民医連新聞

2012年7月2日

フォーカス 私たちの実践 高次脳機能障害の人の支援 福岡・ヘルパーステーションたすけ愛の会ひまわり 高次脳機能障害の患者ささえ 生活動作を自分でできるまでに

 高次脳機能障害は、外見からは分かりにくい障害のために誤解や偏見を招き、本人も苦しんでいます。長期にわたり医療・介護の連携 で切れ目ない支援を続け、利用者の“生きる”をささえている「ヘルパーステーションたすけ愛の会ひまわり」(福岡)。第一〇回看護介護活動交流集会で報告 した介護福祉士の清水清美さんと、世戸早苗さんの報告です。

 私たちのステーションがAさん(六〇代、男性)と関わるようになったのは二〇〇四年からで す。Aさんは、千鳥橋病院がとりくんでいたホームレス健診で「高次脳機能障害」と診断され、入院。生活保護を受給して退院し、在宅生活を開始しました。訪 問看護、通所リハ、通所介護と、週三回の訪問介護を利用しています。
 入院前の生活は、「はっきり覚えていない」とAさん。「路上生活の時に頭をたたかれ、それまでの記憶が定かではない」とのことでした。高次脳機能障害は 脳挫傷によるとみられ、失語や失行、遂行機能に障害がありました。〇九年にはアルコール依存の診断も受け、要介護1で独居です。
 訪問開始時のAさんは、信号の見方が分からないので無視して渡る、お金の使い方が分からず買い物ができない、風呂の沸かし方が分からないので友人宅で入 浴する、飲酒のコントロールが困難で室内での転倒や生傷が絶えない、日付や何をするべきかが分からない…という状態でした。

信頼築き生活をひとつずつ

 当初Aさんは、人見知りが激しく、どもりがちで、目を合わせることもない状態でした。そこで担当ヘルパーを固定し、継続してかかわることでAさんとの信頼関係を築くことに努めました。予定が変わることに不安を覚えるため、小さな変更も必ず連絡しました。
 目標は、生活動作の一つひとつについてAさんがヘルパーといっしょにとりくみ、一人でできるようになることです。
【入浴】…元栓を確認。「ガスは怖い」との思いから風呂が沸くまでその場を離れない→一年後、一人で沸かせるようになり、好きな時に入浴するようになった。
【洗濯】…ヘルパーとともに洗濯機の操作を覚える→一年後、洗濯する曜日を決めて自分でできるようになった。
【掃除】…ヘルパーといっしょに手順を書き出す→自分で手順を書き出し、掃除するようになった。
【買い物】…週一回、何をどのくらい買うか話し合いながら、買い物に同行→自分で必要なものを書き出し、一人で買い物ができるようになった。
【調理】…コンロの使い方は覚えていたため、野菜の皮むき、切るなどを覚える→一年でできるようになったが、その後手の力が弱くなり、消極的。
【収納】…収納場所には中身をすべて書き出して張る→二年目に収納場所が認知できるようになり、張り紙をはずした。
 三年目には、担当以外のヘルパーも受け入れるようになりました。カレンダーに詳細な日課を毎日書き出し、実行。その日したことと日付を塗りつぶすことで、日付の把握も可能になりました。

同じ人、同じパターンはない

 長期のかかわりのなかで、自分一人でできることが増え、ヘルパーの積極的な声かけで、事業所主催の芋掘りに参加するなど、人と接する機会が広がりました。
 一進一退の面もあります。Aさんの自覚では年齢は四〇代で止まっており、体力の衰えやできないことが納得できません。いら立って部屋の壁をたたいたり、 飲酒に走ってしまうこともあります。年末には体調の悪化も重なり、「死にたい」と繰り返し、実際にロープを用意していました。
 Aさん以外にも、高次脳機能障害と診断された利用者がいますが、外見からはわかりにくい障害ゆえに理解されず、やる気はあっても行動につながらず、誤解 されることも多いです。同じ「高次脳機能障害」の診断でも、同じ人、同じパターンはないと痛感します。だからこそ切れ目のない支援が大事です。
 一方で、相次ぐ介護保険法の改悪で訪問時間が短縮され、買い物して掃除して料理して…ということは難しくなりました。しかし、自分で調理できるように なったAさんの食事を配食サービスにすれば、大事にしてきたコミュニケーションが減り、失語傾向に拍車をかけてしまいかねません。介護には、もっと余裕が 必要です。

(民医連新聞 第1527号 2012年7月2日)

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