民医連新聞

2012年7月2日

藤末会長 シブヤで語る TPPで医療どうなる? 「シッコ」上映後ゲストで

 東京・渋谷のミニシアター・アップリンクで行われた「TPPを考える映画祭」で六月二日、全日本民医連の藤末衛会長が「シッコ」 上映後のトークゲストに招かれました。環太平洋連携協定(TPP)への参加が日本の医療にどんな問題を起こすのか、劇場スタッフの鹿野香織さんを聞き手に 約四〇分語りました。(木下直子記者)

―鹿野 アメリカの医療の実態には驚きました。TPPが医療に与える影響はあるのですか?
 TPPは一般に「貿易に関する協定」だと考えられていますが、関税以外の規制緩和が総合的に盛り込まれているのです。アメリカの商売の障壁になるものは 取り払え、という内容です。たとえば、企業が儲けの邪魔だと判断すると相手国を訴えることができるというISD条項があります。
 たばこ企業のフィリップモリス社はこの条項でオーストラリアの禁煙法を訴えました。「たばこに派手な包装はダメ」という項目が販売の邪魔だ、という理由です。
 また最近では、脱原発の政策を出した国に原発企業が「原発をやめるなら、その損失を補償しろ」という訴えも出しています。そういう考えでいくと、民間医療保険会社には日本の皆保険制度は邪魔でしょうね。
 もともとアメリカは日本と二国間のFTAを結ぼうとしていて、その中で営利企業の病院経営への参入を求めていました。日本のルールでは医療は市場原理か ら外していますから、地域限定の特区でもいいからやりたいと。それをTPPで実現しようと狙っているのです。
 医療での黒字は医療に返すのが非営利の原則ですが営利の病院の目的は儲けです。利益を株主に配当しなければいけません。
 「医療は守る」と日本政府は説明しますが、アメリカとFTAを結んだ韓国では、医療には手をつけないという当初の約束を裏切り、特区が六つでき,営利病院が進出しています。

―鹿野 民間企業の要求が一国に勝つのですか…。営利病院ができたらお金持ちしかかかれないかもしれないですね。他にどんな心配が?
 患者負担が増えれば、アヒルのCMの保険会社のような、私的保険に入る流れも強まるでしょう。
 そして、私たちが一番心配なのは、薬の値段が上がる問題です。薬価は、アメリカ→日本→欧州の順に高いのです。薬価は日本の場合、公的に決めています (公定価格)。アメリカの製薬会社は、自社製品の値段を他人が決めるのは許せないわけです。これもISD条項で訴えることが可能です。

―鹿野 国という壁を崩し、弱肉強食の論理を広げるのがTPPなのですね。「医療は誰でも差別なく受けられるよう」という願いと逆で…医療にかかれないという海外ニュースをみますが、他人事ではないですね。
 一九八二年までは、日本でも現役サラリーマンは、病院に財布を持っていく必要がありませんでした。三〇年前まで負担ゼロだったのがいま三割。「検査しま す」と医師に言われたらドキッとしますよね。日本が「シッコ」に出なかったのは、皆保険でも患者負担が増えていると監督が知ったからといわれています。

 話題は、医療ツーリズムが日本の医療崩壊に拍車をかけるものであること。安価な医療を売り に、タイやシンガポールなどアジアで行われている治療が、新たな疾病を生んでいる実態にも及びました。「安上がりのツーリズムも、富裕層のツーリズムも問 題だと僕らは考えている。医療は住民の身近にあって意味があるんです」と、藤末会長。
 観客からは「民医連はどんな形の医療をめざすのか」や「なぜアメリカでは皆保険制度が実現しないのか?」などの質問が出ました。熱心にメモをとりながら 聴いていた若い女性は「病気療養中です。TPPが医療にも影響すると聞き勉強に来ました。弱者が切り捨てられるのはダメだと思う」と語っていました。
◆この模様はYouTubeでも視聴できます。
http://www.youtube.com/watch?v=jmVj0NMHGgw&list

■映画「シッコ」■
  アメリカ社会を告発する映画を発表してきたマイケル・ムーア監督が、無保険者4000万人のアメリカで危機にさらされる命を描いたドキュメンタリー。シッ コ=ビョーキ。描かれる衝撃エピソードは例えばこう。指2本を切断する事故にあった無保険の男性が、中指6万ドル、薬指1万2000ドルの治療費を示され 中指を諦めた/医療費が払えない貧しい患者を治療半ばで病院が捨てた/アメリカ国民の破産原因の1位は医療費/国会議員たちは保険業界から多額の献金を受 け、圧力に屈して制度改善ができない。一方、ムーア監督は患者負担ゼロの国の医療制度を取材し、アメリカでの事態打開も呼びかけた。

(民医連新聞 第1527号 2012年7月2日)

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