民医連新聞

2012年1月23日

緊急連載 「社会保障・脱一体改革」を読む (5)介護 「軽度者排除」を加速

 「効率化」と「重点化」をうたう「社会保障・税一体改革」。介護の分野では、何を“効率化”していくのか。介護保険導入から一〇年余。この間、ずっと続けてきた「軽度者の排除」という流れを、政府はさらに加速させようとしています。(丸山聡子記者)

▼「給付の削減」が大目標

 「一体改革」には、団塊の世代が七五歳を迎える二〇二五年までに、「要介護認定者数を現行 ベースより三%減少」させるという案が盛り込まれています。先に削減目標を決めてしまい、あとは「どうやって減らすか」に知恵を絞る―。こんなやり方で は、介護が必要な人を制度から排除することになりかねません。
 既に厚生労働省は、一体改革に基づき、介護の抑制を具体化する方針を打ち出しています。在宅の利用者には▽要支援1・2の人の利用料を一割→二割へ▽ケ アプラン作成を無料→有料へ、など。施設入所者も▽要介護1・2の人の利用料を一割→一部二割へ、▽二~四人部屋の室料を一万円→一万八〇〇〇円程度へ、 などです。

▼生活援助は45分?!

 「これでは在宅介護が骨抜きになる」と批判が強いのが、ヘルパーが行う生活援助(調理、掃 除、洗濯、買い物など)の提供時間を、現行の六〇分から四五分に縮める提案。厚労省が根拠とした調査は、「洗濯一六・六分」「調理・配下膳三二・二分」な ど、行為別に算定したものでした()。
 東京・すこやか福祉会訪問介護事業部長の須加千恵子さんは、「生活援助とは、利用者の生活を丸ごとささえること。厚労省は行為別に生活を切り刻み、計算 しているが、本来、衣食住は切り離せるものではない。発想自体が大問題です」と指摘します。
 須加さんは二〇年以上にわたり、在宅の患者や高齢者をささえてきました。食事ひとつとっても、その人の意欲やADLの維持・改善に大きく影響します。 「そうした援助では、行為別の時間計算でははかれないコミュニケーションが重要」と言います。
 長年の経験から、きめ細かな生活援助が利用者に大きな効果を発揮することを実感しています。部屋にぽつんと座り、意欲をなくしていた人が、食べたいもの を口にしてから部屋の片付けなど生活に意欲を取り戻したこと。一人暮らしの七〇代の男性が、肉じゃがを食べたとき「何十年ぶりだ。王様みたいだ」と語った こと…。
 夫婦二人で妻が認知症の世帯がありました。食べたいものを聞いても妻は答えられませんでしたが、須加さんが大根を見せて「何を作りましょうか」と聞くと 「味噌汁」と答え、切り方を一つひとつ聞きながら、いっしょに調理をしました。
 夫は「こんなに生き生きした妻を見るのは久しぶり」と喜び、自分も調理に挑戦するようになり、配食サービスが不要になったこともありました。
 「身体機能が低下しても、何を食べるかということは自分で決められる。一人ひとりの背景を知り、人生のあり方をささえることは尊厳を守ることであり、在宅ケアの本質です」と須加さん。

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▼サービス切り捨てやめよ

 全日本民医連の林泰則事務局次長(介護福祉部)は、「複合的な援助を行為別に切り分ける発想には、利用者をささえている生活援助を軽視し、介護保険から外してしまおうという意図が見え隠れします」と指摘します。
 全日本民医連は、生活援助の時間短縮などサービス切り捨てをやめ、現場で高齢者の生活をささえる介護職員の処遇を改善すること、介護報酬の引き上げなどを求めています。(連載おわり)

(民医連新聞 第1516号 2012年1月23日)

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