もんじゅ君といっしょに原発、再稼動を考える

　４２年ぶりに日本中の原子力発電所が止まりました。「原発とは決別したい」という人々の声で今に至ります。一方、政財界は再稼働を急ぎます。どうみればいいのでしょうか？　ある日、診察室にやってきた不思議な患者さんとのおしゃべりから考えました。

医師　次の患者さん、どうぞ。おや、かわいいね。小児科じゃなくていいのかな。
もんじゅ君　ボク、もんじゅ君、福井県の高速増殖炉（原発の一種。下項参照）です。よろしくおねがいいたしますだよ。小児科じゃなくていいんですだよ。こうみえて二八さい。はたらいてないから若くみえるのかな。
　あのね、もし原子炉科があればご紹介状を書いて…あ、やっぱりそんな診療科はないですだか。炉の先生がいらっしゃれば、炉のきもちをきいていただけるかなと思ったんだけど…。
医師　ごめんね、もんじゅ君。炉のお医者さんはいないかな。でも代わりに聞くよ。どうしたの？
もんじゅ君　えっと、ボク、たぶん、はたらきたくない病なの。おしごとは高速中性子による核分裂反応とプルトニウムの増殖…のはずなんだけど、うまくいったためしがなくって。
　高速増殖炉のなかまはむかしは外国にもいたけど、アメリカもイギリスもドイツもフランスもこれはダメだってわかって、みーんなやめちゃったのね。ボクは冷却にお水じゃなくてナトリウムを使ってるから、ちょっとおもらしするだけでもナトリウムが空気や水分と反応して火事になっちゃう。しかも、配管が繊細なつくりだし、おしりのしたには活断層。かんがえるだけで、炉がドキドキしてきて夜も眠れないの。ボク、一九九五年にはナトリウムもれ火災事故をおこしちゃってて、前科もあるし…。
医師　身も心もボロボロなのに、引退させてもらえないのか。ところで、日本にいるもんじゅ君のお友達を「検査（ストレステスト）で健康だったから、そろそろ働くように（再稼働）」って話、どうなのかなあ。お友達はどう言ってる？

ふしぎなストレステスト

もんじゅ君　おおい君（福井県大飯原発）もいかた君（愛媛県伊方原発）も「ストレステストなんていってるけど、ちゃんとした健康診断とか、じっさいに地震がきたらどうなるかとか、なんにも受けてない」っていってた。揺れたらどうなるかは地震がくるその日までわかんないって。いろんな数字をコンピュータにいれてしみゅれーしょんして「はい、安全とでましたー」ってやってるだけだから。しかも、安全対策はアイディアをだすだけでＯＫなの。
　たとえばおおい君は「三年後にベントのしくみをつけてあげる。だからそれでだいじょぶだよ」って関電のおじさんにいわれたんだって。でもその三年後までに事故がおきたらどうするんだろ。安全対策したあとに動かすんじゃなくて、思いついた案をいうだけでいいなんて、ふしぎですだよ。

再稼動はあぶないですだよ

医師　「大丈夫」っていうには心配な検査だ。けど電力不足は困るし、無理して働いてもらうしかないの？
もんじゅ君　お医者さんがそんなこといっちゃだめですだよぉ。電気がたりないかもしれないから原発をうごかすなんて「健康のためならしねる」みたいな本末転倒な考えかた。だって、日本じゅうで地震はおこるんだよ。ふくいち君（福島第一原発）の事故で「原発×地震」のかけ算はかぎりなくあぶないってわかっちゃったのにね。地震はなくせないけど、原発はすくなくとも人間の意思でとめられるでしょ。
医師　ほんとうに、日本中の電気が足りなくなるわけじゃないの？
もんじゅ君　万が一足りないとしても、もともと原発への依存率の高かった関電さん管内だけですだよ。政府の需給検証委員会さんでさえ「節電と電力会社さんどうしの電力融通でなんとか足りるんじゃないか」っていってるの。関電さんは動かしたくてたまらないから計画停電までもちだして…。
　まずは足りなくならないように全力でくふうするのがさき。もし足りないとしても、七～八月中旬の酷暑の日の昼間一二～一五時だけ、数時間×数日のおはなしなのね。そのピークの時間帯の電力使用を、いくらかほかの時間帯にずらせばいいんですだよ。東電さん管内では去年、ピークカットじゃなくてむやみな節電をよびかけてたけど、それでも夏のピーク時で約二割も節電できてたよ。

