民医連新聞

2012年5月21日

STOP!消費税増税 5%でも負担は7000億円 医療機関と消費税

 「社会保障と税の一体改革」関連七法案が、国会で審議入りしました。年金、子育て、そして柱は税率を二〇一四年に八%、一五年に 一〇%に引き上げる消費税増税法案です。増税は国民生活を破壊し貧困と格差を拡大しますが、医療機関にも深刻なダメージを与えます。医薬品や医療機器等の 購入にかかった消費税は、国内の全医療機関で年間約七〇〇〇億円との推計も。民医連の一〇年度全国調査では、六七億円(歯科・介護を除く)にのぼりまし た。現状の税率五%でも、これだけの負担が。消費税が医療に与える影響について考えます。(新井健治記者)

shinbun_1524_01 保険診療は非課税となっており、患者は窓口で消費税を支払いません。このため、医療機関は医薬品や診療材料、医療機器の購入にかかった消費税を転嫁できず、控除対象外消費税(損税)として負担しています(資料1参照)。
 損税は年間で一医科診療所平均二〇二万円、一病院二二五〇万円になるとのデータもあります。医療機関の税務に詳しく、日本医師会の消費税シンポジウムで も報告している税理士の船本智睦さん(京都紫明税理士法人)は「消費税が一〇%になれば、医療機関の負担も倍になり経営の死活問題。多くの医療機関は赤字 か利益が出ても数%で、増税分を捻出するのは大変厳しい」と言います。
 船本さんによれば、高度な医療機器や医薬品を多く使う急性期病院と、救急医療の受け入れが多い病院ほど、消費税の影響が大きくなります。民医連で最も病 床数の多い健和会大手町病院(福岡、六三五床)は、急性期病床が四一九床、救急搬送数も年間六二〇〇件にのぼり、年間一億四八〇〇万円の消費税を負担して います。
 税率一〇%なら負担は約三億円と、今年度予算の経常利益二億五〇〇〇万円を上回ります。同院の洗川和也事務長は「三億円は恐ろしい金額。大変なことになる」。
 船本さんは「もともと体力のない一〇〇床前後の中小病院の経営が、増税で一気に傾く恐れも。医療機関は一般産業と違い、簡単に効率を上げることはできません。増税は地域医療にも打撃を与えます」と強調します。

二重の負担増で受診抑制に拍車

shinbun_1524_02 厚生労働省は損税対策として、「消費税創設時(一九八九年)に〇・七六%、五%のアップ時(九七年)に〇・七七%を診療報酬に上乗せした」と説明してきました。しかし、その後の相次ぐマイナス改定で、上乗せ分は既に消し飛んでいます。
 消費税増税法案第七条には「医療機関等の仕入れに係る消費税については、診療報酬等の医療保険制度において手当をする」とあり、政府は今後も診療報酬で補填する方針です。
 「保険診療は非課税と決めながら、診療報酬で対応すれば結局、患者さんが窓口で負担し矛盾する。そもそも逆進性の高い消費税は、社会保障財源に最もふさ わしくない」と指摘するのは、開業医などでつくる全国保険医団体連合会(保団連・会員一〇万人)経営税務部の吉岡正雄副部長。
 吉岡さんは四月一二日に東京・日比谷で行われた「消費税大増税ストップ国民集会」に参加、壇上から「大企業と富裕層に応分の負担を求めること、薬価引き 下げ、健康保険料の上限撤廃で社会保障の財源はできる」と訴えました。
 吉岡さんは兵庫県で歯科医院を開業して三〇年。消費税導入や窓口負担増が、患者の受診抑制を招いてきたことを実感しています。「増税のうえ診療報酬で補 填すれば、患者さんにとって二重の負担増。受診抑制に拍車がかかる」。
 保団連は消費税そのものに反対するとともに、損税を申告して還付させる「ゼロ税率」の導入を提案。ゼロ税率なら医療機関にも患者にも負担は発生しません。
 「損税を医療機関だけの問題にしては、国民から理解を得られません。医療費や食料品をはじめ、生活必需品すべてのゼロ税率を要求し、国民的な運動にした い」と吉岡さん。海外では日本より税率が高い国がありますが、その多くが生活必需品はゼロ税率や軽減税率です(資料2参照)。
 前述の大手町病院は、地元北九州市の消費税廃止小倉地区連絡会に参加、毎月二四日に宣伝活動をしています。洗川事務長は「逆進性など消費税の問題点をお おいにアピールしたい。法人全体で増税反対署名にとりくむとともに、学習を強めます」と話します。
 全日本民医連は三月三〇日、藤末衛会長名で「消費税増税法案の閣議決定に抗議する」との声明を発表。その中で「社会保障の財源は大企業の内部留保、軍事 費、無駄な公共事業削減、原発推進予算の中止、薬価引き下げなどでまかなえる」と指摘、増税撤回に向け国民的共同を広げるとしました。
 長瀬文雄事務局長は四月一二日、財務省に消費税増税の中止を要求。「税率が一〇%になったら、医療機関の経営は維持できない」と訴えましたが、安住淳財務相は「考え方が違う」と聞き入れませんでした。
 今後は六月末まで三〇〇万筆を目標に社会保障の充実を求める署名を集めるほか、宣伝、地元選出国会議員への要請など各種運動を強め、増税反対の世論で廃 案をめざします。五月二三日には国会集中行動を予定しています。

建て替えに7億の税負担  耳原総合病院

 消費税は設備投資にもかかります。民医連の耳原総合病院(大阪)は、同院隣接の駐車場で新病院(三八六床)建設をすすめており、二〇一五年三月に第一期オープン、一六年五月にグランドオープンの予定です。
 総事業費は七四億円。土地は非課税ですが、建物や医療機器などの設備に約三億五〇〇〇万円の消費税がかかります。同院の近藤聡事務長は「増税法案が通っ てしまったら、一〇%アップの直後に倍の七億円もの消費税を払わなければいけない。事業計画そのものの見直しを迫られる」と指摘。同院の一一年度決算は赤 字でしたが、一億四二七万円の消費税を払いました。たとえ事業が赤字でも、消費税は納税しなければなりません。
 「所得の低い人ほど負担が重くなる消費税は“強きを助け、弱きを挫(くじ)く”今の政府の姿勢そのもの。大企業や富裕層など負担できるところに負担して もらうべきで、増税は経済も財政も悪化させる最悪の選択」と近藤事務長。
 民医連の病院の多くが一九七〇~八〇年代に建てられました。ちょうど建て替えの時期を迎えており、消費税は建築計画に大きな影響を及ぼします。

(民医連新聞 第1524号 2012年5月21日)

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