民医連新聞

2012年8月20日

がれきの広域処理を考える 民医連の論点整理について 原発事故被ばく対策本部 小西本部長に聞く

 全 日本民医連原発事故被ばく対策本部は七月二〇日、「東日本大震災によるがれきの広域処理の論点整理」を発表しました。住民のいのちと健康を守る視点から広 域処理について、六つの論点を示し、全国の民医連職員に積極的な議論を呼びかけるものです。対策本部長で全日本民医連副会長の小西恭司さんに、広域処理の 問題点を聞きました。

 震災後一年五カ月が過ぎても、被災地の復興は遅々としてすすみません。理由の一つに、がれきの広域処理に固執する政府の姿勢があるのではないか。
 がれきの受け入れを巡り、放射能への不安から全国で住民の反対運動が起きています。地元の宮城、岩手でも「県内で処理すべき」「処理しきれないので、他県に受け入れてほしい」など、意見が分かれています。
 「論点整理」は民医連としての結論を示したものではありません。多くの職員が処理方法について学習し討論をすることで、住民本位の復興を急ぎ、がれきや 放射能管理に対する認識を深め、脱原発に向けた国民的な大きな団結の「架け橋」となることを期待して提案するものです。

線量引き上げへの疑問

 そもそも広域処理の話が出てきたのは、現地ですべてのがれきを処分しきれないという予測からでした。当初、宮城、岩手両県のがれきの総量は二〇五〇万ト ンで、うち四〇〇万トンを広域処理するはずでした。ところが、今年五月の見直しで総量は一六八〇万トンに減少。広域処理分は、既に無くなってしまっている わけです。
 宮城県の仮設焼却炉は二九基で、一日当たり四四九五トンのがれきを処理できます。岩手県の仮設焼却炉は二基のみですが、既存炉を合わせると一日当たり一四七四トンを処理できます。従来より処理能力は上がっており、広域処理の必要性は薄れています。
 政府の広域処理方針について、大きな疑問が放射線許容量のご都合主義的な引き上げです。原子炉等規制法のクリアランスレベルは、もともと一kg当たり一 〇〇ベクレル(セシウム137)でした。ところが、政府は広域処理に際し、この規制値を八〇〇〇ベクレルまで引き上げてしまいました。環境省のホームペー ジには、さらに一〇万ベクレルの焼却灰の処理方法まで書いてあります。
 政府は昨年四月にも、小中学校の屋外活動を制限する放射線量を年間一ミリシーベルトから二〇ミリシーベルトに引き上げました。既存の基準で不都合が生じ れば、都合の良い基準に書き直し、「安全」とする国の姿勢はこの間、一貫しています。これでは、国民が国を信頼することはできません。
 もう一つの大きな疑問は、広域処理を巡る新たな利権の懸念です。がれきは現地処理の場合、一トン当たりの必要経費は二万円ですが、東京に持ち込めば六万 円、九州なら一〇万円もかかると言われています。数倍の費用がかかるのに、なぜ遠方まで運ぼうとするのでしょうか。
 東京都でがれき処理を受け入れる元請け企業は、東京電力が九五・五%の株式を保有する「東京臨海リサイクルパワー」です。また、国は広域処理の予算一兆円分を既に大手ゼネコンに発注しています。何らかの利権が絡んでいるとみるべきでしょう。

放射能管理の原則

 放射能管理の原則は「集中して管理し、集中して処理する」ということです。低線量被ばくを避けるために、福島原発から出た放射能はできる限り回収すべきです。全国に拡散したら、二度と回収できません。
 現地にセシウム回収型の焼却炉を設置し、がれき、焼却中の排ガス、焼却灰それぞれの放射線量を監視し、公表すべきです。また、現地処理により、雇用確保も期待できます。
 今回のがれきは阪神大震災と違い複雑です。倒壊した家屋のがれきだけでなく、津波によるがれき、放射能に汚染されたがれきがあります。
 受け入れを検討している自治体では焼却場の現地調査をするなど、各県連で工夫しながら議論を深めてください。

がれきの広域処理に関する論点整理(要旨)

(1)そもそもがれきの広域処理がなぜ、持ち出されてきたのか
(2)がれきに含まれる放射能は安全なレベルなのか。政治判断による許容レベルの引き上げは許されるのか。放射能に汚染したがれきを移動してよいのか
(3)バグフィルターの放射能除去能力や処分場からの水漏れ対策など、低線量被ばくを極力避けるための最善策が、議論されていないのではないか
(4)どうして広域処理を急ぐのか。先進の東京都では新たな利権が原子力村によって作られた。これこそが、安全性が検証されていない段階で広域処理をすすめる理由ではないのか
(5)そもそもがれきはどのように処理されるべきか。放射能汚染を全国に拡散させてはならないし、低線量被ばくは極力避けなければならないのではないか。 放射能に汚染されたがれきは国と東京電力が責任を持って現地処理を貫くことが必要ではないか。加えて、現地処理は被災地の雇用確保につながるのではないか
(6)がれきには放射能にとどまらず、アスベストやヒ素、ダイオキシンなど多数の有害物質が含まれているのではないか

(民医連新聞 第1530号 2012年8月20日)

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