民医連新聞

2012年3月19日

閉塞感打破する主体者に 運動方針案説明 長瀬文雄事務局長 総会1日目

 本総会は新綱領策定後、最初の総会であり、「3・11」から一年後に開催される総会です。この二年間を振り返ると、総じて民医連綱領とその学習運動が大きな力になったと実感します。
 総会の任務は、(1)時代認識を一致させ、今日の閉塞感漂う時代を切り開く主体者としての役割を明らかにする(2)二年間の活動を振り返り教訓を導き出 すとともに、今後二年間の民医連のすすむべき方向を確認する(3)規約を一部改定する(4)役員選出や決算・予算を決める、の四点です。積極的に討議し、 その内容を決定に反映していく予定です。
 総会では「住民本位の震災復興と新しい福祉国家への展望」「平和と権利としての社会保障の実現」「原発ゼロなどの運動の『架け橋』」「健康権の実現をめ ざし、保健・医療・介護の総合的実践と医師をはじめとする担い手づくり」をキーワードに、三つのスローガンを提示しました。スローガンは方針案の趣旨を端 的に示したもので、キーワードは「架け橋」です。
 今、国内では「原発なくせ」「TPP参加阻止」「社会保障と税の一体改革反対」「米軍基地撤去」の大運動が起きています。各種問題の根っこには「対米従 属」と「構造改革」がありますが、運動している団体・個人がすべての課題で共通しているわけではありません。それぞれの「要求」「たたかい」の分野で、私 たち民医連が「架け橋」となり巨大な運動をつくろう、そしてその先に、憲法を活かした新しい福祉国家をつくろうとの決意を示しました。
 方針案は三章構成です。第一章は新綱領と三九回総会方針に沿って、この二年間にどんな活動を行ったのか、前進面とともに課題について分析。第二章は日本 の現状や社会保障のあり方について、この日本社会の中で「最も困難な人々」の状況を踏まえ、憲法や綱領の立場に立ち「変革者」の視点で分析し課題を提起し ています。第三章はそうした情勢や到達点を踏まえ、これから二年間の民医連運動の総路線ともいうべき方向を提起しました。

注目浴びた震災支援

 最初に東日本大震災と福島第一原発事故への対応について述べます。民医連の震災支援者は一万五〇〇〇人を超えました。支援では「21・老福連」とともに とりくんだ福祉避難所をはじめ、日本医師会、日本プライマリ・ケア連合学会、行政、大学など他団体との連携を重視しました。気仙沼市立本吉病院への医師支 援や、南相馬市での心のケアチームなどが典型です。各界から民医連の活動の「量と質」が注目を浴びました。
 昨年末に財務大臣から「坂総合病院の活動がなければ、あの地域は大変になっていた」とお礼を言われました。今も現地では仮設住宅などへの支援が続いてい ます。改めて現地の仲間の奮闘に敬意を表し、全国の支援に感謝します。三陸海岸地域はもともと医療過疎地であるうえ、今回の津波で医療機関や介護施設が大 幅に減りました。方針案では、この地域に民医連の事業所づくりを展望しようと呼びかけました。
 福島第一原発は事故から一年たっても、収束の見通しが立ちません。福島県民医連は、地域住民の生命と健康を守って奮闘しています。関東周辺や全国で自主 避難者の健康相談や生活相談が始まっています。桑野協立病院(福島県郡山市)の対策ニュースは二月一六日時点で二六六号に達しました。福島の仲間をささえ ようと全国から看護師支援や医師支援、リフレッシュ企画への招待、新鮮な食材の配送などが続いています。
 全日本民医連は四〇期の運動方針の第一義的課題として、「放射能汚染から国民の生命と健康を守り抜く」ことを掲げました。原発による放射能被害は長期の 課題で、この問題に正面からとりくむことは医療者の社会的使命です。低線量被ばくや内部被ばく問題を重視してきた民医連として、積極的に役割を果たしま す。
 郡山医療生協は「組合員、地域住民の健康を守るため、ホールボディカウンターを導入したい」と訴えました。全日本民医連は購入資金として義援金を送ります。
 福島県では知事が県単独事業として一八歳以下の医療費無料化を表明し、議会は「原発からの撤退」を決議しました。脱原発運動はこれまで経験したことのな いような人や団体が参加し、全国で広がっています。民医連の脱原発署名は四四万筆に達しました。「原発ゼロ」の一点で共同を広げ、マスコミも無視できない 大運動めざして奮闘します。

