民医連新聞

2012年2月6日

“三食が弁当”の避難所で管理栄養士が献立支援 発被災の双葉町民に―医療生協さいたま

 東日本大震災から一年近く経つ今も、避難所暮らしの被災者がいます。原発立地の双葉町の町民約六〇〇人は、埼玉県加須市の旧騎西 (きさい)高校で教室に畳を敷いて生活しています。食事は三食とも業者の弁当。揚げ物中心のおかずで体調を崩す高齢者もいます。同町職員から「栄養バラン スを考えたメニューを提供してほしい」との要望を受け、医療生協さいたまの管理栄養士が献立支援に乗り出しました。(新井健治記者)

町役場ごと避難して

 震災による全国の避難者約三四万人は仮設住宅や公営住宅へ移り、旧騎西高校は残された最後 の避難所です。福島第一原発五、六号機がある双葉町の町民は、昨年三月一九日にバスで埼玉県のさいたまスーパーアリーナに避難。三月末には役場機能ごと廃 校になっていた旧騎西高校に移動しました。
 当初は一四〇〇人いた住民も、近隣のアパートや福島県内の仮設住宅に移り半分以下に。残ったのは単身の高齢者や経済的に困っている被災者で、ほかに行政機能から情報を得やすい利点があり、残る人もいます。
 五階建ての校舎は最寄り駅から遠く、周囲は田んぼが広がります。四~六世帯がいっしょに暮らす教室内は仕切りがなく、着替えは廊下に置いた段ボール箱の 中で済ませます。町民は「プライバシーがなく、人間関係が大変」と訴えます。
 原発から三kmに自宅のあった女性は「私は毎日掃除をしたいが、掃除機をかけるのも同室の住民に気を遣う」とため息。原発があるため、故郷に帰るめどが まったく立っていません。避難の長期化でストレスがたまり、思わぬトラブルが発生することも。
 それでも、四月に比べれば住環境は一定程度改善されました。校庭に仮設のお風呂ができ、洗濯機もあります。問題は食生活です。

町民の8割に健康問題が

 昨年六月に埼玉県内の大学病院が四〇歳以上の町民を検査したところ、八割に高血圧や脂質異 常がありました。双葉町は埼玉県栄養士会の協力で弁当の栄養バランスを分析、野菜不足や塩分過多が分かり、業者に改善を要望しました。多少は良くなったも のの、相変わらず揚げ物の多いメニューと固いごはんは変わりません。
 糖尿病患者や咀嚼に問題のある人だけでも手作りの食事にできないかと、同町職員が埼玉県と相談。さいたまコープが食材を提供できることになり、メニュー の作成が課題となりました。そこで、同コープが医療生協さいたまの管理栄養士を推薦。昨年九月に同医療生協が町と懇談し、緊急に対策が必要な二〇人に絞っ て、献立支援が始まりました。
 ともに管理栄養士で、同医療生協医療事業部の松本真子さんと、埼玉協同病院食養科科長の吉田昭子さんがメニューを考案。避難してきた町の給食センター職員が校内の調理実習室で調理します。
 調理員不足と廃校後の設備の乏しい調理場のため、当初は献立内容が限られていました。調理済み食品も使うなど工夫を重ね、町職員と相談しながら温かいも のや食べやすいメニューを考案。平日のみだった調理も、毎日できるようになりました。
 献立例を挙げると、鶏肉と冬瓜の煮物、大根とリンゴのサラダ、ほうれん草のごま和え、鯖の味噌煮など、病院食を参考にしています。「限られた条件の中 で、栄養バランスを考え変化をつけることに苦労しています」と松本さん。
 提供は朝食と昼食のみですが、「もう、以前の弁当は食べられない」と町民から喜びの声が。献立支援を受けた糖尿病患者のHbA1cが一二%から六%に下 がったり、インスリンが不要になるなど大きな効果が出ています。

今後も支援続ける

 しかし、町の調理員数が足りず、夕食は相変わらず弁当です。また、支援対象でない町民の中からは「お金を払ってでも、手作りの食事を食べたい」との声も。既に一年近く弁当で、このままでは多くの住民の健康悪化が心配です。
 朝食は毎日冷たいおにぎりのため、飽きた子どもは菓子パンを食べたり、食べずに登校することもあります。「せめて、味噌汁だけでも飲ませたい」と、町の調理員やボランティアが作っています。
 松本さんは「成長期の児童、生徒にとっては、間食も含め食生活は心と体を成長させる大切なもの」と言います。限られた被災者への支援から、全員が温かい食事をとれるように環境改善が求められています。
 町では調理場を整備したい考えですが、避難所の制約から実現は容易ではないようです。同医療生協は埼玉県社保協とともに「県政要求行動」で改善を申し入 れています。本来は臨時であるはずの避難所生活が異例の長期にわたっており、行政の災害対策の不備が、弱い町民にしわ寄せされています。
 「憲法で保障された健康で文化的な最低限度の生活のためにも、食事の確保は重要な課題」と松本さん。
 ボランティアを組織し、支援してきた同医療生協看護部長の牛渡君江さんは「避難所であっても、人権が守られる環境が必要です。併せて自分たちの“まち” を守っている職員や町民の心に寄り添う支援が求められます。医療生協として、放射能による晩発性障害を視野に入れたがん検診や全日本民医連『私の行動記 録』ノートの普及、口腔内を含め全身をチェックする健診メニューを提案したい」と話しています。

(民医連新聞 第1517号 2012年2月6日)

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