民医連新聞

2012年8月6日

責任放棄と大幅負担増 社会保障制度改革推進法案とは

 消費税増税法案とともに、七月から参議院で審議されている「社会保障制度改革推進法案」。現状でも国保料が払えない、介護が受け られないなど、患者や利用者の暮らしの危機が現場から発信されています。法案は国の責任放棄と国民へのさらなる負担増で、生活をどん底に突き落とす内容で す。(丸山聡子記者)

 法案は、国民が「ノー」を突きつけた小泉構造改革路線を復活させ、「法律」として定着・固定化するもの。法律となれば、たとえ政権が代わっても構造改革路線は継続することになるわけです。
 二〇〇一~〇六年の小泉内閣は、社会保障予算を毎年二二〇〇億円ずつ削減しました。診療報酬のマイナス改定が続き、健保本人の医療費窓口負担は二割↓三 割に(〇三年)。年金保険料は上がる一方、給付は減額(〇四年)、介護保険から軽度者は除外、生活保護の母子・老齢加算を廃止しました(母子加算のみ復 活)。派遣労働を製造業に拡大、期間も一年↓三年に延長し、非正規雇用が激増しました。
 格差と貧困の拡大は深刻化し、政権交代が実現(〇九年)。国民の願いを受けて政権についた民主党は当初、後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止、 最低保障年金、子ども手当などを公約にしていました。しかし公約を次々と破り、自民、公明両党とともに社会保障の考え方を変えようとしてまとめたのが本法 案です。

社会保障は自助・共助に

 法案は社会保障の「基本的な考え方」として「自助・共助」と規定しています。私たちは「自 立」して生活しています。しかし、病気や失業などで困難になるときがある。そのために「社会保障」があるのに、それを投げ捨て、国は「家族相互及び国民相 互の助け合いの仕組みを通じて支援」するだけ。生存権と国の責務をうたった憲法二五条の否定です。
 権利である社会保障を「利益」とし、 「受益と負担の均衡」を強調。「負担」とは保険料であり、消費税です。年金、医療、介護は「社会保険制度を基本」と明記。医療では「保険給付の対象となる 療養の範囲の適正化」と、保険診療の範囲の縮小を狙っています。政府は消費税一〇%を目指していますが、社会保障の公費負担を消費税にすると三〇%は必 要。サービスを受けたければ消費税や保険料を上げる、イヤなら負担した分しか給付しないということです。
 社会保障の「重点化」「効率化」も強調。すでに介護保険では生活援助を六〇分から四五分に縮小しています。医療でも平均入院日数を一~三割減らすと提 示。附則で生活保護制度の見直しに触れている点も見逃せません。
 一方で、「障害者」「母子」「児童福祉」「高齢者福祉」などの文言はなく、「雇用」や「教育」、「国民皆保険」への言及もありません。

消費税以外に7兆円の負担

 二〇一五年までに消費税以外に七兆円超の国民負担増が目白押し()。一方、二五七兆円も内部留保のある大企業には、今後二五年間で二〇兆円もの減税です。
 法案について自民党の鴨下一郎衆院議員(元厚生労働副大臣、医師)は「自民党の哲学が貫かれている」と述べています。同党は綱領で「(日本人は)他人に 頼らず自立を誇りとする」「公への貢献と義務を誇りを持って果たす」と規定。三党合意には自民党の意見の大半が取り入れられました。
 中央社会保障推進協議会の相野谷安孝事務局長(全日本民医連理事)は、「すでに少なくない国民がギリギリの生活をし、高負担にあえいでいます。小泉構造 改革を上回る“暮らし切り捨て・大負担増”をすれば、自殺や孤立死、介護心中が蔓延するのは目に見えています。消費税増税とともに、許してはいけません」 と話します。

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滞納の「制裁」増えた
 一条通病院 北海道

介護

 「介護保険料を滞納して制裁措置を受け、介護サービスが受けられない事例が目立つ」―。道 北勤医協一条通病院(北海道旭川市)からの報告です。介護保険には、保険料を一年以上滞納した場合、制裁がかかるしくみがあります(制裁内容は左下参 照)。同院のSW・岩城幸子さんは、一年弱で四件の相談を受けました。
 無年金の人、一家四人が父親の年金で生活していた世帯、年金を担保に借金して生活費にあてていた世帯など、経済的事情です。「医療費はなんとか出していたものの、介護保険料を払う余裕がなかったのです」。
 骨折して入院した九〇代の患者は、退院後の介護保険利用を検討する中で滞納が判明しました。介護サービスを利用するには、滞納額約一〇万円を支払ったう えに、二年間は制裁措置として利用料の三割を負担しなければなりません。利用料が支払える範囲では不十分な介護プランしか立てられず、「自宅で状態が悪化 し、再入院することになるかもしれません」と、岩城さんは悔しさをにじませます。
 旭川市の介護保険料は改定のたびに増額、今年度から道内で最高額の五六七九円になりました。保険料滞納で制裁を受ける人も激増。二〇一一年度は九四人 で、五年前の二・五倍になりました。「患者さんに、これ以上の負担は無理です。いまでさえ、途方にくれるほどの生活苦がある。さらに社会保障を切り捨てる なんて許せない」。

【制裁の内容】
●第1段階(滞納期間1年以上)…いったん介護報酬の10割を負担、後から9割相当額を返還してもらう償還払い方式
●第2段階(滞納期間が1年6カ月以上)…償還払いの給付費が差し止められ、その中から滞納分を差し引き、残りの額を給付
●第3段階(滞納期間が2年以上)…2年以上が経過した保険料については請求されない。しかし、その期間に応じ、自己負担割合が1割→3割に引き上げ

減免相談会を実施 みどり病院 岐阜

国保

 岐阜市のみどり病院は「岐阜市国保をよくする会」と協力、毎年七~八月に国民健康保険料の集団減免申請を行っています。申請前に同院相談室が相談会を実施。今年は八人が訪れ、申請書類作成などを手伝いました。
 近隣自治体と比べても保険料が高く、短期保険証や資格証明書の発行が県内で一番多い岐阜市。医事科の訪問活動や友の会の協力で、チラシを一〇〇〇戸以上 に配布しました。同院を受診したことがないという人がほとんどです。
 「派遣社員として働いている六〇代の一人暮らしの女性は、いつ解雇されるかわからないと不安を訴えられていました」と話すのは、同院SWの島邊洋平さ ん。女性は年収約一五〇万円で、月額で約一万七〇〇〇円の保険料が払えず滞納に。「以前、一人で市役所に分納相談に行ったら『額は一回一万円以上でないと 困る』と言われ、途方に暮れていた。分納相談も対応が厳しくなっています」と島邊さん。相談の末、減免申請をすることになりました。
 岐阜市国保をよくする会は、約二〇年前から集団申請にとりくんでいます。同市の減免数の二割が集団申請によるもの。同会事務局長の福山良さんは、「岐阜 市の国保料は所得の一三%で、滞納世帯は全体の一七%。払える国保料ではない」と指摘します。近年は国保未加入の人の相談も増えています。
 島邊さんは、「経済的な困難にとどまらず、身体を壊し、失業し、メンタル面でも病を抱えているなど、何重にも困難がある人が多い。払えないような国保料 を課したり、保険証を取り上げるのではなく、減免制度の充実や国保料の引き下げこそが求められています」と話します。

(民医連新聞 第1529号 2012年8月6日)

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