権利はたたかって獲得

 先日、札幌市で四〇代前半の姉妹が孤立死する事件が起きました。生活保護受給者は二〇七万人超、一〇〇〇万世帯が生活保護基準以下の生活です。
 構造改革で労働者の収入が減る一方、大企業の内部留保は過去最高の二六六兆円。リストラ、非正規化、法人税減税などが大きく影響しています。せめてこの 一割を社会のために使えば、消費税増税も社会保障の大改悪も必要ありません。国民に塗炭の苦しみを与えながら、大企業だけが富を蓄える社会は極めて異常で す。大企業が社会的責任を果たすことを強く求めます。
 一方、TPPでJA全中の幹部が民医連を訪問し共同してたたかうことを確認しました。TPPに反対する日医とJA全中両会長の共同記者会見は、時代の大 きな変化の表れです。「震災復興・医療再生」を掲げたドクターズ・デモンストレーション2011は、医師八〇〇人以上が参加する半世紀ぶりの集会となりま した。世界中で「九九%の市民の幸せを求める」運動が広がっています。
 現代はまさに「せめぎあい」の時代です。大震災では一万六〇〇〇人近い方が亡くなり、三〇〇〇人以上が行方不明です。福島原発事故によって十数万人が故郷を追われ、厳しい生活を余儀なくされています。
  大震災と原発事故を経験した国民に改めて突きつけられているのは、これまでの延長である「人間を大事にしない国」を続けるのか、それとも「原発のない、い のちや人間をなによりも大切にする国づくり」をすすめるのか、という問題です。もちろん民医連の立ち位置は明確です。ただし、黙っていて実現するものでは ありません。
 この岡山は半世紀前、朝日茂さんが当時の生活保護基準は憲法二五条違反と裁判を起こした地です。憲法制定後、初めて二五条を問う裁判でした。一九六〇年 の東京地裁判決は「最低限度の生活水準を判定するについて注意すべきことは、その時々の国家予算の配分によって左右されるべきものではなく、国はこれを指 導すべきもの」と、原告勝訴を言い渡しています。
 判決を機に生活保護費が月六〇〇円から二七〇〇円に上がりました。判決文を書いた裁判官は「生活保護基準の大幅な向上をもたらしたのは、朝日さんの勇気 です。裁判がなければ朝日判決もなかった」と述べました。たたかいや粘り強い運動が権利を獲得する今日的な教訓です。このことを肝に銘じたいと思います。

健康権と生存権

 共同組織の仲間が三五〇万人になりました。私たちの最大の宝です。「地域包括ケア」が重視される時代に、「自己責任」や「助け合い」を基調とした「地域 づくり」ではなく、公的責任を明確にし、地域住民が安心して住み続けられるまちにしなければなりません。「地域が主戦場」となります。民医連の事業所と共 同組織が今以上に地域になくてはならない存在として、大いに役割を発揮することを呼びかけます。
 運動方針案は「健康権」の実践を呼びかけました。健康権を保障するには、WHOの「健康を阻害する社会的決定要因」に照らし、日本社会や被災地の現状を 考える必要があります。戦争、飢餓、貧困をはじめ、社会的格差や長時間労働、ストレス、失業、交通手段、社会的排除などが健康を阻害する大きな要因です。
 健康権は国際人権条約に規定された権利で、「全ての人々が、到達可能な最高水準の身体的、精神的健康を享受する権利」と規定、「人間の尊厳」「個人の尊重」「無差別・平等」など人権の基本原理を重視しています。決して生存権と矛盾する考えではありません。
 全日本民医連は貧困と格差、少子・超高齢社会に立ち向かう「医療活動の八つの重点課題」を提起しました。憲法の立場に立つ震災復興や原発被害に立ち向か う医療活動、医療・介護の質の向上、アスベスト問題や水俣病、原爆症、薬害、健康づくりの運動などは健康権の具体化です。方針案は民医連が長年実践してき た活動を、健康権保障という立場からさらに深化させ実践しようと呼びかけました。
 日本歯科新聞は「口腔から人を社会を診る歯科医師達は、診療所を出て地域に飛び込んで行く。それは歯科医療本来の役割に真正面から向かっていく、時代を 変えるチャレンジである」と民医連の歯科医療を評価しました。このように、全国で数多くの実践が積み上げられています。

医師養成と確保の課題

 民医連の職員は七万三〇〇〇人を超えました。二年前より五五五〇人増で、中でも介護やリハビリ関係は三一〇〇人増えました。新綱領で医療活動と並ぶ柱と して位置づけた介護分野や、重視してきたリハビリテーション分野の活動の反映です。また、看護職員も増加し、新卒看護師入職予定は一〇三四人と九年ぶりに 千人の大台に。奨学生数も過去最高となりました。
 新卒医師は今春一五〇人以上の入職が予定されています。また、奨学生数は現時点で四一七人になりました。一、二年生の奨学生数はこの一五年間で最高の到達です。「オール民医連」の力を結集したこと、民医連の医療や介護活動を前面に押し出した結果です。
 しかし、これらの活動は緒についたばかりで、決して充分ではありません。七大学には奨学生がいません。方針案は七九の医学部すべてに奨学生を生み出し、 五〇〇人以上の奨学生とすること、そして奨学生とともに医療や社会を学ぶ活動にとりくもうと呼びかけました。ぜひ、具体化しましょう。