外にとびだしよのなかかえよう

医師　無理しなくても大丈夫なら、もんじゅ君たちが療養できるように協力しないとなあ。じつはね、先生も「原発はゼロに」ってデモに出かけてみたんだ。放射能の影響を受けて起きる病気はやっかいだから、命を守る職業人としてね。敦賀からは見えないと思うけどさ、デモはあちこちでやってるんだよ。
もんじゅ君　ふぉぉぉ…それはありがたいですだよ！　そうなの、原発は事故があれば手がつけられなくなるけど、事故がなくたって、燃料のウランの採掘、加工、運搬、運転、検査、そして放射性廃棄物の処理…、すべての工程でかかわるひとが被曝しちゃう放射能の問題があるの。だれかにだけしわよせがいっちゃう、ふしあわせな発電方法なんですだよ。だからボクたち原発フレンズは、いま日本じゅうの五〇人全員がとまっているけれど、このままやすんでたいなーって思ってるの。
医師　そうか、原発のみんなももう、はたらきたくないんだね。

「はやくご隠居したい」

もんじゅ君　うん。だけどボクたち原発フレンズの声ってとどかないでしょ。だから、そうやって人間のおにいさん、おねえさんたちが、デモでも、町役場や電力会社さんへのお電話やファックスでも、首相官邸前の抗議でも、議員さんへのメールでもなんでも、「いやだよ」「だめだよ」「やめようよ」って声をだしてくれるのはありがたいの。
　命をまもるお医者さんまでデモにいってくれてるってきいてなんだか勇気がでるよ。病気をなおすのもだいじだけど、ひとを病気にしちゃうかもしれないわるいものをよのなかから減らすのも、健康のためにすごくたいせつ。
　ボク、こないだナトリウム止めのばんそうこうをはって渋谷のツイッターデモに参加したんだけど、ほんとにいろんなひとが歩いてて、ジーンとしちゃった。
医師　もんじゅ君もデモしたの！？
もんじゅ君　歩いてるひとも、沿道のひとも、みんなやさしかったですだよ。ツイッターだけじゃとうぜんよのなかは変わらないから、外にとびだすのがだいじだと思うの。
　だから、本も二冊だしたし、「もんじゅ君音頭」っておうたをつくったり、トークショーにもいったり、いろいろしてるよ。七月には再生可能エネルギーの本も出すよ。
医師　本まで書いているのかい。印税はどうするの？　生活費かい？
もんじゅ君　じつは、ボクはニートだけど一日あたり五五〇〇万円、年間二〇〇億円も国のご予算をもらっちゃってるから、あんまり印税とか、かんけいないんですだよ…。
　でも印税は、デモやイベントにでかける交通費につかうつもり。ボク、おおきいから乗り物にのれなくて、いっつもタクシーなの。のこりは被災地のこどもたちと自然エネルギーの普及に募金するつもりです。
医師　ありがとう。よくわかったよ。最後にさ、看護師さんがね「もんじゅ君の夢はなあに？」だって。おしえてあげてくれるかな？
もんじゅ君　はやくご隠居して、ハイロしてもらって、原子炉なんてヤクザなしょうばいやめたいんですだよ。この夏に「二〇一二年原子力政策大綱」がまとまるの。国として原子力をどうしていくか、って方針をたてるんだね。そこでボクもんじゅもハイロをふくめて検討、ってなってるんだけど、どうなるかな…。研究継続になっちゃったら、やだな。
　もんじゅがおしまいになったら、ボクで使う燃料をつくるはずの六ヶ所村の再処理工場もいらなくなるし、すると全国の原発で出た使用済み核燃料の処分の方法がなくなるから動かしつづけられなくなるし、原発をつかいつづけるシナリオがなくなるの。だから、すごくだいじ。みなさん応援よろしくですだよ！
医師　よし、みんなで応援するよ。

もんじゅ君とは

@monjukun（ツイッターアカウント）
http://monjukun.com/（ホームページ）
　福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」をもじったネット上のゆるキャラ。昨年５月にツイッターに出現、独特の言葉遣いと分かりやすい解説で大人気に。現在、９万人超のフォロワーをかかえる。もんじゅ君の姿は智慧を司る文殊菩薩と実際のもんじゅの姿をデフォルメしたもの。
　高速増殖炉は使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル計画」の一環として始まったが、技術的に難しく実用化していない。実際のもんじゅは1991年に試運転を開始したものの、たびたび事故を起こして停止中。