、法律では初めて「自助、共助、公助」の言葉が入りました。
 国や自治体の責任で人間らしい生活を保障するのではなく、まずは自分が努力する。そして共助で痛みを分かち合う。自助と共助の組み合わせで面倒を見切れなくなったところだけ、公的扶助を行う考えです。
 第二条三項には恐ろしいことが書いてあります。「年金、医療、介護は社会保険制度を基本に、国と自治体の負担は社会保険料に係わる国民の負担の適正化に 充てる」―。要するに、税金は分配率の調整に充てるだけで基本は保険料でやってください、ということ。本体に税金を投入しない、社会保障の公的責任を回避 することを、法律で初めて宣言したわけです。
 国や自治体が現物給付を続ける限り、大胆に社会保障費を削減することはできません。そこで、国や自治体の責任を縮小することを目論んでいるのです。

九条の会の再起動を

 大連立政権に反撃する運動のすすめ方として(1)一点共闘を結んだ国民連合の構築、(2)改憲を阻む独自のとりくみを旺盛にすすめる、(3)福祉国家型社会の対案を示しながら運動を展開する、の三点を挙げます。
 国民連合をつくっていくうえで、現在はやや停滞している「九条の会」を、もう一度バージョンアップすることが重要です。
 二〇〇四年に始まった九条の会は、改憲を阻む大きな役割を果たしました。読売新聞の世論調査によれば、〇四年に改憲賛成の意見は六五%、反対は二二%だった。それが九条の会の結成数増加とともに改憲反対の意見が増え()、〇八年には反対が賛成を上回りました。世論の変化により、当初は改憲を志向した民主党の政策が変わりました。
 九条の会が“開店休業”状態になる一方で、自民党総裁選で明らかなようにタカ派が強くなりつつある。総選挙後に予想される集団的自衛権の容認や改憲を阻止するためにも、九条の会がもう一度、力を発揮すべきです。
 九条の会が政治を変える例として、新潟県加茂市の小池清彦市長を紹介しましょう。元防衛官僚だった小池氏が、加茂九条の会にかかわる中で大きく変わる。 彼の中で九条と二五条が一緒になり、加茂市は福祉の町に生まれ変わります。九条の会は良心的な保守の人に響く力を持っています。
 毎週金曜日の官邸前行動には九条の会をはじめ、これまでさまざまな社会運動にかかわってきた人とともに、原発事故に危機感を抱いた若者やファミリーが新たに参加しています。
 こうしたさまざまな層が、どうやって政治を変える方向に次の一歩を踏み出すことができるのか。次の一歩がなければ、一点共闘は共闘だけで終わります。一点共闘が国民連合になるために、私たちに“ちょうつがい”の役割が求められています。

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(民医連新聞 第1536号 2012年11月19日)

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