研修病院存続のたたかい

 年間入院数が三〇〇〇件以下の中小病院を臨床研修から閉め出す方針に対し、私たちは「中小病院でもしっかり研修はできる」と運動を強めてきました。その 成果として厚労省の調査班ができました。調査対象の六病院中、三病院が民医連でした。いずれも高い評価で、調査報告書は「理想に近い研修環境のもと、研修 医が意欲的にとりくみ、成長している。『三〇〇〇件以上』という基準に何の意味があるのか、むしろ中小病院の方が優れているのではないか」と記述していま す。
 一二四床の宮崎生協病院は県内で三番目に多い研修医を受け入れています。宮崎では臨研病院、医師会、県議会など「オール宮崎」で宮崎生協病院を臨研病院として残そうと運動が起きました。四万筆の署名を集め、県とともに日高明義院長が厚労省に提出しました。
 これまで民医連運動の中心を担ってきた医師が、数年後には第一線を退く時期を迎えます。研修医を育てること、そしてこれからの民医連運動の担い手として 育てることは、引き続き最重要課題です。「民医連の医療・介護」活動と「医師養成」を一体のものとしてすすめることは、方針案の重要なキーワードです。全 日本民医連医師臨床研修センター「イコリス」を立ち上げましたが、真価が問われるのはこれからです。

事業所存亡の危機

 診療報酬・介護報酬の二〇一二年度改定案が出ました。この改定は別紙にあるように、極めて不十分であるとともに、「二〇二五年」を見据えた「一体改革」 の先取りそのものです。たたかいを重視しつつ、事業を運営している立場から内容を深く分析し、具体的な対応に活かしましょう。
 また、消費税が一〇%に上がれば、診療報酬や介護報酬に転嫁できない医療、介護の事業所は存亡の危機に立たされます。東京・健生会は今でも一億八〇〇〇 万円以上の消費税を負担。倍になれば四億円近い負担です。この一〇年間だけで、九二〇〇あった病院が一五%近く減少しました。その流れに拍車をかける増税 に断固反対します。
 方針案では「経営の質」を取り上げました。質は利益の大小で判断されるものではありません。方針案は「民医連の事業所が非営利・協同の事業体として人権 を守ること、綱領実現のために職員や共同組織の参加・協同が追求されていること、たたかう組織であること」と述べ、「経営の質」は「組織全体の質」であ り、あらゆる「活動の質」であると提起しています。

示した綱領の力shinbun_1520_01

 無料低額診療事業の実施事業所は、現在二七七カ所になりました。この制度で多くの方の命を救っています。高知市は高知県下で唯一無低診を実施する潮江診 療所について、昨年から保険薬局での薬代の助成を始めるとともに助成金を支給しました。同診は助成金を使い、無低診のラジオCMを作成しました。
 無低診のとりくみは室料差額を徴収しないことと併せ、民医連の象徴です。さらに多くの事業所が挑戦することを呼びかけるとともに、先進国では例を見ない多額の窓口負担の軽減を求め運動を強めましょう。
 無差別・平等を掲げる民医連の特徴として「最も困難な人々の立場」で地域や社会をみることと、「寄り添う」ことがあげられます。先日、『自殺未遂者 樹 海からの生還』という手記を読みました。著者は失業しホームレスになって、青木ヶ原の樹海を二週間さまよった末、民医連の大田病院に担ぎ込まれました。
 著者はこう記します。「初めは耳を疑いましたが、少しずつ嬉しさがこみ上げてきて涙が止まりませんでした。お金がなくても診てくれる病院もあるんだな、 本当の病院があるんだなと熱くなりました。テレビドラマに出てくるような病院と違い、院長先生は徒歩で通勤しています。とても良い病院でした」。これは大 田病院だけの話ではありません。民医連綱領そのものの力だと思います。
 二〇一一年国保等死亡事例調査で、手遅れ死亡は六七人でした。いずれも「助かったはずの『いのち』」です。保険証を取り上げられたり、高い窓口負担で受診をがまんしたケースです。社会から排除され孤立されていた方が大半です。
 社会保障や国づくりを巡る対決軸は鮮明です。多くの方々と力を合わせ、憲法が活きる社会保障の拡充をめざします。今、「全日本民医連の医療・介護の再生プラン案」の見直しを行っています。

やり抜いた利根支援

 利根中央病院の支援を一年間、やり抜きました。支援医師は九〇人以上に上り、医師支援ニュースは四八号まで発行されています。支援する側もされる側も本当にがんばったと思います。支援を通して大きな変化が生まれています。
 同院は一月、千葉県立東金病院の平井愛山院長を招き「医療崩壊からの病院再生」をテーマに学習会を開催、地域の医師会員も多く参加しました。私たちが支 援に当たって掲げた「利根・沼田地域の医療を守る」活動の広がりを示しています。群馬民医連は県連の課題として位置づけ、新たな動きが始まっています。全 日本民医連として、今後も必要な援助を行っていきます。まさに「全国は一つ」の活動です。
 以上、方針案を深めるために中心的な課題について提案しました。積極的な議論をお願いします。

(民医連新聞 第1520号 2012年3月19日)

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