民医連新聞

2012年10月15日

第11回看護介護活動研究交流集会in徳島 11テーマ 427演題で熱い討論 ―分科会から―

 徳島県で行われた第11回全日本民医連看護介護活動研究交流集会。分科会は2日間・24会場で口演とポスターセッション形式で行われ、11テーマに沿った427演題の発表がありました。このうち、口演が行われた6会場の様子を紹介します。

「遺体は誰のもの?」で議論

第1・2分科会(1)

 「人権を守り、ともにたたかう看護・介護」がテーマ。患者・利用者の思いを尊重し、ときには家族や行政に働きかけ、看取りまで含めて人権を守ろうと奮闘する報告が相次ぎました。
 無料低額診療事業に関する報告は二題。千葉は経済的理由で退院せざるを得ない患者が多かった回復期病棟で無低診を開始し、リハビリを継続できるようになった三事例を紹介しました。
 議論が尽きなかったのは、北海道から報告された「『遺体は誰のもの?』倫理委員会とともに検討した事例から学んだこと」。病理解剖を希望するがん末期の 患者に離別した息子がおり、法的には遺族の承諾が必要ながら、患者本人は息子への連絡を拒否した事例です。手続き上の問題に触れつつ、医療チームや第三者 も入った倫理委員会での議論を紹介。「患者・家族の意思を尊重しつつ、現場の対応だけで終わらせずに倫理委員会で話し合いを重ね、最善の方法を選択してい くプロセスが大事」との報告が関心を集めました。
 認知症患者への対応でも、多様な角度からのとりくみが報告されました。独居で在宅生活を望む認知症患者の看取りを、行政や多職種でささえている事例(東 京)、認知症の母への息子の虐待へ対応した事例(山口)など。
 判断能力が低下してきた高齢者の成年後見制度を申請した報告(岐阜)や、バイクによる振動病労災認定を日本で初めて勝ち取った報告(熊本)もありました。

攻撃的な入居者の言動を分析

第5・11分科会(3)

 「安全、安心、質の向上を目指す看護・介護の実践」がテーマ。徳島大学大学院教授の多田敏 子さんが、「地域看護・地域連携~これからの看護職に求められるもの」と題して教育講演。ヘルスプロモーションの理念を解説し、連携の今後の課題や、地域 の中でのケアリングマインドの醸成について語りました。
 分科会は退院支援について四演題の報告が。回復期リハビリテーション病棟の退院支援シート(島根)と退院支援グループの活動(福岡)、自宅退院した患者 の分析(北海道)、一般内科病棟の退院支援カンファレンスのとりくみ(福岡)です。
 患者・利用者の在宅療養を支援する演題は五つ。訪問看護ステーションによる高齢者の栄養状態の調査(千葉)、在宅生活をささえるデイサービスの役割(茨 城)、認知症の独居患者への支援(福岡)、通所リハによる外出支援(石川)、調整不十分や交通事故などといった不適切サービスの分析(岐阜)が発表されま した。
 このほか、糖尿病の治療を自己中断した患者への支援(山形)や、グループホームで他者に攻撃的な入居者の言動を分析し、入居者の思いに寄り添う援助で成 功した事例(茨城)、「タクティールケア」(スウェーデン生まれのタッチケア)により認知症患者の不定愁訴が減った事例(福岡)が紹介されました。

“母と独身の息子”世帯を支援

第1・2分科会(2)

 「きれめない看護・介護・福祉の輪」がテーマ。災害時対応として、東日本大震災における訪問看護ステーションのとりくみの検証(宮城)と、大震災を想定した在宅酸素療法患者の対応マニュアル(山形)の報告がありました。
 ターミナルケアの実践を取り上げた演題は五つ。スピリチュアルペインの三要素から援助を考える(東京)、有料老人ホームでの看取り(石川)、慢性呼吸不 全の患者を病院で看取って(奈良)、疼痛緩和剤を自己中断する患者への対応(香川)、病院と診療所の連携(奈良)など、いずれも患者の思いに寄り添った実 践でした。
 茨城と福井から「年老いた母親と独身の息子」の世帯への支援報告が続きました。いずれも母親に認知症があるものの、息子が介護放棄に近い状況でゴミ屋敷 になっており、母親の施設入所で双方の生活を立て直しました。同様の問題を抱えた家族が最近目立っており、今後の参考になりそうです。
 三重は今年六月に発足した「e―ケアネットよっかいち」(障害児在宅支援ネットワーク)について報告。訪問看護ステーションが四日市市の特別支援学校と共同で事務局を担っています。
 地元の徳島は組合員住宅を紹介。食費、介護サービスを含め月一〇万円前後で入居できるため、ホームレスや施設に入れない高齢者、障害者の受け皿となっている、と報告しました。

