民医連新聞

2012年7月16日

どうなったの? 障害者自立支援法 応益負担 障害程度区分 消えず 当事者との約束を国は破った

 障害者総合支援法が国会を通り、公布されました。二〇〇六年からの「障害者自立支援法」に代わる法律ですが、障害者福祉に応益負 担を持ち込んだ同法の問題点がそのまま引き継がれ、障がい者や関係者からは怒りの声があがっています。しかもこの新法は、違憲訴訟を起こした原告と、国と の和解の際の約束に基づき作られるはずでした。「障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会」副会長の新井たかねさんに聞きました。(矢作史考記者)

 障がい者は、四月から国会前で抗議行動をしています。それは国が約束を守らず、自立支援法を事実上延命しているからです。

自立支援法の何が問題か

 障害者自立支援法が施行されて、障がい者や家族は大きな負担を強いられるようになりました。
 同法では、障がい者が生きるために必要な支援を「益」とみなして利用料を課し、障害が重いほど負担も重くなる「応益負担」が導入されたのです。
 サービスを利用すると原則一割の負担を求められ、利用料が増加。作業所でも利用料が取られるようになりました。賃金以上の利用料を取られることも珍しく ありません。食事代も別途請求され、施設の通所者には、給食は食べず、持ってきたおにぎりで済ませる人も出ています。負担増を理由に施設利用をやめた障が い者は、厚労省の調査でも少なくとも一五〇〇人確認されています。
 また、六五歳になると介護保険が優先され、不十分なサービスで生活を強いられることも問題です。
 「障害程度区分」も導入されました。重度障害の子を持つ親からは「(できない)項目を見ると『我が子が生きていていいのか』という気持ちになる」との声 もあります。そして判定は、障害の実態よりも軽くなることが多いのです。
 障害者施設の運営も厳しくなり、多くの職員が非正規雇用になったり、退職を余儀なくされました。利用者の支援には、職員との信頼関係は欠かせません。職員が代わって、施設を変える利用者もいました。
 そのために障がい者たちは自立支援法に対する違憲訴訟を起こしたのです。

「骨格提言」つくったのに

 民主党は「自立支援法の廃止」をマニフェストに掲げました。政権交代後は訴訟の和解を求めてきました。そこで原告や弁護団は、国(厚生労働省)との和解に際して「基本合意」の文書を交わしました。
 「基本合意」で国は、「実態調査や障害者の意見を十分に踏まえず、多大な混乱と生活への悪影響を招き、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけた」と、過ちを認め「反省の意」を表しました。
 そして「応益負担を廃止。介護保険制度優先の原則や障害程度区分をなくす」といった文言も明記しました。
 この基本合意を踏まえた新法(総合福祉法)を作るために、有識者や障害者団体の代表で構成する、障害者制度改革推進会議総合福祉部会(総合福祉部会)も創設されました。
 総合福祉部会は運営も障がい者の気持ちに沿って、すすめられました。
 視覚や聴覚に障害がある人向けには、点字の資料や手話をとり入れ、知的障害がある人には、赤、青、黄色の三つのカードを持ち、赤=わからない、黄色= もっとゆっくり話して、青=分かった。など、意思表示も工夫されました。
 そして一八回目の総合福祉部会で「骨格に関する総合福祉部会の提言(案)」(骨格提言)が完成しました。自立支援法はなくなる方向でまとまり、「政治って変わるんだ」と私たちは思いました。

「寝耳に水」

 しかし今年二月の総合福祉部会に出された厚生労働省案には、骨格提言が全く反映されなかったのです。
 新法には、これまで福祉サービスを受けられなかった難病患者も対象になるなど一部改善点もあります。しかし応益負担や、高齢障がい者の介護保険優先原則 は変わらず、障害程度区分も障害支援区分と名前が変わっただけでした。
 私たちには、まさに「寝耳に水」でした。「いったい基本合意や、総合福祉部会での審議は何だったのか」と思いました。

 「私たち抜きで私たちのことを決めないで」という言葉は、障がい者共通の思いです。国といっしょに作り上げた骨格提言は私たちも納得できるものでした。
 弱い人でも安心して暮らせる社会は、誰でも安心して暮らせる社会です。
 その実現のためにも、私たちは基本合意と総合福祉部会で作り上げた骨格提言を守ってほしいと、強く抗議しているのです。

(民医連新聞 第1528号 2012年7月16日)

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