民医連新聞

2012年5月7日

「復興」私たちの提言(6) 失業14万人震災「口実」のリストラも多い 宮城県労連 労働問題アドバイザー 遠藤秋雄さん

 被災地の雇用はどうなっているのでしょう。震災を口実にしたリストラも目につくといいます。宮城県労連の労働問題アドバイザー・遠藤秋雄さんに聞きました。(木下直子記者)

雇用の現場は深刻

 宮城労働局の調査によると、昨年の震災以降、今年二月末までの離職者数は、宮城県内で約一四万人に上ります(三月一日時点)。雇用保険の受給者は一月末時点で二万四四〇〇人余です。これは前年同比で九七・四%増、震災を受け、通常はありえない事態です。
 私たちに入る労働相談は、震災直後極端に減りました。当時はテレビで労働局が相談番号を放送していたので、そちらに流れたこともありますが、同時に「命 を失った人たちに比べれば、自分の問題など大したことはない」というあきらめの影響があったようです。
 しかしその後、相談は増えています。震災で損害を被っても従業員を解雇せずがんばっている企業もあります。一方で、震災を理由に「切る」(解雇する)と いうパターンも目立ち、労働者たちは、「会社の仕打ちはおかしい」と、行動に立ち上がっています。
 相談事例として、県内の大崎地域にある運送会社が「震災による売り上げ減少」を理由に、二二人全員を解雇しました。一九人が組合に入り団体交渉も行いま したが、年末に会社閉鎖を強行したために、いま裁判をしています。
 この会社は「三・一一」以前に、労働基準監督署からサービス残業の是正勧告を受けていました。本社は富山で、年商六〇億円をあげる中堅企業なのに、行政 指導にも従わない体質が明らかになっています。会社は、告発した従業員も気にいらなかったのです。

脱法行為とのたたかい

shinbun_1523_03 最近、労働審判が終わったのは、震災直後に起こったアミューズメント施設「コロナワールド」の大量解雇事件です。愛知県を中心に一〇県一九施設を運営する「コロナ」は、仙台の二施設で働いていたアルバイト五六八人全員を震災を口実に解雇しました。
 震災直後の労働者たちは、宮城県労連の「労働相談一一〇番」のトビラをたたき、労働組合に出会いました。会社は、従業員の安否を確認することなく、一部 のアルバイトに全員解雇を連絡してきたというのです。見舞金は一万円。アルバイトといっても施設の開設当時からいて、フルタイムで働き、この仕事で生活し ている労働者たちです。事務所に来た六人がその場で組合に入りました。さらに彼らがメールやツイッターで加入を呼びかけた結果、組合員数は一カ月で一〇〇 人を超えました。
 なおこの事件では、同社が「解雇予告除外認定」を労働基準監督署に申請し、解雇予告手当の支払いを免れるという、制度の悪用をしていました。本来「事業 の全部または大部分の継続不可能」な場合に適用される制度を、再開の体力は十分ある(後日施設を再開)同社が申請し、行政が認定してしまっていたのです。 申請企業は岩手・宮城(三一二件)で三ケタ、福島でも二ケタありました。私たちが認定のずさんさを指摘し、国会でも取りあげられ、二〇一一年一一月に、同 制度に関する行政通達を二四年ぶりに出させる成果もありました。

今後の試みとして

 二〇一二年一月から雇用保険も切れ始めています。被災の影響で失業し、次の就職口が見つか らない人も多い。生活保護を受ける人もいます。「政治が暮らしに直結している」と痛感します。これをひとりひとりの被災者が実感することが大事だと思うの です。組合も、もっと力をつける必要を感じています。
 また私たちは、できうる限りの手を尽くそうと「労働者供給事業」という新しい試みを始めます。これは、職業安定法が労働組合だけに認めている労働者供給 の事業(四五条)です。労働条件などは会社と労組間の契約で決まります。
 石巻市などでは、求人を出しても水産加工のような業種に応募がない、という状況もあるのです。「これまで派遣労働者を使ってきたが、技術を継承する労働 者を育てたい」という問題意識を持っている企業との連携を探っているところです。

(民医連新聞 第1523号 2012年5月7日)

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