民医連新聞

2012年11月5日

駆け歩きリポート “孤独死”繰り返さない 歯科が単身・2人暮らしを調査 東京・相互歯科

 今年二~三月、東京・立川市で、障害児と母親、高齢の母と介護する娘など、複数世帯の孤立死が相次ぎました。同市にある相互歯科は、これを機に単身・二人暮らしの事例調査に乗り出しています。(丸山聡子記者)

受診直後に孤立死が

 九月、歯科衛生士の川端美帆さんは、同僚とAさん(六〇代、男性)宅を訪ねました。六月上旬に急患で受診したきり、治療を中断していました。ヘルパーに付き添われ来院したとき、咳き込みがひどい上に強いアンモニア臭があり、気になる人でした。
 電話をかけると「現在使われておりません」のアナウンス。アパートを訪ねると、集合ポストにも玄関のポストにもガムテープで目張りが。電気のメーターも 止まっていました。問診で、同じ法人のふれあいクリニックに受診していると話していたので問い合わせると「六月中旬に部屋で亡くなっているのが発見された と、警察から連絡があった」と分かりました。
 「当院を受診した患者さんが直後に孤立死していたことが、ショックでした。身近に孤立死を出したくなかったのに…」。川端さんは生まれも育ちも立川市 で、二~三月の孤立死も地元で起きました。「それでも訪問は無駄ではなかった。何かあったら市役所と連絡を取り合うパイプもできたし、気になれば、すぐ動 くことが大事だと分かった」と川端さん。
 続いて五月中旬に急患で受診したあと中断していたBさん(七〇代、女性)宅を訪問。電話はつながらず、やはり電気のメーターは止まったまま。玄関のポス トから様子をうかがうと異臭が。「亡くなっているのでは」と心配になり、市役所の高齢福祉課へ連絡。その日のうちに「入院中だと確認できた」と連絡があり ました。無事は確認できたものの家は荒れた様子で、退院後のBさんも気にかけていこうと話し合いました。

頼れる人がいない

 相互歯科では、徒歩圏内で孤立死が相次いだことを重く受け止め、「悲劇を繰り返したくない」と五チームを作り、“気になる患者さん”をピックアップ。電話や訪問で聞き取りをしました。
 普段、小児の治療を担当しているチームは、子どものいる気になる世帯を調査。いずれも、母親は病気やDVの後遺症で働けず、子どもたちも不登校や障害な どの困難を抱えています。子どもが通う学校や障害者の共同作業所などとの接点があるものの、それが途絶えれば社会とのつながりが一切なくなるというケース が目立ちました。
 別のチームは、生活保護を受給している六〇代の男性に聞き取り。男性は、幼い頃に両親と離別して祖母に育てられ、一五歳から住み込みの仕事を転々として きました。近隣市の出身ですが、生保受給を機に地元の友人との連絡を絶っているとのこと。「仕事を探しているけど見つからない。もしもの時のために市役所 の連絡先を持ち歩いている」と話していました。
 これらの調査結果を持ち寄り、一〇月四日に報告会を開きました。それぞれの事例から、「定期的に連絡をとりあう人がいない」「何かあったとき頼れる人が いない(いてもヘルパーや市職員など)」「ヘルパーや子どもの学校などとの関係が途絶えると社会とのつながりが皆無」などの共通点が分かりました。

背景に貧困「なんとかしたい」

 報告会では、民医連OBの上條彰一市議(共産党)が、立川市の貧困の広がりについて報告しました。生活保護が増える一方で、立川市が把握している「孤独 死」の数も〇九年の二二件から一〇年には三三件、一一年には四六件と、二年で二倍以上に急増。「死後一カ月以上経って発見された方が四人、発見したのも警 察や消防というのが特徴です」と上條市議は指摘します。
 「自分と同じ二〇代で特に生活保護受給者が増えていると知ってショック。学校を出ただけでは正社員の仕事はないし、無理な条件にも『YES』と言わない と就職できない。他人事とは思えない」と飯島玲奈さん(歯科衛生士)。飯島さん自身、二〇歳でいったん就職するも「資格がないと安定して働けない」と感 じ、二〇代半ばで衛生士の資格を取りました。
 「口の中を診ているだけではダメなんですよね。一歩踏み込んで生活ぶりを聞くと、実は困っていることがあったり…。そうすると『なんとかしなくちゃ』 『やってやろうじゃん』という気になります」と飯島さん。“貧困ビジネス”が運営する民間施設から念願のアパートに入居できた人が「引っ越せたよ」と笑顔 で報告してくれたときは、「嬉しかった。私たちがかかわることで、少しでもいい方向に向かえば」と話しています。

(民医連新聞 第1535号 2012年11月5日)

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