民医連新聞

2011年12月5日

駆け歩きリポート 山梨 患者の不安に自信をもって応えるために 民医連初「医療被ばく低減施設」認定 甲府共立病院

 安全で安心な放射線診療を提供しようと、甲府共立病院(山梨県甲府市)は昨年六月、民医連で初めて社団法人「日本放射線技師会」 から「医療被ばく低減施設」(別項)に認定されました。検査や治療に役立つ医療による被ばくと単純に比較はできませんが、福島原発事故で住民の被ばくへの 不安が強くなる中、県内初、全国でも二一番目と先駆的なとりくみです。(新井健治記者)

説明用ツールを独自に作成

 甲府共立病院放射線室主任の佐藤洋一さんに、認定までの経緯や受審して良かった点を聞きました。医療被ばく低減施設の認定には書面審査と訪問審査にパスしなければなりません。同院が受審した背景には、医療安全や情報開示などに対する患者自身の意識向上があります。
 佐藤さんは「以前は患者さんから『レントゲン検査で放射線を浴びても、大丈夫か』と聞かれた時に、『普通に生活していても、自然界から浴びており心配あ りません』と説明していましたが、本当に不安に応えているのか不透明でした」と振り返ります。
 放射線室職員は、データに基づき科学的に説明できるよう、検査の被ばく線量を把握しました。パソコンの計算ソフトを使い、放射線照射が組織・臓器に与え る線量を算出。一般撮影やマンモグラフィ、CTなど、検査ごとに代表的な撮影部位と組織・臓器別の線量を一覧表()にしました。胸部の一般撮影の場合、線量は肝臓〇・〇五、甲状腺〇・〇二、骨髄〇・〇二になります(いずれもミリグレイ)。
 受審に向け、放射線について患者に分かりやすく説明できるよう、独自のツールも作成しました。線量の一覧表のほか、「繰り返し検査しているが大丈夫?」 「心臓CT検査は線量が多いのでは」など想定される質問と回答、被ばくの確定的影響と確率的影響の違いなどをQ&Aにまとめ、ラミネート加工して放射線室 に常備。職員が持ち歩けるポケットブックも作り(写真)、いつでも説明できるように工夫しています。

shinbun_1513_07

医師との連携もすすめ

 認定をめざした理由には、同院ならではの事情もあります。同院は心臓カテーテル検査を年間 約八〇〇件と山梨県内で最も多く手がけています。他院ではカテーテル治療(PCI)中、長時間透視による皮膚障害も起きており、こうしたケースを起こさな いよう安全性が求められていました。
 「PCIの最中などは、医師が手技に集中するあまり、透視時間が延び、不必要な被ばくが生じる可能性があります。認定を受けたことで、医師が診療放射線 技師に被ばくの防護方法を聞いたり、技師が医師に透視時間をアドバイスすることもあります」と佐藤さんはその効果を強調します。
 検査のデジタル化がすすんだことも、認定を受けたひとつのきっかけです。旧来のアナログ撮影では、照射量が多いと画像が真っ黒になって読影できません。 ところがデジタル撮影では、機器が自動で調整し、照射量が多いほど画像は鮮明になります。
 同院のある甲府市では今年九月、市立甲府病院が一五歳以下の子ども八四人に、放射性物質を過剰に投与した事件が発覚しました。管理体制に問題があったと みられていますが、安易に撮影機器の性能に頼ったことも事件の背景にはありそうです。
 佐藤さんは「受審に向けたとりくみの中で技師の被ばくに対する意識が向上しました。最小限の線量で済むように、機器や精度の管理を徹底するようになりました」と話します。

技師が患者に近づけた

 こうした努力が認められ、審査では同院を訪問した認定サーベイヤーから高い評価を得ました。「受審の成果はさまざまありますが、分かりやすい説明に努めたことで、患者さんに一歩近づけたこともその一つです」と佐藤さん。
 ただ、認定を受けたことがあまり知られておらず、院内外に向けたアピールが今後の課題です。「医療被ばく低減施設は、民医連綱領にある『親切でよい医 療』にも沿ったとりくみ。民医連内ではまだ、当院以外で認定を受けた事業所はありません。ぜひ、他の事業所でも認定を受けてほしい」と期待します。


 医療被ばく低減施設 診療放射線技師の職能団体「日本 放射線技師会」が二〇〇七年に始めた制度。審査内容は医療被ばくガイドラインに沿った検査・治療における放射線防護の最適化の確認、患者の被ばく線量に関 するデータ評価が中心で、書面審査と認定サーベイヤーの訪問審査がある。医療被ばくに特化した認定は世界でも初めて。
 認定期間は五年間で、一一月末時点で全国で三一施設が認定されている。


医療被ばく低減施設認定の成果
(1)検査の被ばく線量(主な組織・臓器)の把握
(2)技師が被ばく等の質問に迅速かつ統一した回答ができる
(3)データに基づき被ばくの影響を適切に説明できる
(4)最小限の線量で済むように機器と精度の管理を徹底
(5)技師の被ばくについての意識が向上した

(民医連新聞 第1513号 2011年12月5日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