民医連新聞

2012年3月5日

第40回総会 学ぼう!運動方針 (3)医師養成 医師養成は民医連運動の要 ――2年間で新しいとりくみも

 民医連運動の要でもある、医師の確保と養成。常勤医師数が初めて減少に転じるなかで開かれた二年前の三九回総会では、この問題を 「克服すべき最大の課題」と位置づけ、「オール民医連」でとりくむことを確認しました。その現状と課題は―。全日本民医連の遠藤隆事務局次長に聞きまし た。

39期を振り返って

 民医連はこれまで、独自の医師研修で四〇〇〇人以上の医師を育ててきました。しかし、 二〇〇〇年初頭に四五〇人前後だった民医連の奨学生数は、〇九年に三六三人に減少。研修医のマッチング数も〇四年の二一九人をピークに〇九年は一四八人、 また、後期研修へ進む割合も減っていました。
 経営問題に直面する事業所は多くの場合、背景に医師問題があります。地域医療に責任を持つ医師体制を維持できないことが、経営にも影を落としていました。
 前総会では、医師養成を「最重点の課題」と位置づけ、文字通り「オール民医連」の立場で挑戦してきました。一〇年度には全国統一新入医師オリエンテー ション、翌年度には、二年目研修医を対象にしたセカンドミーティングを開催しています。民医連の全国ネットワークを活かし、各地の研修情報などを発信する 全日本民医連医師臨床研修センター「イコリス」を一一年に立ち上げ、ホームページを開設しています。
 奨学生は低学年を中心に四〇〇人台(ここ一〇年では最高)に回復。後期研修に残る率の低下を食い止め、特に低学年からの奨学生は七五%が定着していま す。高校時代からかかわりを持ち、民医連運動への積極的参加や民医連らしい初期研修・後期研修を充実してきたことが教訓です。
 新医師臨床研修制度(〇四年~)のもと、民医連は全国で一三一八人の初期研修医を受け入れ、二年間で総合的な臨床能力を身につけることをめざし、満足度 八〇%以上の高水準の研修を行っています。しかし、厚労省は同制度の見直しに着手し、「年間新規入院患者数三〇〇〇件」以下の中小病院を研修病院から外す ことを打ち出しました。民医連の研修病院の三分の一が排除される事態です。
 前総会以降、他の医療団体などと連携し、中小病院を研修病院として守れと運動してきました。宮崎県では、一二四床ながら県内三番目の受け入れ実績の宮崎 生協病院を研修病院として存続せよと、県ぐるみの運動になっています。
 制度見直しを検討する厚労省研究班の事前調査では、六病院中三病院が民医連の病院(城北、汐田、上戸町)で、大学病院以上に良質の研修だ、との評価を得 ました。同省は研修制度確定のための本調査を、全国三〇の中小病院を対象に実施。「研修病院として適している」と評価された病院は、今まで通り「基幹型臨 床研修病院」として存続を許可する見込みであり、大きな成果です。

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利根支援、震災支援

 大学医局からの派遣医師引き揚げなどで、急激に医師数が減少した群馬・利根中央病院。診療の維持も危機に陥り、民医連脱退を検討する動きも出ました。
 全日本民医連は県連や現地、大学から派遣された医師などとも懇談を重ね、医師退職の直接の原因は民医連加盟とは無関係であることを確認。全国支援を決定 し、昨年四月から一〇〇人近い医師を派遣してきました。民医連の歴史でも最大規模の支援です。
 全国から支援に入った医師の多くが指摘しているのが、地域にとって唯一の総合病院・中核病院である利根中央病院なくしては、地域の医療が崩壊し、地域そ のものの崩壊につながりかねないということです。この全国支援を成功させることが、共通の目標になりました。
 支援医師が、地域の拠点病院としてのあり方を学んだり、各地の医師が集まることで交流がすすむなどの経験も。利根中央病院の看護師は、支援開始直前に東 日本大震災があったにもかかわらず、約束通り四月一日から支援医師が来たことで、「民医連が私たちのために本気になって動いていることを実感し、感謝の思 いでいっぱいになった」「新しい風に触れ、改めて民医連看護とは何かを考える機会と、がんばる力をもらった。職員全員で病院再建にとりくみ、患者により良 い医療を提供し、地域医療を守りたい」と話しています。
 地域医療を守るために必要な医師の確保と養成は、民医連の多くの病院が抱える共通した課題。利根中央病院独自の困難はあったものの、全国的な医師不足の 中で起きた問題という側面も重視し、教訓を引き出すことが重要です。
 東日本大震災の支援では、民医連は日赤に次ぐ大規模で長期的な支援を展開してきました。民医連外の市立本吉病院(宮城・気仙沼市)への支援や、福島への 心のケアチーム派遣などは、他の医療団体からも高い評価を受けました。民医連の枠を超えた支援に多くの医師や研修医、医学生が参加し、僻(へき)地医療の 守り手としての将来を考えるようになった若手医師や医学生も生まれています。

「オール民医連」で本格的前進に踏み出そう

 一定の前進に踏み出した二年間でしたが、この動きはいまだ端緒であり、本格的なとりくみはこれからです。
 一〇年六月の医師の確保と養成に関する全国会議(伊東集会)では、「地域医療のスペシャリストとして、総合性を自らの専門として高い力量を持つ家庭医・ 総合医と、総合的基礎力を備えた専門医をバランス良く育成する」との基本方針を確認。医療活動の八つの重点課題(二月二〇日号参照)や健康権の実現を担う 医師の確保と養成が求められます。これらを、わかりやすく研修医や医学生に伝えていくことが大事です。
 医師の確保と養成は、民医連全体でとりくむ課題です。「地域の中で育てる」「全職種で育てる」ことを重視し、共同組織とも協力して、この課題に挑戦しま しょう。第四〇回総会方針は震災支援や利根支援を通じて得た教訓から、「現場や地域で生活する人々が求める医師づくり」にこそ医師養成の本道があると強調 しています。
 そのうえで、民医連の医療活動と医師養成・医学対を一体で医学生に語ろうと呼びかけ、(1)震災・原発・貧困・超高齢社会などの社会問題に対し、地域に 根を張って活動する民医連の医療と運動、理念と実践を語り、医師としての生き方を問題提起しよう、(2)地域医療のプロフェッショナルづくりをめざす研修 の優れた特徴を示そう、(3)全国は一つの立場で連帯し、かつ地域や医療界に開かれた民医連の組織的特徴をわかりやすく伝えよう、としています。
 震災の被害が大きく、かつ医療空白地域である三陸地方沿岸部に民医連の事業所を建設することも展望しています。被害の大きかった地域は、もともと構造改 革で地域が崩壊寸前に陥り、医師不足も顕著でした。そうした構造改革路線に抗し、その地域を拠点に、地域医療の担い手としての医師養成を念頭に置いた提起 です。
 全日本民医連と北海道・東北地協は、福島県民医連からの医療生協わたり病院への医師支援要請を受け、積極的な検討に入っています。地域が空洞化し、医療 従事者も減少傾向にあるこの地域で、放射能被害を明らかにしつつ、医学的ケアにもとりくみ、住み続けている住民の健康要求にこたえ、医療機能を保っていく ことが目的です。

(民医連新聞 第1519号 2012年3月5日)

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