民医連新聞

2012年4月2日

フォーカス 私たちの実践 リハビリで認知症症状改善 和歌山生協病院 不穏傾向の認知症患者 集団活動参加で生活が安定

 和歌山生協病院では、認知症の患者に対し、集団での作業活動を取り入れ、心理面・生活面の安定や、臥床時間の軽減・身体機能の維持などの効果をあげています。昨秋行われた全日本民医連の学術運動交流集会で、同院リハビリ課の山本達也さん(作業療法士)が報告しました。

 当院の回復期病棟では、作業療法士を中心に、季節にちなんだ創作活動や運動活動、認知活動などの集団活動にとりくんでいます。

不穏傾向強い患者の例

 Aさんは脳血管性認知症で、左大腿骨人工骨頭術後の八〇代の女性です。病前は独居で、ADLは自立。病棟では、車いすから立ち上がり歩き出そうとするな ど、危険な場面があり、監視が必要でした。「なぜ自分がこんな所にいるのかわからない。家に帰る」と、車いすで徘徊することが頻繁にありました。被害妄想 もあり、「私の物が盗まれた」との訴えも。一方でスタッフを気遣い、軽作業を手伝うこともありました。疲れたからと臥床していることも頻繁にありました。
 Aさんの集団活動は、四~六人程度の出入り自由な開放集団で、約二〇分間実施しました。Aさんにはセラピストが一対一で対応。やる気が起きやすい運動プログラムを中心に、創作活動や知的プログラムも取り入れました。
 病棟では臥床しているか徘徊しており、対人関係では閉鎖的なAさんでしたが、集団活動では自発的に他者に話しかけるなどの変化が見られました。周囲と協調した動作もでき、日常生活ではなかった活気も見られました。
 当初は「できない」と作業を拒否する場面がありましたが、声かけで「やってみようかな」と変化し、次第に意欲的にとりくむように。不穏時に作業を促す と、集中し、笑顔が出ることも。認知面に著明な変化はありませんでしたが、院内FIM(機能的自立度評価法)は改善し、生活が安定しました。
 Bさんはアルツハイマー型認知症、右大腿骨人工骨頭術をした七〇代の女性です。病前は娘と同居で、ADLはほぼ自立。受傷前から認知症で、日中は臥床傾 向でした。日中・夜間ともに安全確認不十分なまま歩き出すなど、危険な場面がありました。自分の部屋を間違えることもありました。
 誤りを指摘されると「間違ってない」と怒り、指示の理解も困難で、不穏になりがちでした。スタッフの仕事を手伝おうとするなど良い面もありました。
 日中臥床傾向で閉鎖的なBさんでしたが、集団活動では他の参加者にていねいに接し、面倒見良く教える、自ら会話を楽しむなどの様子も見られました。怒りやすい面が出ても、周囲の声かけなどを通じて徐々に笑顔となり、落ち着くようになりました。

「自分の居場所」を認識

 二症例とも翌日には活動自体を忘れているものの、作業で使った物品を見ると思い出したり、昔の体験を話したり、集団活動による回想効果が得られました。
 「自分にもできた」という達成感が得られると、自己過小評価傾向が軽減、活動に気持ちよく参加するようになりました。セラピストが一対一でかかわったこ とも効果的でした。他者からの称賛が本人の心に届きやすくなり、自信につながりました。臥床時間も軽減し、身体機能面の維持、意欲も向上、受動的な姿勢が 能動的になりました。集団に対する刺激も自分のものとして受け取れるようになり、自分の居場所、生活の一部として認識できたと思います。
 集団活動導入前のAさんやBさんは、病室で寝ていることが多く、起きるといえば身の回りの事をする時ぐらいで、他者と話す機会はあまりありませんでし た。集団活動導入後は、病棟であいさつを交わしたり、他の患者と自発的に会話を楽しんだりする様子が頻繁に見られました。名前は覚えていないものの顔は覚 えており、「あの人とよく話すのよ」「あの奥さんも大変なんやなぁ」など、他者を気にかける言動も目立つように。「あの人のためにこうしたい」という意欲 も出てきました。
 エレベーターで徘徊してしまうことがありましたが、徘徊先がリハ室になり、「リハビリはいつ?」と聞いてくるなど、徘徊を院内にとどめることもできています。
 閉鎖的になることが多い認知症の患者にとって、楽しみながら行う集団活動は人との関わりの場となり、良い刺激です。

(民医連新聞 第1521号 2012年4月2日)

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