民医連新聞

2012年6月18日

「復興」私たちの提言(7) 現在進行形の放射能被害 子どもらの健康保障を ふくしま復興共同センター 放射能対策子どもチーム 佐藤晃子さん

 原発再稼働を急ぐ政府に、多くの国民、とりわけ福島県民が「事故を忘れたのか」と怒っています。ふくしま復興共同センター放射能対策子どもチームのメンバーで、三人の子どもの母親でもある佐藤晃子さんに、福島の復興について聞きました。(新井健治記者)

□■外遊びが昔話に

 福島の放射能被害は現在進行形です。原発再稼働は、事故を過去のものにしようとしていると しか思えない。福島の子が、他県の子と同じように当たり前の環境で過ごせるようにするのが大人の責任ではないですか。政府は再稼働の前に、まずは福島の子 どもに謝ってほしい。「土や風、お日様を返せ」と叫びたい。
 福島市でも放射線量の高い渡利地区で、高校二年の長男、小学六年の次男、保育園に通う三歳の長女を育てています。この四月に、一八歳未満の避難者数は三 万人を超えました。住民票を異動しないまま避難をしている人も多く、実態はさらに深刻です。残った子どもたちは、除染の済んだ校庭や園庭などでしか遊べま せん。
 先日、NHKで子どもが落ち葉拾いをする番組を放映していました。それを観た長女の真仲(まなか)が「まなも、行ったんだ。ずっと前」と口にしました。 わずか三歳の子どもにとって、外遊びが昔話になってしまった。発達・成長してゆく子どもの一年は、私たち大人の一年とは持つ意味が全く違うのです。
 放射能は被曝をもたらすだけでなく、子どもたちの育ち、学びに多大な制限を加えています。子どもの視点から国や自治体に要望していこうと昨年七月、ふく しま復興共同センター内に「放射能対策子どもチーム」を立ち上げました。
 子どもチームで「除染・内部被曝の検査・医療費無料化・エアコンの全教室設置・食の安全確保」などを求めた独自の署名を作成。一二万筆を集め、今年二月 に地元選出国会議員への要請と省庁交渉に臨みましたが、何一つ満足に実現していません。中央の役人や多くの政治家にとっては、福島の事態は人ごとなのだな と感じました。

□■生きる力になるのは

 渡利地区には大好きな保育園と学童保育があり、信頼する民医連のわたり病院もあります。「子育てするなら渡利」と思い、長男が小学校入学前に引っ越しました。まさか、こんな事態になるなんて。
 事故さえなければ、福島市は自然が豊かな美しい街です。桃やリンゴ、タケノコ、山菜は買うのではなく、農家や友人からいただくものでした。事故でこうし たご近所とのやりとりもなくなってしまった。旬の食材のおいしさを、子どもたちに伝えられないのが悔しい。日常の何気ない一コマに、悔しさがあるのです。
 放射線量が最も高かった昨年三月一六日、長男は雨の中、高校の合格発表を見に行きました。地元の県立高校では、憧れのサッカー部に入部。一年生は除染も していない校庭で、もうもうたる土埃の中でグラウンド整備をしました。既に一定程度、被曝をしていると思います。
 原発事故は被曝の問題だけでなく、子どもたちの心をさまざまなストレスにさらしています。原発を国策としてすすめてきた国は、福島の子どもたちの健康を 生涯にわたって保障すべきです。ところが、国は一八歳以下の医療費無料化という切実な要求を却下しました。県が一〇月から独自に無料化を始めますが、県内 在住の一八歳以下に限定しています。
 子どもチームは六月五日、福島県知事へ要望書(別項)を提出しました。事故当時一八歳以下だった子どもたちが、たとえ県外に移住していても恒久的に無料 で医療を受けられる制度づくりと、「被爆者健康手帳」にならった「健康管理手帳」の発行を第一の要望に掲げました。
 福島の人は今の状況について、あきらめているわけでも、素直に受け容れているわけでもない。悩みつつ、選択や工夫を繰り返しながら懸命に生活しているのです。
 子どもチームの仲間をはじめ、同じ思いの親たちと共感しながら、この地で生活していきたい。国や自治体を動かすことも、親としての責任の取り方と思いま す。私たちの願いが少しでも前進したなら、それが生きる力になるのです。


-県知事への要望書(要旨)-
●原発事故当時18歳以下だった子ども(胎児や県外移住者も含む)の恒久的な医療費無料化
●健康管理手帳の発行
●通学路や遊び場の放射線量、及び除染の進捗状況の把握と公開
●屋内遊び場確保事業の予算拡充
●子どもの発育状況と、児童・生徒の体力テストの結果公開
●ふくしまっ子体験活動事業の拡充
●県内全教室にエアコン設置
●有給による避難休暇制度の創設
●教員、小児科医、産婦人科医の増員
●自主避難者への財政支援
●高速道路無料化の再開を国へ要望すること
●太陽光パネルの無料設置など再生可能エネルギーへの転換

(民医連新聞 第1526号 2012年6月18日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