民医連新聞

2012年10月1日

フォーカス 私たちの実践 透析室で防災対策 北海道・釧路協立病院 被災地支援の教訓活かし透析患者と共に避難訓練実施

 北海道・釧路協立病院透析室の松田佑介さん(臨床工学技士)は、東日本大震災で被災した宮城・坂総合病院への支援活動を機に、自院の防災対策強化の必要性を痛感。病院に戻ってから、透析室スタッフや患者さんとともに、防災対策にとりくんでいます。松田さんに聞きました。

 震災二週間後から約一〇日間ほど坂総合病院に支援活動に入りました。「病院のすぐ近くまで 津波がきた」と聞き、坂病院と海抜が同じくらいで近くに川もある当院でも「地震や津波に対して本気で対策を講じないと」と感じました。坂病院では地下水を 利用していましたが、当院では水道が止まればアウト。透析室でも水は欠かせません。透析室での防災意識の向上、防災対策の強化にとりくもうと決意して支援 から戻りました。

自己離脱の可否を把握

 第一に緊急避難マニュアル作成に着手し、職場で議論を重ね、患者さんも参加する訓練を初めて実施。坂病院でも、震災前から災害時の訓練を繰り返していたことが役立ったと聞いたためです。
 当院が透析管理をしている方は約五〇人。昼間は一八床のベッドが常時埋まっている状況です。夜間透析も行っており、一三人が利用しています。大災害が起 きた時にスタッフだけでは安全を確保できません。そこで、患者さん自身が血流の回路を遮断・切断して離脱し、避難場所へ逃げられるよう、患者さんとともに 行う避難訓練を計画。約半数の患者さんと全スタッフが参加しました。
 訓練の冒頭では、被災地支援について報告し、現地の被災状況も伝えました。災害発生時、透析スタッフの対応が間に合わないことを想定し、訓練が必要なことを説明しました。
 患者さんたちと離脱訓練をしてみると、シャントを利き手に造設していて、もう一方の手で回路の切断は難しいという方もいました。また、患者さんは六〇代 後半以上の高齢者が多く、鉗子で回路を挟んで遮断する力がない方や、繰り返し説明して練習してみてもなかなか手順を覚えられない方もいました。
 各自、訓練を三回行い、最終的には、参加者の約八割が自力で離脱できるようになりました。現在は、すべてのベッドに緊急離脱セットを備え付けています。
 患者さんからは、「実際にはパニックになるだろうが、訓練をしたのは安心につながる。参加して良かった」「思った以上に難しかった」などの感想が寄せら れました。スタッフにとっても、どの患者さんが自力で離脱できるか、どの患者さんにどんな困難があり、どんな支援が必要か、などを把握できたのは、大きな 成果です。今後、患者さんごとの離脱の可否や援助の内容などを一覧表にし、共有できるようにする予定です。

医療材料の見直しと備え

 第二にとりくんだのは、今回の震災でも不足した薬や医療材料についての対応です。
 当院の透析室でも、震災後、透析液を生産していた茨城工場の被災で、透析液の供給がなくなりました。当時、唯一供給可能だった粉末の薬剤で透析液を自作 することにしました。しかし薬品の溶解装置もなく、ホームセンターで材料を買い、手作りの装置で急場をしのぎました。
 透析液がなければ透析治療は維持できず、患者さんの命にかかわります。透析液薬剤の複数種類の確保を検討し、震災時にも供給が安定していた粉末薬剤に、 日常診療も含めてすべて切り替え。透析の機械に水を送る配管も、大きな揺れでも断裂しにくい素材のものに買い換えました。
 災害で当院の透析室が機能しなくなった場合、高台にある透析クリニックで受け入れてもらうことになっているのですが、その取り決めを交わしてからかなり 時間が経過しており、患者さんの移動方法や受け入れ態勢の再確認なども課題です。
 震災に強く、患者さんが安心して治療に専念できる透析室づくりを、さらにすすめていきたいと思います。

(民医連新聞 第1533号 2012年10月1日)

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