民医連新聞

2012年8月6日

「看護士特定能力認証制度」を考える 看護師が医師の肩代わり?

 「社会保障と税の一体改革関連法案」には看護に関わる内容が盛り込まれています。特定の医療行為をする看護師の能力を国が認証 し、侵襲性の高い医行為や判断の難しい医行為を担わせる「看護師特定能力認証制度」です。看護職の医行為を禁じた現在の保健師助産師看護師法(37条)を 改正し「どの業務をどの職種がどこまで行うか」の具体的な内容は政省令に委ねる方向です。問題点は―。

 昨年一一月、厚労省のチーム医療推進のための看護業務検討ワーキング・グループ(以下WG)は「看護師特定能力認証制度骨子案」で、認証制度の下での看護業務を次のように提案しました。
 ■看護師免許を持ち実務経験五年以上で厚労省のカリキュラム(二年または八カ月)を受けて試験に合格した者が、特定行為を「医師の包括指示」の下で実施
 ■認証を受けない看護師は「医師の具体的指示」で行う

 この制度が現場に導入されれば、看護の専門性がゆがめられることになる―。これまでの議論を注視してきた全日本民医連の窪倉みさ江副会長はこう指摘しま す。「つまるところ、医行為の多くが看護師の業務に移行されるということ。影響は認証を受けない看護職や他職種にも及びます」。

「ケア」 どこへ?

 二〇一〇年、厚労省は看護師がどの程度医行為をしているか、大規模な実態調査を行いました。現在はこれに基づき、二〇三項目の業務を抽出し、難易度などを分析中です。
 五月二八日のWG資料によれば、「さらに検討が必要」とされた一九項目を除き、分類がすすんでいます(別項)。医師 だけが行う「絶対的医行為」(A)は六項目のみ。認証を受けた看護師の「特定行為」(B)には、動脈採血や壊死組織のデブリードマン(除去)などが入って います。また「一般の医行為」は認証の有無に関わらず、すべての看護職の仕事(一部は経験や現任教育などが条件)になります。また「医行為でない」とされ たE項目にも、治療上重要な内容が入っています。
 「どう考えても無理がある。医師は六年間かけて総合的に医学を学びます。それに対し、認証を受ける看護師の研修は最短で八カ月。医療安全を損なう恐れもあります」と窪倉副会長。
 「また、看護職のスキルアップが『療養上の世話』や『診療の補助』という本来の専門性ではなく、医行為にシフトし、患者の生きる力を引き出すケアの価値が置き去りにされるのではないでしょうか。なにより今以上の看護師不足が起きる可能性もあります」。

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広く知らせて

 「『チーム医療の推進』ではなく『業務範囲の拡大』」という指摘も、拙速な制度導入に反対する日本医師会から出ています。
 そもそもこの看護職の業務見直しの議論は、医師不足を補うために始まりました。しかし看護職をはじめとした他職種に医師の業務を肩代わりさせ、介護職に 看護を肩代わりさせる方向性では、医師不足の根本的な対策になりません。
 全日本民医連は労働組合などとともに、この問題を学びながら、抗議の声をあげてゆく構え。地域の職能団体や医療機関などとの意見交換や、患者さんへのお 知らせなど、広く発信しながら、看護のケアの価値を見直すたたかいにもしよう、と位置づけています。


《行為の分類とその内容の一部》

A)絶対的医行為…全身麻酔や経皮的気管穿刺など
B)特定行為…動脈穿刺による採血や褥瘡の壊死組織のデブリードマン、各超音波検査の決定-実施
C)一般の医行為…心肺停止患者への電気的除細動
D)さらに検討
E)医行為でない…単純X線やCT・MRIの画像や超音波検査の評価、食事の中止・開始、手術サマリーの作成

(2012年5月28日のWG資料より)

(民医連新聞 第1529号 2012年8月6日)

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