民医連新聞

2012年2月6日

フォーカス 私たちの実践 医療安全対策をすすめよう(5) 熊本・特養ホームたくまの里 服薬介助のルール見直しカレンダーの工夫で誤薬を減らす

 熊本市の特別養護老人ホーム「たくまの里」では、服薬の際の介助手順を見直し、誤薬の発生を減らしています。利用者へ服薬介助を 行う介護施設では、誤薬防止は共通した課題。第一〇回学術運動交流集会で、獅々田武志さん(介護主任)と魚谷康洋さん(生活相談員)が発表しました。

 当施設の食事介助は、一~二人の介護職員が一ユニット(約一〇人)の利用者を介助する体制 です。利用者の介護度は平均四・一で、全介助が必要な人は一ユニット二~三人です。食事介助中でも、トイレ誘導やナースコール対応など、職員は時間に追わ れながら複数の介助をしなければなりません。そのため、利用者の名前の確認という基本的な作業でさえ、おろそかになることがありました。
 食事の前後に行うのが服薬介助です。介助のルールは決めていましたが、食前薬の飲み忘れや時間帯の間違い、利用者の間違いや服薬漏れ等があり、ひと月あ たり平均二・一件(二〇〇九年四~一二月)の誤薬が起きていました。
 主な原因は職員の注意不足でした。全職員に誤薬の危険性等について学ぶ機会を設けつつ、事故防止委員会で対策を講じました。しかし、なかなか減少せず、 二〇〇九年に事故防止委員会で服薬介助マニュアルを改定しました。改定前の手順は以下の通りです。
 看護師が利用者の一日分の薬を朝・昼・夕・就寝前と仕切りをした薬ボックスにセットし、介護職員に渡す。その際、利用者名と服用時間帯を確認する。
 服薬時に、介護職員が薬ボックスから、その時間帯に服薬する全員分の薬を取り出してトレーに並べ、食事が終了した利用者から順番に服薬介助をする。 (1)利用者の顔を確認し、(2)声を出し薬袋を読み、(3)可能な利用者には返事をしてもらう―というものでした。

服薬カレンダーを導入

 服薬介助の見直しとして、「服薬カレンダー」を導入しました。
〔見やすさの工夫
・一ユニット全員の一日分の薬がひと目でわかるように、縦に利用者名、横に服薬時間の「朝食後」「昼食後」「夕食後」「就寝前」というように、透明ポケッ トを配列する。薬のない人はポケットに「薬なし」のカードを入れる(写真1)。
・服薬時には、該当する時間帯の列だけが見えるように、目隠しシートを張る(写真2)。
〔取り扱いの工夫〕
・服薬後の空袋はポケットに戻し、全員の服薬介助が終わったあとに破棄する。
・服薬終了後は、カレンダーを利用者の手の届かない場所に移動させ、保管する。その際、もう一度ポケットを確認し、飲み忘れ等がないかチェックする。
〔介助時の注意〕
・ポケットから薬を取ったら、利用者の口に入れるまで他の業務は一切しない。
・薬を取る際には必ず声を出し、利用者名と時間帯を確認する。
 手順を明記した服薬マニュアルを全職員に配布し、全体会議でマニュアルの説明をしました。

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誤薬は以前の半分に

 手順の見直し後、誤薬は半減し、月平均一・〇件(二〇一〇年四~一〇月)となりました。
 服薬カレンダーを食前に保管場所から使用場所に移動するため、移動の際にポケットを確認するようになり、食前薬の飲み忘れも減少しました。目隠しシート を使用すると、必要のない薬が視野に入らないうえ、シートをめくらないと薬を取り出せないことから、違う時間帯の薬を誤って渡すミスも減りました。
 一方、就寝時には、服薬カレンダーを移動しないため、服薬漏れがありました。また、マニュアルを実行した時の誤薬はゼロですが、マニュアルが守られず、ミスが発生したケースがありました。

ヒューマンエラー減らす

 介護者が時間に追われたり、意識が別のことに向いていたり、注意力が鈍っている状況でも、確実に服薬介助を行えるようになり、ルール見直しで一定の成果が見られました。「ヒューマンエラーの防止」という観点では、服薬カレンダーの効果は高いと評価できます。
 一方、スタッフの意識が継続しない、マニュアルを守らないスタッフへの教育をどうすべきかなど、今後の課題です。今の方法でも起こっている服薬ミスの原 因を分析し、服薬マニュアルに改良を加え、利用者が安心して暮らしていけるよう、誤薬ゼロにとりくんでいきたいと思います。

(民医連新聞 第1517号 2012年2月6日)

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