関心を集めた大人の発達障害

第3・4・10分科会(1)

 「看護職の後継者確保と育成」「職場づくりと看護管理の課題」「介護の専門性と育成の課題」をテーマに、職員育成や管理の実践など一二演題を報告しました。
 冒頭に教育講演があり、徳島文理大学の島治伸教授が「大人の発達障害と職場のメンタルヘルス」と題して講演。会場外まで傍聴者があふれ、このテーマへの関心の高さがうかがえました。
 島教授はまず、精神的な不調を起こしやすい性格傾向や、現代型うつの特徴にふれました。続いて最近寄せられた相談から「発達障害」に該当する事例を紹介 し、その概念ととらえ方を解説。発達障害は自閉症やアスペルガー症候群といった広汎性発達障害と、学習障害やADHD(注意欠陥多動性障害)など低年齢で 発現する脳機能の障害です。広汎性発達障害には融通がきかない、周囲への無関心、こだわりが強いなどの特徴が。またADHDは多動的、不注意、衝動的のい ずれかのタイプです。
 島教授は発達障害を「『障害』ではなく『発達の偏り』であり、特徴としてとらえよう」「行動パターンを知れば、本人も周囲も対応可能」と語りました。参 加者から発達障害の同僚の受け入れ方や、相談先についての質問も出ました。

意欲引き出し睡眠障害を改善

第6分科会(5)

 「患者・利用者の立場に立つ看護・介護の実践」は、分科会の中で最も多く演題発表があったテーマです。
 認知症や障害により意思疎通が難しい高齢者のケアを細やかな観察による気づきで成功させた実践では「家族からも患者のニーズが得にくい中、本人の意欲を 引き出し、睡眠障害を改善」(岩手)、「ぬいぐるみを介して利用者の思いを知り、精神的安定も得られた」(福井)、「頻回に排泄の欲求を訴える患者の本当 の願いをつかんだ」(愛知)、「失語症患者に諦めず関わり、全介助状態から四点杖での自力歩行にまでADL改善」(徳島)などが報告されました。
 終末期に関わる演題では、胃ろう装着といのちの尊厳を考えたもの(埼玉)(岩手)、介護の主体者である家族への支援(東京)、病棟での環境整備(東 京)、外来化学療法チームが、栄養士など他職種との連携で八〇代という高齢の患者に最期までかかわった初のケース(岡山)、「聞き書き」という高齢者ケア にとりくんで(長崎)、困難な家族関係の患者を話し合いを重ねて看取った経験(愛媛)など。また、困難事例にあたるケアマネジャーのストレスが、事例検討 会を通じて軽減されているという調査発表(京都)もありました。

糖尿病女性の出産・育児を支援

第7・8・9分科会(2)

 「母子分野でのかかわり」がテーマ。妊娠・出産や、その後の生活などで、困難を抱える母子を受け入れ、行政や地域の関係機関にも働きかけながらささえる活動が報告されました。
 埼玉は以前は出産が難しいと言われたI型糖尿病の女性の妊娠・出産・育児を、医師や糖尿病専門看護師、助産師、栄養士の連携で支援した事例を報告。北海 道から市内で唯一の入院助産施設(経済的に困難な妊婦に出産費用を公的に助成する制度が利用できる)である札幌病院が報告。同制度活用は全分娩の四割超。 貧困や未婚、精神疾患既往の妊婦が多く、全分娩の三割ほどに産後訪問を行い、地域の医療機関につないでいます。「周産期の看護の継続が大事」と発表しまし た。
 徳島は内服治療が必要な患児が保育園に通えるよう力を尽くした経験を報告。保育園では内服が難しく、病後児保育や訪問看護も困難なため、保育士がクリ ニックへ内服に連れてくることで対応しています。「困難に対する支援や運動が必要」とまとめました。
 宮城は震災後、地域の七つの医療機関で「塩竃地区母子保健推進ネットワーク」を立ち上げたことを紹介。「知的障害がある両親への育児支援」(北海道) や、「重症心身障がい児への訪問看護の実際を通して学んだこと」(東京)、「カンガルーケア中の新生児の観察についての実際と基準作成についての一考」 (京都)などの発表がありました。


分科会 11のテーマ

(1)人権を守り、ともにたたかう看護・介護
(2)きれめない看護・介護・福祉の輪
(3)看護職の後継者確保と育成
(4)職場づくりと看護管理の課題
(5)安全、安心、質の向上を目指す看護・介護の実践
(6)患者・利用者の立場に立つ看護・介護の実践
(7)母子分野でのかかわり
(8)保健予防分野でのかかわり
(9)認定・専門看護師の活動
(10)介護の専門性と育成の課題
(11)急性期医療の看護

(民医連新聞 第1534号 2012年10月15日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