民医連新聞

2012年4月16日

市民が担う再生可能エネルギー 脱原発、その先に 日本環境学会 和田会長が講演

 日本環境学会会長で元立命館大学教授の和田武さんが、三月一二日に東京で「再生可能エネルギーの飛躍的普及をめざして」と題して 講演しました。全労連などが毎月一一日に開く連続講座「11アクション」の二回目。和田さんは「再生可能エネルギーの生産主体は市民」と強調、原発停止後 のエネルギー政策の道筋を明快に示しました。(新井健治記者)

日本の潜在能力

 私は研究で頻繁に海外へ行きます。上空から日本を見るたび「デンマーク人がこの国を見た ら、どんなにうらやましいだろう」と考えます。変化に富んだ山河、豊富な地熱、太陽光、再生可能エネルギーの潜在力がこれほど高い国は少ない。にもかかわ らず、ほとんど活かしていません。
 再生可能エネルギー発電で世界最高の伸び率を誇るデンマークは、決して自然環境に恵まれていません。最高点が海抜一七三メートル、森林は少なく、温泉も 火山もなく、太陽光も弱い。それでも適切な政策を採用すれば、再生可能エネルギーを普及できます。
 デンマークの特徴は、風力発電の八割を地域住民が所有していること。石油危機(一九七〇年代)後、主に農家が風力発電機を設置してきました。設置費用の 補助と風力発電電力を電気料金の八五%価格で買い取る制度によって、「所有者が損をしない」仕組みを構築。資産のない住民でも、容易に事業に乗り出すこと を後押ししました。
 日本では風力発電というと、騒音や低周波による被害などが取りざたされますが、デンマークでは計画段階から住民がかかわるため、問題は起こりません。
 表に示したように、再生可能エネルギーと原子力の大きな違いは生産手段の普及主体です。再生可能エネルギーは市民を含む広範な主体が主人公。住民参加を抜きに語れません。
 最近、ソフトバンクが大規模な太陽光発電構想を発表し脚光を浴びました。しかし、企業任せで広がるとは思えません。そもそも再生可能エネルギーとは、地 域ごとの自然環境に即した事業のため、資本集約的な生産は合わないのです。

不可欠な電力買取制度

 日本の貧困なエネルギー政策のもとでも、自治体や市民が普及に尽力してきました。自治体で は岩手県葛巻町や高知県梼原町が有名です。また、市民共同発電所の参加者は三万人で、太陽光発電一六四基、風力発電二〇基を設置し、出力は約一万六〇〇〇 キロワットになります(二〇〇七年調査)。
 再生可能エネルギー普及には、適切な電力買取制度が欠かせません。昨年八月、「再生可能エネルギー特措法」(電力買取制度)が成立しましたが、肝心の買 取価格と買取期間など詳細は未定。今後、経済産業省の「調達価格等算定委員会」の審議を尊重して、経済産業大臣が決定することになっており、国民的な監視 が必要です。
 同委員会は五人の有識者で構成され、私もその一人です。今年七月の法施行に向け報告書をまとめる予定です。適切な制度が生まれれば、日本でも飛躍的に普 及がすすみ、そのことが社会にさまざまな好影響をもたらします。

貧しい村々が再生

 日本にいると気づきませんが、世界ではここ二〇年、再生可能エネルギーが爆発的に普及しました。二〇〇九年には「国際再生可能エネルギー機関」(IRENA)ができ、一五四カ国が加盟しています。
 全原発廃炉の方針を掲げるドイツも、再生可能エネルギー先進国です。ドイツ北端のローデネ村は、太陽光発電で過疎化からよみがえりました。発電事業関連 で、四三〇人の村で七〇人の雇用を創出しています。この村が使っている太陽電池はシャープ製。日本の技術はこの分野でも、世界的な信用を得ているのです。
 北海干拓地のフリードリッヒ・ヴィルヘルム・リュプケ・コーク村は、一九九一年に村民が共同出資会社をつくり、風力発電を始めました。貧しかった村も売 電収入で豊かになり、農家の後継者難や過疎化、高齢化が解消され始めました。
 日本の再生可能エネルギーの未来は、審議中の電力買取制度に左右されます。発電に参加する市民が損をしない制度にするには、市民自身の意見表明が決め 手。そして、市民自らが再生可能エネルギー事業にとりくみ、健全な産業発展と雇用拡大、エネルギー自給率の向上、農山村地方の自立的発展を担いましょう。

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(民医連新聞 第1522号 2012年4月16日)

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